『あずきちゃん』感想 第30話「大ピンチ! なかよし三人組」

最終更新日: 2001/03/25


 この話は『あずきちゃん』のビデオを借りて見るようになって、「これってもしかして、とんでもない作品なんじゃないか」と思うようになった最初の作品です。 だから、個人的にとっても印象深いエピソードです。

 あらすじを言うと、ジダマとかおるがケンカをして、最後は仲直りしてハッピーエンド。そう、こんな話は昔からアニメにはたくさんあるのです。 この手のたいていの話では、気持ちのすれ違いや誤解がケンカの原因なので、誰かが仲を取り持ってやると何ごともなかったかのように仲直りしてしまいます。 しかし、ケンカとは本当にそのようなものだったでしょうか?

 ケンカに至るまでには普段からの考え方の微妙な違いや違和感、あるいは人生観の違いが必ず積み重なっています。 表向きは仲よくつきあってても心の中にそんな気持ちがたまってきて、ちょっとした事件が原因で臨界点に至るのです。 だから、一度ケンカをしてしまうと仲直りが難しい。 このエピソードは、そんなケンカにまつわる心の動きを完全なまでに描写した恐ろしい作品だと思います。


 第30話はかおるがあずきの家に来て、泣きながら回想するシーンからはじまります。 ジダマが最初に、満塁軒のラーメンの味が落ちた、と言ったのはそれほど悪意があったとは思えません。 それにもかかわらず、これをきっかけに二人の口論はエスカレートします。

 かおるは、ジダマがケンのことをいつも「スカートめくり」と言うのが気に入りません。 しかし、かおるはケンの悪口を言われたのがいやだっただけではないのです。 かおるは内心、男の子への恋心を理解しないジダマに反感を抱いていたに違いありません。それが、ここで爆発したのです。 「ジダマはおばあちゃんといれば幸せなんでしょ」というセリフには、そんな気持ちがにじみ出ています。

 一方のジダマはもっと深刻だったに違いありません。なにしろ、自分が最も嫌っている、男女間のベタベタした気持ちを常に振りまいていたのが他ならぬかおるだったわけです。 普段はヨーコを敵として攻撃していれば気もまぎれたのでしょうが、かおるの言動だってずいぶんジダマの神経を逆撫でしていたはずです。 あるいは、コイツは違う世界にいるな、と思ったかもしれません。

 かくして、二人はケンカに突入します。気持ちのすれ違いではありません。人生観の違いが表面化したのです


 二人のケンカに対する思いの強さもかなり違っていました。 かおるの側は「ジダマは理解してくれない」という一種の困惑であったのに対し、ジダマは明らかにかおるの志向を嫌っています。 だから、かおるは徐々に仲直りしたいという気持ちが高まってきますが、ジダマはそうは収まりません。ジダマが意地っ張りという性格もありますが、やはりジダマは本当にかおるを嫌いになっているのです。

「あたし、かおるちゃんのそういうとこがイヤなのよね」

 これは本当に嫌っていなければ出てこないセリフだと思います。しかし、そのジダマがなぜ仲直りしようと思ったのでしょうか?

 そのきっかけは、あずきが「ケンカなんてつまんないよ、もうやめようよ」と捨てぜりふを残して、ジダマの制止も聞かずに帰ってしまったことです。 おそらくジダマは「確かにケンカなんてつまらないや」と思ったわけでもないし、かおるの仲直りしたい気持ちを聞いて心を動かされたわけではないでしょう。 ジダマはあずきのとても落胆した態度を見て、自分の意地っ張りがあずきまでも傷つけていること、そしてこのままにしていけば、あずきとの友情までも失ってしまうことを知ったのだと思うのです。 そんなことになってはいけない、と思い直したときに、自分とあずきの友情と同時に、かおるとの友情がいとおしいものであることに気がついたのではないでしょうか。

 ジダマは自分の考え方を貫いているヤツです。相手が敵だと思えば、ヨーコに対するように徹底的に敵対するヤツなんです。 だからかおると絶交するだけで済むなら、たぶんそれでよかったのです。 しかし、ジダマはそれだけで済まないことに気づいたのでしょう。意地を張るばかりが正義の人生でないということに。

 とはいえ、ジダマがかおるの本当の気持ちを理解するまでには、まだ何年かかかることなのでしょうね。


 そんなジダマだが、やっぱり自分を曲げるのはいやだ。素直に自分の非を認めてあやまるのは、はずかしい。 そこで考えるのが「スカートをはく」っていうのがすごいところです。 ケンの悪口をあやまる口実になるっていうこともあるけど、何より自分が変わったことを一目で相手にわからせてしまうわけですから。

 そして「スカートめくり」っていうのは、『あずきちゃん』原作における一つの重要なイベントなわけなのです。 これを元々とは全く違うテーマにして、一つのエピソードを構成してしまう雪室氏、おそるべしです。 また、スカートをはかないジダマっていうのは、声を演じている松本梨香さんとも重なります。梨香さん、全くスカートはかないですからね。 それに、ケンカをしているジダマの声は怖くなるほどのリアリティを感じます。ボクは「ジダマは梨香さんだ」と思っていますが、この話もそれがよく出ているのではないかと思います。

 仲直りの後、かおるは泣きながら「スカートはかない方がジダマらしいわよ」と答えます。かおるは何も変わってほしくないのです。 今までの友情も、ジダマの意地っ張りも。そして、かおる自身もこのケンカを通して大きく変わることはありませんでした。

 その一方でジダマはこの事件で大きなことを学んだのではないでしょうか。意地ばかり張っていては人間関係をこわしてしまうこと。違う考え方も含めて他人を認めること。 第30話は一見して三人組の人間関係を描いた話に見えますが、実はこのようなジダマの精神的成長が主題になっているのではないかと、ボクには思えます。 それはボクが子供の頃まさにこんなケンカをよくした (そして仲直りできなかったことが多かった) 思い出と重なるからかもしれません。 そして、自らのことを「自己主張が強く、直しをいやがり、気に入らないとすぐ降りると、きわめて評判のわるいライター」と書いている雪室氏も、そんな意地っ張りの一人であったのではないでしょうか。


 さてさて、最後の話題は勇之助です。この話の途中で、ケンカに悩むあずきに対して勇之助がいろんなことを言っています。

というわけで、まるでトンチンカン、というかもう完全に無関心ですね。まあ、でもこの年頃の男の子がまともにアドバイスできないのは、ある意味普通です。 おそらく、この話の勇之助はいつものスーパー小学生ぶりとは違い、そんな普通の男の子として描かれていると思います。そこまではいいのです。

 しかしながら続く第31話の冒頭で、あずきの回想として

勇之助くんのアドバイスのおかげで、めでたく仲直りしたけど、けんかしてる本人より、まわりの人の方がはらはらするのよね。

って言っているのだけはちょっと納得がいかないぞ。(笑)

★これは名作★


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