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            〔人間の巣〕  文明史ストーリイの原型   


   
文明の折り返し元年・・・伸びなかった巨大エネルギー/宇宙イノベーション

 
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プロローグ        ... 《危機管理センター》 に立ち寄って... 2007. 2.25
No.1 〔1〕 文明の折り返し・元年 2007. 2.25
No.2    <ホモサピエンス文明の評価> 2007. 2.25
No.3    覇権主義の終焉/10年後では手遅れ・・・> 2007. 2.25
No.4 宇宙植民計画/伸びなかったスペース・イノベーション 2007. 3.23
No.5    <無限大空間における、“ネオ・宇宙財団”・・・ 2007. 3.23
No.6    <〔人間の巣〕原型 2007. 3.23

        

     プロローグ             

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  支折はみんなと別れ、《危機管理センター》に立ち寄った。響子が、東京都美術館で

やっている、『オルセー美術館展』のチケットを譲ってくれると言っていた...センターの

中は、天窓と、壁面の大クリーンや、モニター類で明るく、静かな音楽が流れていた。

「あ...支折、」響子が支折の姿を見つけた。素早い身のこなしで立ち上がり、部屋の隅

の机の方へ歩いた。「チケットね!持ってくるわ!」

「ええ...」支折は、コクリとうなづき、ソファーにショルダーバッグをそっと置いた。

  久しぶりに、《危機管理センター》の内部を見回した。ひときわ大きい、多機能の壁面

大スクリーンは、さすがに迫力があった。モザイクの1つが拡大され、アジア地図が表示

されていた。地図は、様々なインフルエンザ関連のデータが表示されている。

  横に、別の複数のモニタースクリーンがセットされ、以前とは壁面のレイアウトがだい

ぶ変わっていた。サーバーや、衛星関係の情報器材も増えている。かつては、ゴチャゴチ

ャと床を這っていた配線も、今はスッキリと片付き、床も落ち着いたデザインのジュウタン

になっていた。

 

新型インフルエンザは、」支折は、響子の方へ声をかけた。「どんな様子かしら?」

「うーん...難しいわね、」響子が、振り返りながら、隅の方へ歩いた。「近くにいるのに、

最近は会っていないわね」

「そうなのよね...」支折が、響子に微笑を投げた。「それで、久しぶりに、響子の顔が見

たくなったのよ」

  響子は、満面の笑みを作り、楽しそうに机の引出しを開けた。厨川アンが、響子の監

視作業を手伝っていた。支折に頭を下げ、奥の方から歩いて来た。

「時間はあるの?」響子が聞いた。

「15分ぐらい...かな、」

「コーヒーはどうかしら?」アンが言った。

「うーん...」支折が、首をかしげた。「赤い彗星で、江里香さんのコーヒーを飲む

ことになっているのよ」

「ああ...」アンが納得した。「江里香のコーヒーが飲めるわけね、」

「そう...おいしいと、うわさの」

「確かよ」アンがうなづいた。

「で、」支折は、アンの方に聞いた。「新型インフルエンザは、発生しそうかしら?日本で、

【H5N1型】鳥インフルエンザが多発しているけど?」

「そうですね...」アンが、口に手を当てた。「日本は...一般的には、“家禽と人間の接

触”のない社会です。日本での変異の可能性は低いですわ...

  ただ、問題は、野鳥です...宮崎県や、岡山県の【H5N1型】が、中国/青海湖(ゴビ

砂漠の南方、青海省)由来のウイルスだと、遺伝子の分析で分りました...でも、その感染経

が判然としません...」

「うーん...」支折は、壁面大スクリーンに映されているアジア地図を眺めた。地図に挿

入されてあるデータを読んだ。「...でも、野鳥ということは、確かなんでしょう?」

「それしか...」響子が、チケットを差し出し、支折に手渡した。「考えられないのよ、」

「ありがとう...」支折が、チケットを両手にとって眺めた。

スペイン風邪が...」アンが、地図の方を向きながら、赤毛をすき上げた。「1918年当

...何故、あれほど素早く全地球に蔓延したのか...まだ、分らないことは、たくさん

あります...」

  響子が、両手を組んでうなづいた。

「ライト兄弟以来の複葉機が...」アンが言った。「のどかに、第一次世界大戦に参加し

ていた時代ですわ...複葉機から、手で爆弾を切り落とし、鉄道列車を狙っていたような

時代です...西部戦線は、とてものどかとは言えませんが...」

「ええ、」支折がうなづいた。

「でも、当時としては交通のないアラスカや、太平洋の島々にまで、どのようにしてインフ

ルエンザウイルスが蔓延したのかしら...本当に、全地球に、ウイルスが蔓延したので

す...今回の、日本への感染経路も、そうしたミステリーと、同質のものを感じます」

「うーん...」支折が、大きく首をかしげた。「やはり、中国大陸南部で、変異するのでしょ

うか?」

「どこでも、変異可能性はあります...」アンが、頬に手を当てた。「でも、やはり、注目

すべきは大陸南部でしょうね。家禽人間社会と混在しています。また、これまでの経緯

からも、変動指数が高いのは、大陸南部です。“ニパウイルス”“新型肺炎・SARS”

も、中国大陸南部で出現しています...」

「発生の、特異地域というようなものは、あるのでしょうか?」

中国大陸南部と...」響子が言った。「アフリカ中央部が...“新興・感染症”発生の、

注目領ということは、言えます...

  中国大陸南部インフルエンザのタイプですが、アフリカ中央部“エイズウイルス(/カ

メルーン)“エボラウイルス(/スーダン)のように、一種独特の感じがしますわ」

スペイン風邪は、」支折が、軽くコブシを握った。「何処が、発生源なんでしょうか?」

90年も前ですから...」アンが答えた。「正確なことは、はっきりとは分っていません。

でも、最初に患者が発生したのは、アメリカです。これは、はっきりとしています。ニューヨ

ークの北...ボストン近郊の、陸軍のトレーニングキャンプにおいてです」

「何故、アメリカだったのでしょうか?」

「それは、分りません...

