Lucanus cervus * 亜種と近縁種の雌に就いて

- by A.CHIBA -


   

クワガタの雌は雄に比べて立派な大腮も無く、大型種などでは殆どの種が雄より甚だしく小型である事などからどうしても地味な存在になっている。
また別種や亜種とされているものでも、雌で比較すると区別が困難な種が多く、当然ながら同属が混在する地域において雌のみ単体で採集された状況などでは混乱する場合も多い。ただ、中には雌で記載された種も幾つかある。
ヨーロッパミヤマ Lucanus cervus ・ケレブスは多くの種や亜種が古くから記載されていて以前から興味を持っていた。そこでヨーロッパミヤマとその亜種、近縁種に限定して雌を比較してみようと思い立ち資料を探してみた。しかし古いもの最近のものも含め雌についての記述はやはり少ない。とりあえずは今まで入手出来た標本と少ない資料を参考にし無謀にも書いてみたが、果たしてどの程度まで比較し区別出来るのか? やはり雌は難しい。(一度学名を書いた種は次にカタカナ表記のみとしています)  



まず、原名亜種ヨーロッパミヤマのLucanus cervus ・ケレブスの雌で触角先端の幅のある部分は4節。触角の違いは雌を見る上でやはりポイントに成る。体色には個体差があり赤っぽいものから黒味の強いものまでいる。 fig 1 は英国産で見たのはこの個体だけだが、文献によると最大サイズは47-8mmの様だ。フランスやイタリアなど大陸では最大50mmを超えるかもしれない。
聞くところによると産地によっては発生状況が年によってずいぶんと差が出るそうで、発生数が極端に少ない年が有るそうだ。 fig 2 は東欧のブルガリアからのものだが、ここには触角6節の亜種Lucanus cervus turcicus ・トルキクスもいる。



fig 3 はLucanus cervus judaicus ・ユダイクスこの亜種はシリア、トルコなどに分布しているが、近年はトルコで採集されたものが来ている。原名亜種より大きくなり、雄には100mmに達する巨大なものも有り雌もやはり平均してサイズは大きく50mmを超える個体もいる。体色は殆どの個体で黒味が強く触角の先端は4節、触角が同じ原名亜種と分布は重ならない。
その他に前胸突起 (前胸腹板) のカタチに微妙だが相違が見られ、原名亜種雌では突起が角形に近いカタチで隆起しているがユダイクスの雌では殆どの個体が丸みをおびるようだ。



    

fig 4 の個体はLucanus cervus fabiani (又はfabianiiと書いてある文献もあるが記載文を見ていない為どちらが正しいのか?) ・ファビアーニ、の同定ラベルが付いた雌。これは触角の先端が5節の亜種で南フランスから記載されているらしいが、あまり大きく成らず雄の最大でも60mm前後である。雌の最大サイズは多くを見ておらず資料もないので不明。
触角5節の亜種 (又は形) というと、やはり南フランスから記載されたLucanus cervus pentaphyllus (学名-ペンタフィルス・5葉の) の方が知られているが、学名は触角5節にちなんで付けられた。またファビアーニをこのペンタフィルスのシノニムとする文献もある。
他にイタリアから東欧にかけても、触角が5節(6節も)の個体が混在し採集されているが、それらは原名亜種と触角以外での区別は困難でやはり概して小型個体が多い。
またペンタフィルスは山地変化 (山地性) であり山地性でないものはケレブスであると記述された文献 (LE  NATURALISTE) もあるのだが、これが事実なら興味深い。
他にも、触角が5節の亜種と思われるものでLucanus cervus mediadonta Lacroix 1978 が、旧ソビエトのグルジアから記載されている。この種のどの様な標本も実際に検した事はないが、ホロタイプ雄の図では触角は5節になっており、記載文の中にも アンテナは "pentaphylle"とある。ただ雌はまだ知られていない様だ。

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