第4話  ーバンド活動ー
 何度か集まって練習を重ねていった結果、それなりに人に聞かせられる程度にはなっていった。そうしているうちに発表の時期が迫っていた。6月の終わり頃に行われ、5組のバンドがそれぞれの成果を発表する。「いよいよだな」野中がベースを磨きながら言った。「まぁ、これでやってみよう」僕は肩ひじはらずに考えていた。「すべて私にかかってるのよね、緊張する~」中林はボーカルなので全員を引っ張る役目なので嫌が応でも緊張していた。「俺だって失敗するんじゃないかって気になって緊張が・・・」いつになく自身のない青山。「一生懸命やったからきっとできるって信じたい」金井は自分をとにかく信じた。最後の練習を終えて、それぞれの決意は固まっていた。 いよいよ発表当日、体育館を借りて発表が行われた。先に4組が演奏をしたがブラスバンドやジャズ、さらに協奏曲などジャンルの広い曲目を演奏していてかなり高いレベルの人達ばかりだったため、僕の中に緊張感が押し寄せてきた。「みんな上手いよな、これじゃかなわないかもしれない。でもここまで来た以上はやらないと」いよいよ僕らの出番が来た! ライトが照らす舞台に上がりそれぞれの持ち場についてドラムの青山がリズムをとって演奏は始まった。中林のボーカルは部員達をおどろかせる程のセンスがあり真剣さがこちらまで伝わってきた、僕らバックバンドはさすがにみんな経験していた事だけあってテンポよく、しかも自分のペースに合わせずチームワークを意識しながら演奏していた。ちなみに僕は練習の成果はあったもののみんなについていくのがやっとだった。歌詞は彼女が作ったもので4曲程書いてきたものを僕らも交えて色々と意見した中の1曲を選んだ。僕らの演奏が終わった後、拍手以上にものすごい歓声が聞こえ、「自分達の演奏はやっとましになったぐらいなのに何故こんな歓声が来るんだ」と誰もが驚いていた。聴き手を感動をさせ評価をうけることが曲を作る立場にとってどれだけ嬉しい事かを強く感じていた。 サークルが終わってからその帰りに僕らは今日の事を色々話していた。「何とか上手く言ったよ、肩から荷がおりた。みんな上手すぎるからこっちが失敗したらどうしようって思ってた」僕は安心した気持ちでそんな不安を言った。「いやぁ、自分でもここまでできるとは思わなかった。それにあの連帯感はかなりのもんでさ、息があってるって証拠だよ」「私歌ってる時緊張が抜けなかった、みんなと集まる機会があまりなくて練習時間も少なかったから出来るかどうか不安でね・・・。」「あれだけの少ない時間で出来たというのが不思議なくらいだと思ったよ、本当に」「よかった、これで少し自信がついた、かな?」青山がその時「今後の活動について決めようと思うんだが飯でも食べながら話さないか? で、何処にする」 これからファミリーレストランへ行き、今後の活動のことについて話し合うわけだが青山がこう切り出した。「サークルのこともあるけど、そんなにあの中では活動できることが少ないから他にできる事がないか探していたんだけど、この町のイベントで有志で演奏してくれるやつを募集してるそうだ」「募集!?」僕らは声を合わせた。「それで俺たちも出ようと思うんだけど、俺の一存で決めてみんなの意見を聞かない訳には行かないから同化と思って」「俺たちもそれは賛成したいけど、いつなんだ? そのイベント」「8月末って駅の掲示板にあったな、詳しくはまだわからない」「今からなら練習の時間はかなりあると思うから、やってみない?」「そうね、時間に余裕がある方が気持ちにゆとりが持てて練習も良くできると思うけど」金井がそう言った。「もう決まりだな」この短い時間の中でやることを僕らはあっさりと決めていた。 「それじゃあな」それぞれこの店で別れたが金井菜々と帰る方向が同じだったので、途中まで一緒に行く事になった。「いやぁ、無事に終わったよ。でもあれだけの歓声がくるなんて思いもよらなかったよ」「私もああいうのは初めてだった」彼女は少し嬉しそうに言った。「あれだけみんなで息を合わせられたのが今回の成功に繋がったかもな」「わたし、みんなと仲良く出来そうだって思える。初めて学校へ来た時に中林さんは気軽に声かけてくれたし他の人達だって・・・。今まで私、私・・・、上手く人と付き合えなかったから」彼女はうつむいて寂し気な表情を見せた。僕はその表情を決して見のがさなかった。「金井さん?」「ごめん。つまらない事言って、8月のイベントも頑張りましょ」「ああ」僕はどう答えていいか一瞬わからなくなった。「それじゃ」彼女はその場から急いだ様に去っていった。「彼女、昔何かあったのだろうか? 今まで上手く人と付き合えなかったって言っていたけど」心の中で僕はそう考えていた。それは今後、彼女とのかかわりあいでいろんなことをしって行くのかも知れない。 空を見上げるとわずかに星が見えていた。