  私はアメリカにいた時、軍関係の仕事で、“1918年ウイルス”については、詳しく追跡

調査したことがあります...この“正体不明の新興感染症”に、有効に対処した都市

あったのです...その都市では、この新興感染症に対しては、被害を非常に小さく抑え

ています。話しましょうか?」

「うーん...」支折が首を振った。「今日は、時間がないわね」

「じゃ、そのうちに話しましょう」

「ええ、」支折は、コクリとうなづき、手に持っているチケットを裏返した。「ありがとう、響子」

「楽しんできてね」

「うん、」支折は、目を細め、二人にうなづいた。

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  支折は、腕時計を見ながら、《危機管理センター》を出た。冬枯れの草原を眺めなが

ら、しばらく歩いた。そして、新築のthink tank=赤い彗星・ビルに入った。3階の

インターネット・オープン・ルームに到着すると、二宮江里香がコーヒーの用意をして待っ

ていた。

  設計技師竹内建造と、カメラマン映像技師秋場五郎が、最新設備の部屋

で、総仕上げの作業をしていた。他に、今回召集になったメンバーは、すでに全員がそろ

っていた。コーヒー・カップを横に置いて、それぞれの準備作業を進めている。作業テーブ

ルの座席配置は、支折が設定してあった。

  星野支折白石夏美が進行役で、スクリーン・ボードの前。高杉・塾長津田・編集

が、中央で対座。向こう側に、第2編集部/軍事・担当大川慶三郎国際部

原和也が対座...向こう正面には、think tank=赤い彗星片倉正蔵・所長

関三郎が座っている。再度、オブザーバーで参加という希望だった。

  その作業風景の中で、関三郎だけが、ヒマそうに首を回していた。それから、頭の後ろ

で両手を組み、竹内建造と秋場五郎の作業を眺めている。その関三郎が、支折に気付

き、片手を上げた。

「やあ!」関三郎が言った。

「おはようございます!」支折が、頭を下げた。

「おはようございます」片倉正蔵も顔を上げ、支折に挨拶した。

「よろしくお願いします!」支折が言った。

  二宮江里香が、支折にコーヒーを運んできた。

「うーん...」支折は、コーヒーを小さく口に含み、江里香の方に目を細めた。「おいしい

わ...うわさどうり、」

「ありがとうございます!」江里香が、顔を崩し、両手を絞った。

  支折は、自分の席にある、2枚のメモ用紙を取り上げた。

「あ、それは、編集長です」夏美が言った。

「うん、」支折はうなづき、メモに目を走らせた。

「ああ...」津田が、斜め正面の席で顔を上げた。「それは、整理した後で気付いた部分

だ。目を通しておいてくれればいい」

「あ、はい...」

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  支折は、椅子に掛けた。コクの深いコーヒーを飲みながら、メモに目を通した。読み終

ると、自分のモニターをセットアップした。それから、インターネット正面カメラを見上げた。

カウントダウンまで、あと5分...

  彼女は、真新しいインターネット・オープン・ルームを見回した。ここはまだ、フルタイ

ム・オープンの予定はなかった...が、すぐ頭上の高さで、見慣れないカメラが滑らかに

移動していく...天井のレールから、ロボット・カメラの伸縮式アームが下がっている。こ

れで、作業テーブルの全員をフォーカスできるようだった。

  秋場五郎が支折に気付き、片手を上げた。支折は、微笑をこぼし、小さく頭を下げた。

最近まで、秋場はカメラマンとして、支折の担当する“文芸”のセクションに所属していた。

が、今後は《技術部》の配属となり、竹内建造のセクションに入る。しかし、カメラマンとし

ての仕事は残るわけであり、特に何も変わることはなかった。

 〔1〕 文明の折り返し・元年・・・index.1102.1.jpg (3137 バイト)

        生態系と調和した、〔人間の巣〕の展開・・・

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  新築ビル、新システムになったので、部屋には軽い緊張感があった。インターネット・カ

メラのランプが、赤から黄へ変わり、青になった...

 

「おはようございます!星野支折です!

  〔人間の巣〕の考察...第7回目を始めます...

  2007年が、大混乱と共に幕を開けました...そして、はや、2ヶ月半が経過しまし

た。出口の見えないイラクの混迷/緊迫したイラン情勢と核兵器開発/38度線を背景と

する北朝鮮問題...こうした状況下で、私たちの主張する、“覇権主義の終焉/覇権

主義は20世紀の遺物”ということを、真剣に検討する年が来たと考えています。

  “軍産複合(軍事組織と産業構造が一体化)の進行による、覇権主義的・世界構造”から、

〔地球温暖化対策/文明の折り返し・・・元年〕に、大転換する時が来たと考えていま

す」

  支折は、ここまで言うと、一息ついた。

「ええ...

  その渦中にいると...その“激動の渦”というものは、見えにくいものと思います。

い人類文明史上でも...この2007年は...かつて一度も経験しなかったほどの、“大

転換点の起点の年”になるのかも知れません。

  というのも、人類文明全体が、1つの運命共同体として、“巨大な構造的危機”に直面

しているからです。このまま、現在の文明を持続していける可能性は、全くありません。

れも、早急に、方向転換しなくてはなりません。人類文明が持続できる方向へ、です。

  それほどの、“巨大な構造的危機”が...“今・現在”私たちの文明社会の上に、や

って来ています。今年、それに向かう、〔文明の折り返し/元年〕と...私たちは位

置づけています。また、是非、そうしなければならないと考えています...」

  支折は、丁寧に頭を下げ、モニター画面で自分の姿を確認した。

 

「ええ、高杉・塾長...」支折が、立ったままで言った。「塾長の...≪文明の地下都市

空間へのシフト≫という提案を受け...私たちは昨年...ようやく、〔半・地下都市/

高機能空間/人間の巣〕・・・〔極楽浄土の展開〕・・・という、具体的提案漕ぎ付けま

した...

  ここまで、どのぐらいの時間が経過したでしょうか?」

「うーむ...」高杉が、顔を上げた。「そうですねえ...すでに、なつかしい観があります。

  “人類文明の新しい形態”/“人類文明の地下都市空間へのシフト”は、<2000

年7月26日>のアップロードです。

  したがって、6年と数ヵ月でしょうか。ずいぶんと、時間が経ってしまったものです。しか

し、全員の協力を得て、何とかそのガイドラインを描くことがで来ました。今後とも、よろし

くお願いします」

  支折は、作業テーブルの全員に頭を下げ、椅子に腰を沈めた。そして、自分のモニタ

ースクリーンに目をやり、マウスに手を添えた。

「ええ...」津田・編集長が、正面の高杉に形式的に頭を下げた。「その間にも、地球環

は、いよいよ、具体的変動が顕在化してきました。

  白石夏美さんが言うように、山岳氷河が後退し、両極の氷が融解し、海水面の上昇

顕在化してきています。また、珊瑚礁の島々が海水に沈み、危機的な状況に陥っている

所も出現しています。“海洋の酸性化”で、珊瑚の炭酸カルシウム/“アラゴナイト(あられ石

/天然の炭酸カルシウム)が溶けると言われ始めたのも、ごく最近のことです...」

「うーむ...」高杉が、顎にコブシを当てた。「事態は、急速に動き始めているようですね

え...」

「はい!」夏美が、頭を傾げ、作業テーブルの上で両手をそろえた。「これ以上、このまま

進んで行くと、“種の大量絶滅”に突入して行きます!」

「うむ!」高杉が、強くうなづいた。  

「今...」津田が言った。「中国インドなどが、急速な経済成長段階にあります。その勢

いは、しばらくは止りそうにありません。これらの国々では、“爆食”や、“環境汚染”は、こ

れから本格化して来るでしょう。

  このまま行くと、“海洋資源は一段と荒廃”します。“世界の穀物市場も逼迫”して来る

でしょう。そして、世界中で、“飢餓が常態化”して来るものと思われます...」

「日本政府の“少子化政策”は...」支折が言った。「こうした、世界における飢餓地域

拡大を承知の上で、推進されています...昨今の、気候変動の兆候のもとで、食糧自

給率40%の状況下で...ただ、漫然人口増加政策が推進されています...」

「うむ...」高杉が、うなづいた。

「このことから、“日本の異常な政治状況”が分りますわ...

