第15話 ー悩みー
今年もあと2日で終わろうとしている。三嶋は大掃除を済ませ、空いた長い時間を休み明けの試験のために復習をしていた。バンドだけに打ち込んでいる訳には行かず勉強だってやらねばならない。単位をきちんと取らなければ場合によっては留年だってあり得るのだから、両親から出してもらっている高い学費を決して無駄になんて出来ない。そんな思いを持ちながら勉強しているとふとこんな事を考えていた。
「
そういえば今まで何故俺達のバンドは喧嘩もせず上手くやって来れたのだろうか? サークルで初めて会ってから短い間で何故こう上手く物事が進んだのだろう」ノートにシャープペンを走らせる事も自然と止まってしまった。
「とりあえずやってるけど、どうも集中できないな」せっかくの休みを時間があるせいか上手く使えていないようだ。
出かける場所も限られて来て、ほとんどこの辺りの名所というべき所は行っているのであきあきしているのであった。
「あのメンバーは実家に帰ってるのがほとんどだったっけな、あ、そうだ青山は確か・・・」彼は青山に連絡をした。
「よう、どうしたんだ」
「家の大掃除が終わって勉強してたんだけど、どうも落ち着かなくて・・・、時間をそれだけ過ごすのが勿体無くてね」
「そうか、俺も実家には帰らないんで休みまでの時間をどう潰そうかって思ってたんだよ。どうだ久しぶりに出ないか?」
「いいね、じゃあ駅で13時に」二人の意見が一致して暇をどこかで潰す事になった。
そして待ち合わせの13時、紗峨野駅で彼等はおちあった。
「よう」
「今日はどうする?」
「これからドラムのスティックの良い奴を見に行くんだけど付き合ってくれないか?」
「そうだな、今後のためにギターの弦を少し買っておいた方が良いかもな」こうして紗峨野駅前の楽器店に向かった。
「いつもギターを最善のコンディションにしておきたいんで、手入れをしっかりとしていかないとな」三嶋は楽器店で自分の力量にあった堅さの弦を買った。
「けっこうお前は練習してたからなぁ、弦もかなり使い込んでるんじゃないか?」青山は自分の感覚に見合ったドラムのスティックを購入していた。
「もう活動もないけど、来年に向けて少し練習しないとな。もっといい音楽にしたいもんだ」
「来年は新しい1年が入ってくるからね、どうなることやら」
「さて、俺はこれで用事は済ませたけど、お前は?」
「特にこれといって用事は俺もないんだよ。そうだ、どこかで時間でも潰しに行くか」
「まあ、このまま帰るよりか、な」
二人は近くのカフェへ行く事にした。
カフェの窓側の席でコーヒーに口を少しつけた後、三嶋は話を切り出した。
「実は気になってたんだけどさ。サークルでこの活動を始めて以来、全然仲間同志の問題が起きなかったのが不思議だと思っていたんだよ」
「問題?」
「うん、バンドの中で何の楽器を自分は絶対やりたいっていって自己主張したり、歌詞を作って来てもここが気に入らないとかでみんなの意見が会わなくて言い争いになることがないって思っていることだ」
「そういえば、なかったよなぁ確かに・・・」
「これからどうなるのかなって・・・。今はこれでいい、けど、もしかしたら俺達に今後問題が起きてバンドのやるべき事を失ってバラバラになってしまうんじゃないかって」
三嶋は正直これからずっとこのメンバーでやっていけるのかどうかただただ不安だった。今まで上手く事が運び過ぎているのでなおさらそう思えて来たのだ。
「俺も気になっているんだけど、お前と同じように」
「え?」
「確かにここまで上手く事が運ぶなんて出来過ぎ多話だって疑ってたよ、時間どうりにみんな来るし、バンドが一丸となれるように熱心に練習していたからなぁ。みんな揃わなかったりする事がだいたいは多いんじゃないかと思ってね」
「お前昔バンドをやっていたんだったな。その時はそういう風な状況だったのか」
「ああ、それぞれが自分の技術を見せつけたいやつらばかりで勝手な事ばかりやってたからなかなか良い物は出来なかったよ。俺としては不満足だった」
「このサークルに入ったのはその不満足をどうにかしたかったからか?」
「そう。もう一度活動のチャンスが欲しいと思って、気がついたらこのサークルに行く事になったって所かな。
俺は心配する程ではないと思ってるよ。まだバンドを組んでそう時が経ってない部分だってあるわけで、きちんとみんなやってるんだから大丈夫だ、きっと」
「ああ、みんなそうやってやって来てる。その時じゃないとどうなるかなんてわからないよな」
「そういうことだ」
「今の話を以前中林さんにも聞いた事があるんだよ、そうしたらそれぞれ考えの違う人同志がバンド活動してあんなに大成功してここまでやってこれたんだから思いつめるなってさ」
「まぁ、気負いしてかえって上手く行かない事もあるっていう事じゃないか? じゃ帰るか、コーヒー代は俺が持つよ」
「いいよ、そこまでしなくても」
「俺が誘ったんだぜ、すなおに受けとっとけよ」
青山との話しで三嶋の気持ちは一応整理できたものとなった。しかしまだ彼の心の底にはまだバンドの行く末に対する不安は残っている。
「じゃ、来年試験が終われば後は春までは何もないって訳だ。俺はここにずっといるから何かあれば呼んでくれよ」
「ああ、それじゃ」彼は青山と別れて帰り道の途中思った、この日から・・・。
「
このメンバーでずっと楽しんで行こう」と。