第6話 ー季節は夏、そして・・・ー
 期末テストが終わりいよいよ夏休み。僕はバンド活動に夢中で勉強をしっかりとやっていなかったものの何とか単位がとれたのでひとまず安心した。「他のみんなはどうだっただろう?」みんなも同じようにバンドの練習でほとんどの時間を使っていったので勉強する間もなくかなり苦労したと思っていたが、誰もが無事に単位をとっていた。  そろそろ紗峨野町のイベントに参加するためバンドの練習をしなければならなかった。休みの始めに青山からイベントの詳細について知らされた。「例のイベント事なんだけど8月の25日から31日までの5日間でいろんな催物があるんだが、俺達が参加するバンドの方はもう申し込んでおいたし、曲のテープも町の委員会に送った。早めにこういうことは手を打っておかないと、な」「曲?、もしかして・・・」「ああ、この前サークルの発表でやったやつをね。まぁ参加出来るかどうかは委員会の返事待ちだからなぁ、結果がどうであれそれまですこしで練習しておくのもいいと思う」実はその曲の詞は僕が作った物であった、しかし自分としてはそれでいいのか疑問だった。なにせ高校の頃作詞という物に少し興味を持ち始めていた頃、適当に作ってみただけだからあまり出来はよくないと感じている。「そんな訳で委員会の返事が1週間後には来ると思うからその時すぐ連絡するよ」その1週間後、僕達の参加が認められた。 僕は返事が来るまでの間、実家へ戻る事にした。紗峨野と同じくらいの規模の都市で、交通網も電車で行けない所が無いくらいしっかりとしている。実家へ戻って両親と久しぶりに外食をし、今までの学校生活について話しあい、地元の友人に会ったりと充実した日々を過ごした。この季節なら海や山へ行ったりとかなり有意義にレジャー楽しむ人が覆いと感じるけど、僕にとって有意義な夏休みはそういうものなんかじゃない。あのイベントが僕にとって一番の楽しみだから・・・。  その後紗峨野に戻ってから、両親が地元でも有名な地酒を渡してやって欲しいという理由で画家である僕の叔父のアトリエへ行く事にした。彼は美術大学へ進学後、絵をとことんまで追求するため、ヨーロッパやアジアで様々な文化を見る旅をして自分の画家としての感覚を物にして行った実力者だ。今ではいろんな展示会には指名される程で今回のイベントの裏方として依頼を受けていた。自分のマンションから徒歩20分ぐらいの場所で森林公園を抜けて御神坂(ごしんざか)という坂道を越えた所にこじんまりとした木造の家である。「お久しぶりです」「おお、よく来てくれた、さあ」久しぶりの再会に笑顔で迎えてくれた。「両親からのお土産で、地酒だそうで飲んでくれって」「すまんな、で、どうかな新しい生活は?」「まぁ、それなりに生活をしているってという所かな、もちろん勉強も自炊もやってるしね。後サークルで音楽をやってるんだけど今度街のイベントでバンドの有志参加を決めたんだよ。それでそこの委員会に俺達の作ったデモテープを渡したんだけど、結果はどうだかなぁ?」僕はバンドを始めて間も無いのにいきなりイベントに参加できる実力は未知数だと思っていたから、結果が思わしく無い方向に向かうのでは無いかと不安だった。「その時できることは果たしたのだから自分を信じるしか無い」叔父は落ち着いてコーヒーを飲みながら僕にそう答えた。「それじゃ、イベントで会えたら」 その後バンド活動を再会した。練習場所は野中の知り合いで地元のカフェの一室を借りている。その知り合いとは同じ大学の赤坂明という人物で彼の叔父がそのカフェを開いており、趣味でジャズをやっているらしく近所迷惑でうるさくなるので地下に一室を設けたとか。練習場所のない僕らにとって有り難い話だ。「練習時間はたくさんあるから問題ないよ」「そうだな、でもたくさん練習する事なくみんな音を合わせてやれてるからなぁ、かなり飲み込みが早いんで驚いた」野中は笑み浮かべ感心していた。「不思議、ここまでやれるなんて」中林が髪をかきあげながら言った。「それでも練習はしっかりやっとくべきだな、本番がどうなるか不安だしね。油断して失敗したらと思うと」僕の不安の心がそう言わせた。8月の始めから練習を開始して初舞台に臨めるよう経験を積み重ねてからあっという間に休みももうわずかになり、イベントの日まで後わずかだった。