  いったい、私たちは、この“少子化対策”で生まれてくる子供達に、“明るい未来”“幸

福な社会”を、約束できるのでしょうか。そこに、“飢餓が無い”と、自信を持って保証でき

るのでしょうか?

  ただ、当面の年金政策と、当面の産業政策のために...“日本の人口を増やせ”と、

漫然政策的に推進されています。この“人口増加政策”は、“明確な間違い”です。モラ

ルハザード社会の、非常に恐ろしい側面が、顕在化していると言えます...」

「はい!」夏美が、支折をまっすぐに見てうなづいた。

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「担当大臣が、」津田が言った。「“女性を子供を産む機械”だとか、バカなことを言ってい

ますが、そうした失言論争そのものが、コトの本質を外れていますね。それをあおってい

マスコミも、非常に力を落としていることを、露呈してしまいます」

政治の全体風景...」高杉が言った。「“戦略を誤ったデタラメな観”があります...

マスコミの全体風景もまた、非常に閉塞的なモラルハザード状況にあります...国民の

方が戸惑っていますねえ、」

 

「これは、」津田が、言った。「小泉・政権の、右傾化政策に端を発したことだと思います。

小泉・前首相が、“2005・郵政選挙”で、“国民をだまし討ち”にしたり...また、民主

が、“防衛省・昇格/自衛隊の海外派遣・本来任務”承認・推進したことなども...

“国民の了解”を得ているとは、言えません。

  それから、相変わらず続いている“官僚や公務員の天下り”も、“社会システム全体が

インチキを容認”している状態です。“少子化対策 =人口増加政策”というのも、こうした

の上に咲いたアダ花(徒花/咲いても実を結ばない花)でしょう...

 

  現在、日本の正しい基本政策は...人口減少社会を受け入れ、ダイナ

ミックに変貌していく日本社会の器を、その土台から未来型に再構成して

いくことす。その新しい器の中で、全てを再構成していくことです。

  文明大変貌期にあり、国家安全保障という概念は、過去のものとなり

ました。覇権主義の時代を終息させ、文明の折り返し/文明の生態系と

の調和が、まさに急務となっています...

 

  ...ということですね...」

「はい...」支折が、津田の方を向いて、唇を結んだ。「その具体策として、私たちは、

〔人間の巣の全国展開〕を、提唱しています...また、これは、日本だけではなく、“地

球温暖化”に対処した、〔人間の巣の世界展開〕を目指しています...」

「はい、」夏美が、頬に笑窪を作ってうなづいた。

  向こう正面で、腕組みをした関三郎も、大きくうなづいた。

<ホモサピエンス文明の評価>       

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「津田さん...」高杉が、正面の津田に言った。「まず、聞きたいわけですが...現在の

世界情勢から、今後、どのような世界が出現するでしょうか?」

「そうですねえ...まず、私たちのスタンスですが...

  当然...“文明の折り返し/反・グローバル化”が、今後、急速に進んで行く展開

描いています。また、そうでなければ、“地球温暖化”は止められないと考えています。た

だ、漫然と、現在の延長線上に、人類文明があるとは考えていません...」

「そうですね...」高杉は、脚を組み上げた。「むろん、そうです...」

「そうでなければ...

  “核ドミノ”“覇権主義競争”からも、人類文明脱却できないでしょう。まさに、悪循

になります。今度ばかりは、そうした悪循環はくり返せないのです。もう、“人類文明に

は後が無い”のです」

「まさに...」

「繰り返しますが...

  “文明の折り返し/反・グローバル化”は、“地球温暖化”で、後には引けない状況

に来ています。人類文明にとっては、“背水の陣”ということになります。そして、文明種族

としても、その“真価”が問われてきます...」

「そうですねえ...」高杉がうなづいた。「ここは、地質年代的な記録としても、“ホモサピ

エンスの評価”になりますねえ...

  時間は、これからも、営々と続いていくわけです...10万年後100万年後の世界と

いうのは、地質年代史的に見れば、それこそ(まばた)きするほどの時間経過でしょう。そ

うした時代というのは、近々確実にやってくるわけです。

  それこそ、アッという間にやって来るでしょう...その時の、外部からの評価というもの

も、考えておきたいですねえ。普遍的な真理という視点からも、重要なことです」

「そうですね、」

「このままでは...“ホモサピエンス文明の評価”となると...

  ただ欲望に流され、“種の大量絶滅”を招いた種族と言うことになります。それこそ、

“何のための文明だったのか”と指弾されます」

ホモサピエンスの痕跡は、」津田が言った。「“大量絶滅”を招いた、“大バカ者の痕跡”

と評価されますねえ...地質年代の痕跡として、そんな“終末の記録”は、残したくない

もですね」

「本当、そうですわ...」支折が、静かに言った。

はるかな未来における...」高杉が言った。「他人の評価はともかくとして、“ホモサピ

エンス文明自身”としても、こんなことでいいのかということです」

「その通りです」津田が、苦笑した。「ホモサピエンスは、“単なる自然の征服者”であり、

生態系の破壊者”であり...“その生態系と共に、自らもその居場所を失った種族”

いうことになります。それでは、あまりにもアホらしい...」

  作業テーブルの全員から、失笑が沸いた。

DNA最高モードの種族とは、」支折が、笑いを抑えながら言った。「とても思えない所業

ですわ。“覇権主義”は、もう、本当にもう終わりにすべきです。地球が、本当に、壊れて

しまわないうちに、」

「そうですね、」国際部・担当の北原和也が、口を開いた。

「でも...」支折が、北原に言った。「そんなことが...21世紀の地球表層で、実際に、

進行しているのですわ」

「そうですね、」北原和也が、生真面目にくり返した。

覇権主義の終焉/10年後では手遅れに・・・> wpe69.jpg (27792 バイト)

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「そこで、こうしたことを前提として...」津田が言った。「このままで推移すると...

  まず、アメリカ中国覇権競争は、激化して行くものと思われます。また、インドはす

でに核兵器保有国であり、南アジアでのインの覇権が、存在感を増大して来ると思われ

ます。

  インドは、釈尊の生まれた国であり、またガンジー(インド独立の父)の生まれた国でもあり、

私たちには好印象の国です...しかし、力をつけてくるでしょう。これは、今後10年から

20年ほどのことと思われます...」

「それから、どうなりますか?」高杉が聞いた。

「それ以降は...

