第2話 ー出会いー
いよいよサークル活動が本格的に始まり、6月末までに仲間とバンドを組んで演奏することとなった。互いに色々とバンドについて評価し合うというのが目的だ。バンドとはいってもどんな楽器だっていい、電子楽器類やバイオリン、フルートなど混ざっていたっておかしくはない。僕は青山と先程話し掛けて来た野中と3人で今後の事を相談する事に決めた、まず青山が話を切り出した。
「3人で出来るものなのかな、バンドって」
「俺はちょうどいいと思うが、足りない所となるとボーカルとギター、ベース、ドラムそれ以外には・・・」
「足りない所?」野中の言った言葉の意味が僕には解らなかった。
「そうだ鍵盤楽器、特にキーボードだ。いろんな音が出せるから音楽の表現の幅が増える」
「なるほど・・・、ね」僕らは彼の言った言葉を聞いて本格的にバンドでたくさん経験を積んできた人の見解だと思った。
「でもやるやつはどうするんだ? 探さないと」
「確かに、俺の知っているやつにはピアノを弾けるやつなんていないしな」野中の身近にはいない。
「だれか弾ける人いるだろうか?」僕らは悩んでいた。周りはサークルの人達の相談し合う声が教室を包んでいた。その時僕はふと音楽室でピアノを弾いていた彼女の事を思い出す。その時2人の女性が足早にやってきた。1人は音楽室でピアノを弾いていた例の彼女だった。
「すいません。音楽室の掃除で遅れました。」2人は部長にそう話してサークルでやっている事を聞き、それから僕らの所へ近づいて来た。
「ねえ、あなた達同じグループ? 私達も入れてもらえない?」
「それはかまわないけど・・・、何か楽器で出来るものは?」野中が期待感を感じて答えた。僕は不思議に思った。女の子は積極的には男のグループに入らず、女性のグループに入って行くものだと思っていたがすべての人がそうではないらしい。
「私はピアノよ、5歳の頃からずっとやってたの」僕らにメンバーに入れてくれないかと話し掛けてきた中林佑子が言った。
「えっ、ピアノ弾けるの? ご、5歳から?」僕らは口を揃えて思わず驚いてしまった。
「コンサートとかには出た事はあるの?」青山が明るい表情で言った。
「うん、小学校から高校までかな? ピアノ教室で開催してたのに出たのが何度かね」
「かなりの実力者じゃないのか・・・。」青山は唖然としていた。
「まあ、有力なメンバーが入ってくれたのはいいことじゃないか、これでなんとかなりそうだ」
「よかったぁ、どこかのグループに入れないかったらどうしようかと思ったの」
ピアノが弾ける、コンサートにも出たと言う事は腕前が確かなものである事だと思った、ちょうどいい所に望みのメンバーが来てくれた訳だ。次はそれぞれのパートを決めだ。
「さて、メンバーは一応揃ったんだが誰が何を担当するのか決めよう。俺はベースを弾いていたんでそれでいいかな?」野中が始めた。
「へえ、そうか。俺はドラムを高校の頃やってたんだ、学祭では何とか人に聞かせられるぐらいだと自分じゃ思ってるけど」青山はバンド活動の経験は少々持っている。
「俺ギターかな、弾くと言ってもアコースティックギターだけど人に聞かせることがなかったからなぁ」三嶋は自信なさげに答えた。
「心配はないさ、それでも十分だし練習が肝心だから」
「そうか、確かに。やってこそ上手くなるんだよね」
そういえばもう一人、中林佑子と一緒に来た女性は何をやってたのだろうか。そう三嶋が考えている所に青山が耳打ちしてきた。
「なあ、もう一人の子どこかで見なかったか?」
「どこかで?あ、まさか・・・。」
「気付いたか、1102室のピアノを弾いていた彼女だよ」音楽室でベートーベンの月光ソナタを弾いていたその人だったのだ。三嶋は何気なく中林に彼女の事を聞いた。
「あの、彼女とはどこで知り合ったの?」
「私達音楽科でね、クラスが一緒だからその時に友達になったのよ。音楽室はけっこう放課後使ってる人はいるよ」
「そうか」
「私、ちょっと少しだけ誰も教室にいなかったから弾いてみたの、そうしたら・・・。」彼女は言葉少なめ言った、おとなしそうな性格であった。
「金井菜々といいます」
「よろしく」男3人が挨拶する。
「2人ともピアノか、ボーカルがいないんだけどどうする?」野中が言った。
「ピアノは一つだけでいいから、メインがいないと話にならないな」
「私がボーカルじゃダメ? そうすれば菜々ちゃんがピアノで、ね」中林佑子が積極的にこう言った。誰も反対する人はいなかった、むしろすんなり事が運んだのでよかった。6月末は足早にやってくるのだからいつまでもメンバー決めに時間は取ってられない。
「じゃあこれで決まりだな」
「練習する場所は? それも決めないと行けないんじゃないのか。すぐにでも取りかからないと」三嶋が不安そうに言う。
「それなんだけど、海岸通りのカフェにちょっとした知り合いがいてね。その地下にはスタジオがあって結構いろんなバンドに貸してる、ちょっとたのんでみるよ」こうして僕らの活動が始まった。良いもの、嫌なもの様々な思い出を残していくことになるだろう。