第16話 ー人集めー
 1年目の大学生活はあっという間に終わった。1月に入ってから1週間後にはもう試験でそれが終わればまたもや長い休みに入っていった。この間バイトや自分の趣味に費やす時間があったとしても休みが余りすぎるくらいである。それが過ぎたら新学期、この時期は新入生を自分達のサークルに入れようと勧誘が絶える事はなかった。三嶋達のサークルも例外ではない、年々少子化で大学にも人は入ってこない状況でサークルへの参加もその影響で少なくなるのは当然だ。「さて、適当に声かけするか?」「そうだな、とりあえず人集めからだな」色々声をかけて話を聞いてもらうにしても、そう上手くサークルに来てくれる人は捕まらず、まわりの静かな校舎の様子の中で途方に暮れていた。「どうしようもないな。場所でも変えてみるか」「でも生徒会からはこの場所でやるように指示を受けてるからなぁ。勝手な事もできないだろ?」生徒会はいろいろサークルには風紀の問題上などどいっては指示を出す所であった。文化祭の模擬店でも保健衛生上やいろんなことで書類を期日までに必ず出すようにしないと、一切の物は受け付けないなどけっこう頭の堅い人達ばかりなのである。「先輩達もいろいろビラ配りしてるらしいけど効果なしだ」野中が2人の様子を見にやって来た。「とんだ、無駄足かもな。どうする?」青山が諦めたようすで問いかけた。「とりあえず戻るかそろそろ今日の講議も終わるから人もそういないしな」そうやって一斉に机を片付けようとした時、2人の男子がこちらに声をかけて来た。「あの、自由音楽部ってここですか?」「ええ、そうですけど」片づけている2人に3人の男女が声をかけて来た。「一度、みなさんの部の方へいってみたいと思ったんで」「自分達のやりたい所が見つからなかったんだよな、いろいろまわってみたんですけどね。最後にここへ来って訳なんです」「そうですか、じゃあこちらの名簿に名前を記入して・・・」とりあえず1日目はなんとか新人達を入れることが出来た。「へえ、3人が高校の同級生?」「1年からずっと一緒だったんです、3年になってから会えなくなりそうだからと思ってどうせだったら同じ大学へ行かないかって言ったんですよ。そしたらここまで来て・・・」「俺も必死で受験勉強しましたよ、ここの偏差値結構高いって聞いたからもう机にいつもへばりついていましたね」「そのおかげでめでたくここへ来れたんだもん、よかったでしょ?」「本当に仲がいいんだなぁ・・・、この3人」三嶋はふと彼等の様子を見てしみじみ思った。「じゃあ、3日後の4時に第五校舎の3階の1303室へ来て下さいね。よろしく!」こうして勧誘はなんとか順調に進みそうな感じであった。  翌日、昼休みに集まって昨日のことを仲間に報告した。「今日は3人だったんだ? なかなかこないもんよね」中林が名簿を見ている。「とりあえず来た事は確かだから、1週間もあるから少なくても入ってくればいいんじゃないか?」「ずっと何時間も座りっぱなしで、何にも出来ないからたいくつなんだよ」「あの3人来てくれるんだろうか?」三嶋がほおづえをついて窓の外を見てみんなに問いかけた。「いまさら何を言うんだよ。結構乗り気で話したたぜ、あの3人」「俺の考え過ぎか・・・、時間が立つと気持ちが変わったりなんてこともあるからさ」「その時になってみないとな、今度は俺達が勧誘してくるよ。お疲れさん」野中が三嶋の肩を叩いて言った。「そういやあ、金井さんは?」 青山が中林を見て話した。「授業のレポートを提出しないと行けないって言って図書館で勉強してるよ」「音楽科って弾いてるだけじゃないのか?」「けっこう音楽に関する歴史とか概論とか、あと話し合いもね。でも難しい話ばかりで私は眠たくなりそうだけど・・・、彼女は一生懸命ノートとってたかな」「俺達もそういう授業ばかりなんだよ。なぁ三嶋」青山がたいくつそうに同意を求めた。「ああ、そうだね」 翌日、中林と野中が勧誘に参加したが、人は来るものの反応は今一つであった。「今日はだめか」野中がため息をついた。「もう片付けた方がいいね」そんなさみしい状況を見ていた1人の男がいた。「あのサークル人が入っていないのか、俺もあそこに入る身としては気掛かりだねぇ」その男は勧誘1日目に来た3人組の1人である、彼は遠くからあの状況をそっと見守っていた。 それからまた1日が経っても音沙汰はなく、望んでいるようには勧誘できなかった。「今の所3人か、もし彼等が残らないと全滅だよ」青山が悩まし気に頭を抱えていた。「俺達の勧誘の仕方が悪いのもあるから、とりあえず時間のあるうちにどうしたら上手く行くか考えないか?」「うん、何もしないよりかはましだと思う」 そして次の日、いろいろとチラシや呼び込みもしたが結局何も得られなかった。「勧誘は難しいよ、本当に。でもさ、部員の募集はこの期間以外にも掲示板に貼ってあるから、年の途中でも来るやつがいると思うし、ここまでかもな」野中が割り切って言った、それから彼等が片付けようとしたその時、こちらへ1人の男性がやって来た。「友達に教えてもらってここにきたんですけど、もう終わりですか?」その後徐々に人が来て10人くらいの列になっていった。「不思議な気分、今まで全然人がこなかったのに」「とりあえず三嶋と青山を呼んでくるよ、これは忙しいな」野中が彼等を探しに出かけている間、中林が侵入部員の対応をしていると、最初に受け付けに訪れた3人の姿があった。「たしか、あなたたちは・・・」「ちょっと仲間を集めに言ってたんですよ、このサークルなら面白いってみんなにすすめてまして」「僕らしか来てなかったみたいだったんで、ちょっと手助けですよ」「せっかく最後の学生生活を楽しくしたいって思っても、このサークルを盛り上げないといけないって思ってたんです、私達だってサークルの一員のつもりですから」「まぁ、気が早いんですけどやるからにはって思いました」彼等の協力で新入生達をこのサークルに招き入れることが出来たのであった。「まさかそこまで考えてくれてるとはね」不思議に思いながらも青山は嬉しそうだった。「なんとか今年は上手くいきそうだな」三嶋もほっとした気持ちで彼等を見ていた。新しい彼等の音楽活動がすでに始まろうとしている。