  いずれにしても、先ほども言ったように...“地球温暖化”や、様々な要素が錯綜して

来ます。気候変動の本格化もあるでしょう...したがって、再度、リセットが切迫して来ま

す。いずれにしても、“覇権主義”近々限界が来ます...」

「それ以上続くことは?」高杉が聞いた。

「いや、」軍事・担当の大川慶三郎が、片手を立てた。「このまま行くと、その頃には、す

でに“核爆弾”が使用されている可能性があります。その他の、大量破壊兵器/細菌兵

器/化学兵器も、使われている可能性が、非常に高いと思われます」

  津田が、黙ったうなづいた。

「実際に、」大川が言った。「日本では...すでに大量のサリンが、カルト的宗教団体

テロで使われています。オーム真理教による、“松本サリン事件”“地下鉄サリン事件”

です。

  日本では、広島長崎2発の原子爆弾(リトルボーイ/ファットマン)に加えて、神経ガス(サリン、

タブン、ソマン、VX、)であるサリンも、すでに2度使われているわけです。こんな国は、日本だけ

なのです」

「そうですね...」支折が、口にコブシをあてた。

“覇権主義”による、“大国の支配/大資本の支配”に対し...細菌兵器/化学兵器

よるテロが頻発する可能性が高くなっています。

  日本でも、そうしたテロに対する備えが本格化しようとしていますが、経済至上主義/

欲望の原理で世界が動いている限りは、世界は破滅的になります」

「はい」支折が言った。

「ともかく、」大川が言った。「現在の延長線上では、“飢餓地域の拡大”は必至です。

  “餓死者”も増大します。世界は非常に不安定になり、善良な社会/善良な人々でさ

え、“飢餓地帯”支援する余力はなくなるでしょう。そうした世界では、核兵器/細菌兵

器/化学兵器が容易に使用されてしまうと言うことです」

「はい...」

「私が恐れているのは、それと気付かずに、“各種の遺伝子兵器”が、密かに使われるこ

とです。“遺伝子兵器”は、直接・間接に、生態系を狂わせて行きます。

  私たちは、それと知らずに、巨大社会や民族が壊滅させられる可能性もあります。

産物や、家畜微小生物系に、それとわからずに、巧妙に仕掛けることも考えられます。

こうなってしまっては、人類文明は、収拾のつかない混乱に陥ります。

  核兵器よりも恐ろしい、環境の破壊生態系の攪乱が起こり、まさに“種の大量絶滅”

の道を歩み始めるのかも知れません...まあ、これは、故意に行われる“遺伝子兵器”

の話ですが、故意でなくても、こうした事態は心配されるわけです...」

「でも、兵器としても、開発が進んでいるということでしょうか?」

「そうです。進んでいます...あまり、おおっぴらにはされていませんが、」

「つまり、そんなようだと、」支折が言った。「“覇権主義の終焉”は、“10年後では手遅

れ”ということですね?」

「まさに、そのとおりです!」大川がうなづいた。

「その頃には、テロ社会になり、収拾がつかなくなっているという事でしょうか?」

「その可能性が、非常に高いと考えますな...

  日本ではすでに、“サリンによる無差別テロ”が、易々(やすやす)と、2度実行されていま

す。そうしたテロ犯にとっては、サリン核爆弾の違いは、単に“手に入りやすいかどう

か”ということです」

「手に入れば、アッサリと使うとわけですね?」

2つのサリン事件は、そのことを如実に証明していると思います。したがって、今後も、

覇権主義競争を続けていくということは...実に、非常に危険な道です。ここは、なんと

しても、“文明の折り返し”を実現する必要があります。

  それには、価値観の転換が必要でしょう。そうしなければ、“種の大量絶滅”の危険性

は、現実のものとなります」

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「全く別の...」高杉が、作業テーブルに肘を押し出した。「可能性もあります...」

「はい、」支折が、高杉の方に体を向けた。

「すでに、何度も話していることですが...

  生態系恒常性(ホメオスタシス)が、“生態系の治癒力を発動”するかも知れないというこ

とです。ホモサピエンスを、“適正な数量まで減少”させる力が、働くかも知れません。人

体が、病原菌を駆逐し、健康を回復する状況を考えればいいと思います...

  そうした力が、生態系レベルでも、当然発動するはずです。実際、すでにこうした、

次元での生態系システムが動き出しているフシがあります」

「はい...新興・感染症が、活発化していますよね」

「そうです...

  それから、人類はまだ気付いていませんが...ヒトゲノムの微妙な変異によっても、

ホモサピエンスは、容易に激減していく可能性があるわけです。可能性は、それこそ

にあります。それがどのようなものかは、私たちの次元では、まるで分からないわけで

す。まあ、人類文明とは、その程度のものだということです」

「うーん...」支折が、頭を斜めにした。「恐ろしいですね、」

「いずれにしても...」大川慶三郎が言った。「このままの世界体制では...“核ドミノ”

が進行し、再び冷戦構造となります...おそらく、各種の大量破壊兵器が、実際に使用

さるでしょう。私は、こっちのほうを心配しています」

「担当ですものね、」

「ま、そうです...

  松本サリン事件や、地下鉄サリン事件のような、“きわめて曖昧な目的”でも、易々と

テロは実行されたわけです...精神性の薄弱になった現代文明においては、倫理的な

抑止力などは、無きに等しいのかも知れません」

「はい」

「しかし、問題は...

  それらに対処し、“テロ対策訓練”や、“有事法制を整備”することではないのです。“軍

産複合体”が描く、“軍事対立/武力紛争/富の支配”の世界体制を...創り出さない

ことが大事なのです。

  覇権競争のパラダイムを超えなければ、人類文明存続していけないことを、知るべ

きです」

「はい!」

「繰り返しますが...

  “軍産複合体”シナリオで、世界が描かれていく限り...環境破壊が続き生態系

掻き回され種の大量絶滅のプログラムが進行すると言うことです...」

「うーむ、」高杉が、唇を引き結んだ。「そう言うことですねえ...」

人間の巣を、“1つの叩き台”として欲しいと思います」津田が言った。「あるいは、

り良い提案があるならば、どんどん“新提案”を出して欲しいと思います。私たちは、

間の巣に、固執するものではありません」

「はい!」支折が、うなづいた。「もちろん、そうですわ]

 

 

   〔2〕 宇宙植民計画          

     伸びなかったスペース・イノベーション(宇宙空間技術革新)

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「さて...」津田・編集長が言った。「人間の巣/高機能・半地下都市空間〕・・・〔極

楽浄土〕の考察に至る経緯については...高杉・塾長が≪文明の地下都市空間への

シフト≫という提案をするよりも、さらに過去にさかのぼりますね、」

「そうです...」高杉が答えた。「そこに至る、長い経緯がありました...

