第19話 ー静かに流れゆく時間その2ー
ゆるやかに楽しい時間は流れて行った。一同は山の新鮮な空気を吸って森林浴を楽しんでいた。森を歩き回って都会で見ることの無い自然のありのままの姿の中に彼らはいた。
「空気が美味しいってこのことかもね」
「こうやってゆっくりと歩くことも普段ないからさ、おちつくよなぁ」
「町じゃお目にかかれない動物とか植物を見られるのもいいよ」仲間が口々に楽しさを伝え合っていた。
「景色も抜群、本当に別世界に来ているようだよ」三嶋は急ぐこと無く周りを見ながら仲間の後ろをあるいていた。
「金井さんまだ来てないな、そういえば」彼らの周りには彼女がいない。
「おい、三嶋。金井さんが見当たらないんだけど、そばにいなかったか?」
「いつのまにかはぐれたかもしれないな。俺、探してくるよ」
「じゃあ、私たちはこの先の展望台でまってるからね」
今来た道を三嶋は戻って金井を探しに行った。
金井は一人でゆっくりと森の中を歩いて避暑の雰囲気を味わっていた。木々が日差しを隠して
しずかで落ち着きのある清々しい空間を作っていた。そんな所を彼女はただ一人あるいていた、何かを考えながら。
「金井さん」道を引き返してきた三嶋が彼女を見つけて声をかけた。
「三嶋君」
「よかった、はぐれたかと思ったよ」すこし走ってきたせいか息をきらせている。
「ごめん。私、この森を眺めながらゆっくり歩いてたからみんなより遅れちゃった」少々うつむき加減の金井。
「そうか。まぁこういう場所ってゆっくり歩きたくなるもんだよな。俺も着いて行くか、みんなとはそれからでも合流できるしね。この先の展望台にいると思うから」彼らはまばらにおいてある石や木々が
転がっている少々歩きづらい道を歩き出した。
「昔、親戚の所にいた時もこんないい場所があってよく夏休みには歩いていたの」
「確か両親を亡くしてから親戚の所へ行ったんだよね」
「引っ越してきたときは、本当につらくて一人でいたことが多かったの。海や森のあるところへ行って気持ちを落ち着かせようとしていたのかもしれない」
「俺もこういう場所は嫌いじゃないよ。一人で落ち着きたい時は俺もそうするかもね」
「三嶋君も嫌な気持ちになることって多いの?」彼女は何気に聞いてみた。
「まぁ、町に引っ越してくるまではね。いろいろとあって・・・」
「引っ越してくるまでは?」
「うちが結構教育にうるさいせいもあって、家族と進路のことでもめていたんだけどね、とにかくうちを出たかったんで今の大学をこっそり受験して合格。その後は、家族には家族の望んでいる大学に行くっていってうそをついてからそれきりだった」
「そんなことがあったんだ」金井は彼をじっと見つめている。
「でもやっと嫌なことからさよなら出来たんだ。みんなと出会って毎日が楽しいから」
「ごめんね、悪いこと聞いて」
「かまわないよ」笑顔で三嶋が彼女に答える。彼らが話しながら時間をかけて歩いた結果、仲間の
いる展望台に着いた。
「やっと来たか、心配したぞ」
「悪い、森林浴しながらゆっくりとしてたんだよ」
「展望台からの海の眺めは最高だな、こんなに青くすんでるんだもんな」晴れた空が海の広大さを
いっそう演出して、彼らの住んでいる町の海岸とは比べ物にならなかった。
「この先、山の頂上までは続いているみたいだからもう少し行ってみない?」中林が元気にみんなを誘う。そんな時一人の男性が展望台にカメラを持ってやって来た。
「こんにちわ」一同がその男性に挨拶すると、三嶋の表情が少し変わった。
「やあ、みなさんも夏休みでここへ? ん、岳人じゃないか。君もいたのか」
「おじさん? どうしてここへ」意外な所で叔父と再会した。
「仕事が落ち着いたんですこし骨休めをと思ってね。景色も撮ったり、絵も描いたりと仕事で自由に出来ない分、思い切って自分のやりたいことをやっているよ」
「そうか、仕事も結構大変そうだからね。おじさんは」
「仕事となるといろいろと注文が多いからな、本当に自分のやりたいことも出来ないんだよ」
突然の叔父との出会い、彼らはせっかくだからと一緒にこの後登山をを続けて行った。