「ええ...ミッション・コーディネーターの折原マチコです...発射10分前。全て異常
なし。カウントダウンに入ります...」
マチコは、コンソールのブルーのボタンを、グイと押し込んだ。大型スクリーンのヘ
ッドラインに、カウント・ダウン数字が表示され、秒単位が急速に流れ始めた。
「響子さん、ボスはまだこちらへ到着していないのでしょうか?」マチコは、ヘッドフォ
ン付きのマイクで尋ねた。
「はい。ボスは、来られないと回答してきました。現在、高杉塾長が、オブザーバーと
して、航空・宇宙基地に入っています。まもなく、ロケット発射台の方に到着の予定で
す」
「了解。ポンちゃん、状況はどうでしょうか?」
「この宇宙服はちょっとでかいよな。脚が長すぎるよな...」
「NASAのジェット推進研究所に紹介してもらったら、それしかなかったの。我慢して
下さい。ええ、響子さん、最終気象状況のチェックをお願いします」
「はい。風速は南南東の風3.2m、気圧1015mhPa(ミリ・ヘクトパスカル)。航空機な
し。流星深度...クリアー。全て異常なしです」
「了解。支折、ロケットの方はどうでしょうか?」
「はい、ええ...異常なし。燃料充填完了。補助ロケットエンジン点火まで、約五分」
「了解。ええと...ヘリコ君、基地周辺に異常はないでしょうか?」
「異常ありません。カラスが一羽飛んでいきましたが、見えなくなりました」
「...?...ブラッキーは、一緒ではないの?」
「はい。私ひとりです。私にパイロットは必要ありません。それから、機内は禁煙です
ので、タバコを吸っているカラスは搭乗を拒否しました」
「ブラッキーは、何処にいるのでしょうか?」
「ブラッキーは、第2編集室“国際・軍事情勢”のヘリに乗り込み、待機しています」
「了解。ええ...ブラッキー、聞こえますか?」
「ああ、聞こえるぜ。ポン助の野郎、ビビッてるじゃねえか...フッフッフッ...」
「ミッション・コーディネーターが、マチコだからだよな...」ポン助の緊張した声が流
れた。
「アラ?ポンちゃん、そんなことを言っていいの?」マチコが言った。「高圧電流を流す
わよ!」
「フアッハッハッ!」ブラッキーの低い笑い声が響いた。
「と、と、とにかく、緊張するよな...」
「あ、今、高杉塾長が到着しました」響子が言った。「塾長、よろしくお願いします」
「うむ。順調かね?」
「はい」
高杉は、響子の横の椅子に体を沈めた。
「頑張ってね、ポンちゃん!」支折の声が入った。
「お、おう、」
「うーん...失敗したらゴメンね、ポンちゃん」マチコが言った。「先に、謝っておくか
ら、」
「や、野郎、マチコ!」
「失敗したら、ポンちゃんは、デジタルデータで回収するから、」
「しっかりしてくれよな!」
「マチコ、発射よ」響子が言った。
「あ、はい...」
「・・・メインエンジン点火・・・5、4、3、2、1、発射・・・・・」
ロケットは、もうもうと白煙を吐きながら、ゆっくりと青空へ上昇していった。
「・・・20秒・・・30秒・・・40秒・・・50秒・・・1分経過・・・
・・・1段目ロケット切り離し・・・2段目点火・・・20秒・・・30秒・・・」
「...2段目エンジン出力低下...」響子の声が響いた。「エンジン、コントロール不
能...」
「了解。続行!30秒後、衛星投入!」
「了解。燃料漏れ確認。出力ダウン...機体振動。危険です!」
「続行!ポンちゃん、状況はどうでしょうか?」
「振動してるよな!」
「衛星投入、10秒前・・・3、2、1、発射・・・・・・・・・・・・・・・・」