  ボス(岡田)が言っていました...ボスは、若い頃...“地球の人口増加/文明の版図

の拡大”を解決するには、無限の空間的広がりを持つ、宇宙空間に進出するのが、唯一

の方法と考えていたようです。つまり...〔人類文明の宇宙空間への進出〕が、問題解

であり、それが自然な流れだと確信していたのでしょう」

「はい、そのようですねえ...

「それで、ボスが、〔宇宙植民への可能性〕をさぐって書いたのが、中編小説の超越の

領域であり、人間原理空間(/当ホームページのタイトル)だったようです...しかし、スペ

ス・イノベーション(宇宙空間技術革新)というものは、意外と“頭打ち”でした」

「何故、こうした基本戦略的な間違いが起ったのでしょうか...」

「それは...“運命的な選択”が、働いたからだと思います...

  地球引力圏からの脱出技術に、急速なブレーキがかかってきたと、ボスは言っていま

した。それで、私もそのことは、色々分析してみました」

「うーむ...いったい、何が起ったのでしょうか?」

何者かの選択”が働いて...人類の“文明史ストーリイ”が、軌道修正されたという

を受けます...これは、ボスも同じ意見でした」

「ふーむ...ボスもですか...」津田が、大きく足を組み上げた。「何故でしょうか?何

故、“そんな軌道修正”が、存在するのでしょうか?」

「うーむ...」高杉が、アゴを絞った。「根拠は、ありません...そうした、印象を受けたと

いうことです。“私という認識主体”が...“そういう印象を受けた”ということでも、十分な

根拠になるのではないでしょうか。そこから、解明を始めて行けばいけばいいわけです」

「それは、そうですが...」

「ともかく、聞いてください」

「もちろん、聞きましょう」津田が、微笑してうなづき、腕組みをした。

「まず、結果として...

  人類文明技術革新というものが、その方向へは伸びません出した...人類の、“文

史ストーリイの原型”とでも言うべきものが...その方向へは、技術革新の奔流を導

かなかったように感じています...“この世”“時間軸に沿って流れるストーリイ”は、

“原型”によって、強力なバイアス(偏向)がかかっているようなのです。人間的な、存在成立

のバイアスでしょうか...」

「ふーむ...」

“ストーリイ性”が、“原型的”に、繰り返されるようですねえ...

  正確に、全く同じコトが繰り返されているのであれば...“今の深淵/永遠の現在”

の、時空構造解の問題になります。しかし、そうではないようですねえ...“歴史は繰り

返す”といいますが、全く同じ“ストーリイ”が、繰り返されるわけではありません。“原型

的”に繰り返しているようなのです...生命潮流の中において...」

「ふーむ...」

「その“文明史ストーリイの原型”が...太陽系開発ではなく、“意識・情報革命”という

術革新を、選択したようだということでしょう...」

「うーむ...

  分水嶺の雨水は、その方向の山の斜面に、流れ始めたというわけですか...“ストー

リイの原型”が...その方向に、雨水を向かわせたということですか、」

「そうですね...そんな印象を受けます...

  現象的に言えば...文明の第2ステージ/“エネルギー・産業革命”神通力が、“頭

打ち”だったということです。強烈な打撃を受けたように思います。結果...文明の第2ス

テージ技術革新は...まあ、直線的には伸びなかったということでしょう...そんなに

単純ではなかったということです...

  ペース・イノベーションは、時代とシンクロ(同調)しては起らなかったとも言えま

す。そして、そこが問題なのです...

  結局、“生命潮流の選択”は...“上位システムに存在する大いなる叡智”は...

宙開発/太陽系開発の方向には向かわなかったのです。何故か?おそらくそれは、

小路だったのかも知れません...あるいは、その他の理由で、そのコースを遮断したの

かも知れません...

  私はそこに、何者かの選択を感じます...それは科学的ではないと言えばその通り

です...しかし、人類の科学的知識を超えた領域の話ですから...」

「うーむ...そんなものですか...“生命潮流の選択”ですか...」

「まあ、そうとでも言うしかないでしょう...

  宇宙開発技術では...何故か、象徴的な事故が、同時期に続発しました...アメリ

カではスペース・シャトル大事故が続き、日本のロケットも、何故か打上げ失敗が続発

しました。しかし、それ以前から、宇宙開発技術というものが、予想どうりには伸びなかっ

という伏線があります...」

「はい...」

「ボスの、2つの短編小説というのは...実は、だいぶ時代を前倒しにして書いた観が

あります。ボスとしては、それだけ時代を加速したかったからでしょう。しかし、それにして

も、現実の宇宙開発は、予想以上に時間がかかり長い間足踏みしていました...」

「それは、私も、薄々と感じていました」津田が言った。

「そして、」高杉が、うなづいて、言った。「ついに、スペース・シャトルロケットも、上がら

なくなってしまったわけです。私はその方面の専門家ではないので、世界的な詳しい事

は分かりませんが...急速に、宇宙開発という夢が、萎(しぼ)んで行きましたねえ、」

「その方面の、専門家技術者は、どう見ているのでしょうか?」

「ぜひ、専門家の見解を、聞いてみたいですねえ...何故、技術開発頓挫したのか

を、」

「はい...」津田が、腕を組みなおした。

「しかし、その一方で...

  技術革新は、情報技術の方向に、大きく転進して行きました...初期のコンピュータ

ー開から、パソコンが大普及し、インターネットが急速に拡充して行きます。携帯電話

普及しました。その方向の山腹に、分水嶺の雨水が降り注ぎ、山肌を削り谷川に合流

し、まさに“情報革命の大河”が予見されています」

「なるほど...」

ヒトゲノムの解読による分子生物学の躍進や、生物情報科学の創設も...実は、電子

/光情報技術と、同一方向に向かって伸びているのです...生物/生態系情報の海

というのは、人類明が創出した情報系よりも、はるかに微細高いランクで、海のよう

濃密に存在しています。

  私が主張している“ニュー・パラダイム仮説/36億年の彼”というような概念も、そう

した延長線上に見えてくる“意識・情報系”の話です...そうしたものが、人類の“意識・

情報革命”の中で、飛躍的な統合を見せてくるのかも知れません」

「そうした方向に...文明の第3ステージ/“意識・情報革命”が、突入して行くということ

でしょうか?」

「私は、」高杉が、うなづいた。「そう思っています...

  “意識・情報革命”飛躍するのは、おそらく“量子コンピューター”が開発されてから

以降になると思います。今、さかんに研究開発が行われているヤツですね。そうしたあた

りから、時代が飛躍すると、私は見ています。真の意味で、文明の第3ステージが始まっ

てくるのではないでしょうか...

  文明の第2ステージでも、“18世紀の産業革命”当初には、今の大エネルギー消費時

は、想像を超えていたと思います。しかし、文明の第2ステージ/大エネルギー時代

は、実質的に、まもなく終わるでしょう...大量生産・大量消費/開発・発展型経済のパ

ラダイムは、急速に限界が近づいています」

文明の第3ステージ...“意識・情報革命”においても、飛躍というヤツがあるわけです

ね」

「そうです...それが、どのようなものかと推理するのは、旧パラダイムの中では、なか

なか難しいものがあります。まあ、いずれにしても、“意識”“存在/認識”における大変

があると、私は考えています...想像を絶したものでしょう...

  まず、“量子情報科学”が、“この世の器”そのものに、大きな変革を与えるのではない

でしょうか...変革は、そのあたりから、始まってくると予想しています...まあ、いずれ

にしても、私たちが想像できるものではないでしょう」

「うーむ...そうですか...」

 

人間の巣〕の...器/ハードウェアーではなく、中身/ソフトウェアーの方...文明

の第3ステージ/“意識・情報革命”の内容は...この後で、少し考察したいと思いま

す。なんにしても未来のことですし、分かることは限られていますが、少し首を突っ込んで

みたいと思います」

「おお、そうですか...」

“量子コンピューター”の開発も関連しますが...どうも、不確定性原理不等式

のものにも、変更が加えられつつあるようです...ポイントは、“量子もつれ”でしょう」

「ま、お願いします...」津田が、顔を崩し、嬉しそうにうなづいた。「そういう方面は、塾

長でないと、なかなか手がつけられません」

「まあ、私も専門性はないですから、あくまでも推測です...遠くから、そうした遠景とい

うものを眺めてみましょう」

「分かっています。一般的には、それで十分だと思います」

「それを...」支折が、口を挟んだ。「分かりやすい形で伝えるのが、私たちの仕事です

わ」

  高杉が、支折の方にうなづいた。

「しかし...」津田が言った。「現在の、情報技術革新の大波は、まだまだ全体像が見え

てこないですねえ。人類文明は、本当に、第3ステージ/“意識・情報革命”の世紀に突

入しているのでしょうか?」

「私は...」高杉が、天井から下がっているロボット・カメラを見上げて言った。「むしろ、

強力な必然性を感じています...」

「うーむ...」津田が、うなった。「人類の、“この世の姿”に...“ストーリイ”があり、本

当に“原型”となるものの影響を受けているのでしょうか?いまさらこんなことを聞くのは、

本末転倒ですが

“今の深淵/永遠の現在”構造が...」高杉が、天井を見ながら言った。「“意識・情

報革命”の中で...少しづつ、解明されて行くものと、私は期待しています...非常に

矛盾した、不自然な言い回しですが、“認識の構造”“認識の多様性”が、しっかりとし

た基盤を持っていないことにもよります」

「重要な点ですね」

「そうです...

  いずれにしても...“量子もつれ”のような、ミクロ世界の非局所性が、コンピューター・

デバイス上で実用化される時代です。当然、文明構造そのものに、非常に大きな影響を

与えて来るでしょう。

  そうした“文明の第3ステージ”の中で...“言語的亜空間世界の構造化や...“認

識の座標系”...“時間軸上に展開するストーリの成立...そういった...“相互

主体性世界”ミラー効果に...“文明史ストーリイ”“原型”も、その実態が見えて来

るのかも知れません...

  ともかく...こうした考えは仮説であり、考えるための手がかりです。絶対というもので

はありません。したがって、私の見解批判を受けるのも、まさに真剣に考えることであ

大歓迎なのです」

「なるほど...そういうスタンスですか、」

「ともかく、“私”というもの...“心”というものを証明することが...そもそも、非常に難

しいのです。空っぽの何も無い空間のような“心”に...物質が現れ、が吹き、ストーリ

が流れて行きます...

  “意識・情報革命”の世紀においては、そこに量子力学相対性理論のような基盤的

な理論のアンカー(碇/いかり)を打ち込む必要があります...いつまでも、“吾思う、ゆえに

吾あり(デカルト)で、立ち止まっているわけにはいかんでしょう。

  まず...茫洋とした、“この世”という海に、しっかりとしたアンカーを打ち込むことか

ら、基礎工事が始まります...それにしても、“心の領域”というのは、難しいですねえ。

“触れる”だけで、それそのものが、強い影響を受けてしまいます...」

「そうですね、」津田が言った。

 

「ともかく...

  そうした...“ストーリイの原型的な力”が作用し...人類文明太陽系開発の道で

はなく、“意識・情報革命”の道を選択させた...そうした、何らかの力学があると、私は

考えています。まあ、これは私の感性であり、根拠はありません...」

“私”というものが...」津田が、言った。「最大の謎である、“この世の風景”です...

一応、何があっても、驚くことではありません」

「ま、そうですな、」大川が、テーブルを打って笑った。

「うーむ...」think tank=赤い彗星片倉・所長が、声を出した。「私も、考えて

見ましょう」

「お願いします」高杉が、片倉に言った。「もし人類が、太陽系開発のコースに入り、宇宙

殖民時代を迎えていたら...おそらく、文明の第3ステージは、本格化しなかったと思い

ます。

  その時は、人類文明は無限大の時空間を獲得し、当分の間は、第2ステージ/“エ

ルギー・産業革命”延長線上に留まっていたのではないでしょうか。ところが、それ

では、何らかの決定的な不都合があったのかも知れません」

「うーむ、」片倉が言った。「なるほど...」

               

     

「あの...」支折が言った。「それでは、宇宙開発は、もう終ったということでしょうか?」

「いや、」高杉が、首を振った。「宇宙開発は、今後も続いて行くでしょう...ただ、精妙な

事情で、流れが変わったと言うことです...順序が入れ替わり、新しい流れができたと

いうことです。私はこれは、宇宙開発技術的な限界ではないと考えています。

  宇宙開は、今後はそれなりに、順調に進んでいくものと思っています。後から振り返

ってみれば、何故頓挫したのか、不思議な感じが残るのかも知れません」

「はい...」支折が、唇を引き結んだ。「特定の、“ストーリイ性の発現する時期”というも

のが、あるのでしょうか?」

断定できる根拠はありません...“確信”というものも、時として揺らぎます」

「はい、」

「同じような例をあげれば...

  そうですねえ...かつて、大宗教時代というものがありました...あの紀元0年西暦紀

元/キリストの誕生を境にした短い期間に、大宗教が続々と登場しています。まず、釈尊が生

まれ、イエス・キリストが生まれ、マホメット(ムハンマド)が生まれています。

  あの2000年前の、剣と弓矢の時代の宗教が、今なお“文明会の原型”として残り、

私たちの日常生活基盤となっています。いまだに、これらの大宗教を超えるものは、現れ

ていません。そうした背後には、“ストーリイ原型”のようなものが、存在しているのかも

知れません。

  もちろん、単純なものではないでしょう。しかし、そうした膨大な背景というものが“意

識・情報革命”という、文明の第3ステージにおいて、しだいに見えてくるのかも知れない

ということです。ともかく、そうした巨大な背景があることを、疑ってみるべきです。そうした

仮説の中から、新しい時代が始まって行くのかも知れません」

「そうですか...」支折が、ゆっくりと頭を傾げた。

<太陽系空間における“ネオ・宇宙財団”・・・   wpeC.jpg (50407 バイト)

       index.1102.1.jpg (3137 バイト)       index.1019.1.jpg (2310 バイト)    wpeB.jpg (27677 バイト)    wpe4F.jpg (12230 バイト)

「ところで...」津田が、ゆっくりと片手を挙げた。「ボス(岡田)は、小説・人間原理空間

の中で...実質的に無限大ともいえる太陽系空間においで...“ネオ・宇宙財団”とい

うものを描いてしていました。

  それは、太陽系開発において、巨大資本というもの、を想定していたわけですね?」

「うーむ...」高杉が、長く息をついた。「どうも...そうらしいですねえ...

  私も意外な感じを持ちました。ボスには、似合わないと思ったわけです。それで、実

は、ボスに聞いたことがあるのです」

「ほう...ボスは、何と言っていましたか?」

「ボスは、無限大ともいえる太陽系空間の中では、資本主義のダイナミズムというもの

は、非常に力強く、かつ、頼もしいものだったと振り返っていました...

  まあ、確かに当時は、そうだったかも知れません。ボスが、小説・人間原理空間を執

筆していた頃は、まだ一般的にはパソコンというものが、影も形も無かった時代だったそ

うです...それで、ボスは下手な字で、一生懸命に原稿用紙に向かって書いていたのだ

そうです」

「それほど昔の作品ですか?」

「そうです。それから、さらに数年ほどたった頃、現在の“Windows”以前のOSである、

S−DOS”のパソコンが一般に発売されたそうです。ボスは、その最初のパソコンブーム

の折に、自分にとって第1号のパソコンを買ったと言っていました。ボスは、それでようや

く、下手な字で書く、ボールペン作業から解放されたと笑っていました。

  周辺機器も、まだ非常に高価だったそうです。黒インキ1色の熱転写プリンターが、秋

葉原で10万円もしたそうです。それから、120メガバイトのハードデスクも、そのぐらいの

値段だったと言っていました」

「それでは、」支折が、目を丸くした。「720メガバイトのCD1枚の、数分の1の記憶容量

ですよね。それで、10万円もしたのかしら?」

「まあ、信じられないので、私も確かめました。それは、本当のようです。秋葉原のパソコ

ンショップで、最先端のものを買ってきたと、ボスは笑っていました。フロッピーディスクが

120枚分だと、周りに自慢したそうですから、間違いありません。

  つまり、小説・人間原理空間は、そうした時代よりも、さらに10年も前に執筆した作

品だということです」

「うーん、そうなんですか、」

「その頃は...社会全般にまだ信頼感があったそうです。資本主義経済も、一応は健全

だった時代です...まさに、戦後日本の絶頂期だったのかも知れませんねえ...と言っ

ても、独立独歩のボスには、あまり縁の無い話ですが、時代の空気はそうだったようで

す」

健全な夢が...」津田が言った。「まだ、あった時代だったんですねえ、」

「そうです。そうした頃の中編小説です。日本経済にも、資本主義経済にも、勢いがあっ

たのでしょう。そうした理念にも、があったのでしょう。しかし、宇宙殖民の可能性は、

それから10年〜20年ほどの間でしょうか...急速に萎(しぼ)んでしまいました...」

「そうですね」津田が言った。

 

「ええ、」高杉が言った。「話を戻しましょう...

  ともかく人類文明は、有限の地球表面で、人口爆発に対処しなくてはならなくなったわ

けです。ボスから、その方向の指示を受けた時、非常なプレッシャーを感じました。

  また、有限空の中では、経済原理によるダイナミズムは、たちまち飽和状態になる

のは明らかでした...」

経済原理によるダイナミズムは、」津田が言った。「時代を加速させますね」

「そうです。まさに悪循環でした...

  飽和状態以降は...社会内部を撹乱するようになり...経済原理によるダイナミズム

は、かえって有害になります。経済原理の効果よりは、害毒が席巻するようになって行き

ます。そして、まさに現在のような、閉鎖空間の中での、弱肉強食の世界になってしまい

ました」

「はい、」支折が言った。

小泉・政権では、それを良しとしたわけですが、それは野生の世界のです。文明社会

は、野生弱肉強食の世界を離れ、医療・福祉によって弱者を救済し、食料を安定的に

備蓄し、〔極楽浄土/パラダイス〕の建設を、究極の目的としてきました。

  これは2000年以上の昔から、一貫した人類の夢です...小泉・政権では、その明確

な王道を見誤ったと言うべきでしょう。政治家たるものは、大局を見誤り王道を踏み外し

てはいけません...それでは、何のための政治なのかと言うことになります」

「そうですね、」支折がうなづいた。「そういう意味では、安部・政権と言うのも、支離滅裂

ですよね。マチコの評価では、阿部さん“長ナス”の評価でしたが、あれは当たってい

たのでしょうか?」

「うーむ...“長ナス”ですか...」高杉は、笑ってアゴを絞った。「外れているとは、言え

ないですねえ...さすがにマチコは、そういう方面は、たいしたものだ」

「それを見込んで...」津田が、満面に笑みを浮かべながら言った。「私も、ミッションコー

ディネーターとして、マチコさんに依頼しました。ちなみに、麻生さん“ザクロ”、もう一人

谷垣さん“ラッキョウ”です」

「それが、次の総理候補ですか?」

「そうです」

「うーむ...」

自民党も、何を考えているのか、ますます分からなくなって来ています」

 

「また、脱線してしまいました」高杉が、高杉が、髪を撫で上げた。「話を戻しましょう...

  ええ...経済がグローバル化し、投機マネーが暴れまわる、現在の世界経済の状況

が...どの段階にあるかは、非常に明瞭です。もはや、末期的症状です...

  まさに、世界が豊かになったというよりも、経済原理にらされ...政治全般文化全

全ての人々の生活が...まさに“終わりのないマラソン”を強いられています...こ

れは、本末転倒な話です...経済原理のために、世界中の全ての人々が、奴隷と化し

ています。豊かになっているのは、ごく一握りの資本家だけです...地球環境悪化の

一途です...」

「そうですねえ...」津田が、椅子の背に体を伸ばした。「その通りです...

  日本でも、国民は“終わりのないマラソン”を強いられています。経済原理で走らされ、

その挙句...“豊か”でもなく、“満足”でもなく、ましてや“幸福”を感じることも無い、単な

るシステムの歯車となっています...

  こんなことは、もう止めなければいけません...もう、終わりにすべきです。ましてや、

兵器を製造したり、覇権をあおったり、戦争をするなどは論外でしょう」

「「このままでは、」支折が言った。「“地球温暖化”で、生態系の崩壊確実にやって来

るわけですわ...軍産複合体巨大化などは、人類文明そのものを滅亡させてしまい

ます」

「そうですね、」高杉が言った。「1つのパラダイムの、末期的症状でしょう...

  有限空間の中では...資本主義経済原理は、最終的には暴走と、撹乱と、大混乱

巻き起こすということでしょう...資本主義的・競争社会も、経済至上主義も、すでにそ

役割を終えたことは明白でしょう。

  有限空間の中で、人類文明新しい価値観を必要としています...それは、生態系

と共生できる価値観でなくてはなりません...」

「はい...」支折がうなづき、マウスを動かした。

人間の巣〕原型・・・   index.1102.1.jpg (3137 バイト)house5.114.2.jpg (1340 バイト)

            wpeB.jpg (27677 バイト)   wpe4F.jpg (12230 バイト)

 「さて...」高杉が言った。「次は、〔人間の巣/高機能・半地下都市空間〕原型

の話です...その出発点の話ですね...

 小説・人間原理空間は...“巨大・宇宙人口島”が1つのテーマになっています。そ

の100kmに及ぶ回転内殻で、人工重力大気を作り出し...人工林と、人工の空と、

人工太陽光を作り出しています。そして最終的には、地下3層からなる居住空間に、数千

万人から数億人宇宙殖民が、可能というものです...」

「そうした...」白石夏美が、支折に代わって言った。「究極的な“太陽系開発”の可能性

がなくなり...ボスは、地球表面での、文明の地下都市空間へのシフトを提唱したの

でしょうか?」

「そうですね...」高杉が言った。「ボスは、次の手段として、“巨大・宇宙人口島”〔地

下3層からなる居住空間〕のみを...地球表層で実現する道を、模索していました...

  地球表層に、この〔高機能空間〕を創出することにより...地球生態系とも協調し、

口爆発をも吸収する事が可能かどうか...考察していたようです。むろん、人口抑制は、

絶対条件になります」

「はい!」夏美が、うなづいた。「そうなんですか...それは、バブル崩壊よりも、前のこと

かしら?」

「うーむ...ちょうど、その頃かも知れません...スペースシャトルの大事故が起ったの

は、」

「ええと...何度かありましたね...大気圏突入時の、コロンビア号の空中分解事故

(2003年)と...その前の、チャレンジャー号の打ち上げ時の空中分解事故(1986年)

ですね...コロンビア号の事故は、つい最近なんですね、」

「そうですね...ええ、ともかく...皆さんのご冥福をお祈りします...」

「はい...」夏美が、目を閉じた。「そうした中で...宇宙殖民の可能性は、消えて行っ

たわけですね?」

「そうですね...私は、コロンビア号の事故以前に、それを自覚していました...

  ともかく、文明の版図地球表層有限空間に限定すると、別の“厳しい条件”が発生

してきます。が、ともかく、人類の“文明史ストーリイ”が、太陽系開発ではなく、“意識・情

報革命”の方をオプションしたわけです。

  文明の第3ステージ/“意識・情報革命”のコースが、選択されたわけです。その

トーリイの示された方向へ、分水嶺の雨水が導かれ、川筋が谷川に集まり、谷が形成

され始めたのです。渓谷は、やがて大河を形成し、それはもはや元に戻ることはありませ

ん」

「はい...」夏美が、頭を傾げた。

「そこで、まず、人口爆発の抑制です。

  これは、避けては通れません。地球生態系を維持するには、絶対条件となります。ここ

が、実質的に無限大の太陽系空間とは、最も違う所でしょう。もっとも、いずれの場合で

も、この奇跡的に成立している、地球生態系必須のものです。人類が生存していくた

めには、地球生態系命の揺り籠であり、分離することは不可能なのです...」

  夏美が、深くうなづいた。

“命と、生態系は、不可分”ということですね?一体のもの、ということですね?」

「そうです!

  日本政府は、政策的に“少子化対策/人口増加政策”を押し進めていますが、それは

誰が考えても、“間違い”だということは明白です。有限空間地球表層おいては、すで

飢餓が進でいます。それでも、あえて人口増加政策というのは、巨大なエゴと言わな

ければならないでしょう。

  また、食糧自給率40%の島国においては、多少の気候変動で、日本国民自身が容

易に飢餓に陥ってしまうことを、警告しておきます国家指導者は、こうした事態に、最大

の責任を持つべきです」

自民党・長期政権の...」津田が言った。「農政の失敗は、国民を大きな危機にさらす

結果になっています。この責任は、非常に重大です」

「はい...」夏見がうなづき、支折の方を見た。

  支折は、キーボードを打ち込み、何かを検索していた。

 

「さて...」高杉が言った。「ここまで来てしまった現状では...

  “人口抑制”と共に、“反・グローバル化/文明の折り返し”は必至です。また、資本

主義/経済至上主義は、その時代的役割を終了したと言うことですね。

  それから、軍産複合体が創出する、世界の膨大な軍事力は、覇権主義とともに、昇華

すべきです。“20世紀の遺物”として、“大量破壊兵器”と共に、地球上から完全に消

し去るべきだと言うことですね。

  また...その、“文明のお荷物”昇華した分は、そっくり“地球温暖化対策”に当て

るべきです。もはや、戦争などをやっていては、“温暖化対策”にはならないと言うことで

す」

世界の兵器産業が、」夏美が言った。「そっくり無くなるだけでも、相当な“温暖化対策”

になりますね?もともと、そんなものは、“必要の無いもの”ですし...」

「秋月茜(理論研究員)が...」津田が言った。「今、その問題を、検討をしているようです」

「そうですか...」夏美が言った。

「ええ...支折です...  wpe4F.jpg (12230 バイト)    house5.114.2.jpg (1340 バイト)

  あ、江里香さん...ありがとうございます」支折は、コーヒーを受け取り、両

手で包んだ。

「ええ、今回は、これで一区切りとします...人間性の復権のテーマは、次の

ページへ譲ることにします。

  それで、次回は...格差社会からドロップアウトし、〔人間の巣〕の構築へ

向かうプロセスと...文明の第3ステージ/“意識・情報革命”の中身を、高

杉・塾長にお願いして、ほんの少し、のぞいてみたいと思っています...」

 

「ええ...

  経済至上主義/資本主義・競争社会は...参加するには、非常に厳し

い条件があります。でも、ドロップアウト/脱落するのは、至って容易です。ま

た、社会的弱者も、容易にドロップアウトします。

  そこで私たちは、間口の広いドロップアウトを通過することで、未来型社会

の建設プロセスを、模索して行こうと思っています...

  つまり、いわゆる負け組は、旗印を立てて、過疎地に集合し...そこに、

新たに〔人間の巣〕〔極楽浄土〕を建設するのは、比較的容易かも知れな

いと言うことです...

  これは、究極的な“温暖化対策”でもあります。したがって、〔人間の巣〕

の移行は、自然の流れ...時代の流れ...文明の選択となって来るか

知れません...どうぞ、次の展開に、ご期待ください!」