第1話 ー新生活ー
入学式から一夜明け、今日は各クラスごとに別れて講議についての説明会の日。僕は文学部国際文化学科に所属しており、説明会の案内に載っている集合場所の教室へと向かった。
「自分が行く所は第3校舎か。校舎まで随分歩くんだなぁ、けっこう広い」
この学校は第7校舎まであって、授業ごとに教室が違うのであちこちと移動することになる。始めのうちは教室を探すのでけっこう迷いそうだ。
「323号室か」第3校舎の2階の教室で説明会は行われる。自分が席について10分してから担任の教師が
来て履修表と授業の時間割を生徒に渡し、僕はそれをくまなく見ていた。
「授業がびっしりつまってるなぁ、授業の取り方によっては早く帰れるかな」中には受けたくない授業もあって
自分の興味のあるところなら勉強したいけれどそうも言っていられない、単位だけはきっちりとらないと留年になる。一通り担任が説明を終えたあと解散となった。帰りに体育館で教科書を販売しているので自分の受ける授業のテキストを買って帰った。
新しい学生生活がこれから始まる訳だが、この同じような毎日の繰り返しが四年間も続くと思うと学校に行くのが嫌になってしまうのではないかと気になっている三嶋だった。
5月になると始まるのが各サークルの募集活動だ。それぞれの部員が新入生を引き込もうと大声で呼び掛けている。でも僕はあまり入ろうと思わなかった。帰りが遅くなるし、サークルといっても名ばかりでほんとに活動してるのかわからないようなただの集まりだったりする。色々と募集をかけている所を無視して帰ろうとした。「おい、どうしたんだ」声をかけてきたのは同じクラスの青山 正紀だ。最近になってクラスの親睦を深めようとコンパをしたときに知り合った。
「お前、サークル入るところ決めたのか?」
「いや、まだだけど入っても時間の無駄になるだけだしなぁ」青山は明るく言葉をかえした。
「そんなの入って見ないとわからねえって、お前なにかやりたいものはないのか? 確か音楽に興味があるとかいってたよな」僕にサークルへ入ることをこいつはすすめている。そこで目についたのは「自由音楽部」と言うサークルの受付だった。
「ここへ行ってみようぜ」と彼が僕の背を押して向かった先の受付には2人の部員がいた。
「あ、説明会へ参加の方ですか」
20分ぐらい話をきいて僕らは帰った。説明会は4月21日の月曜日に第五校舎の3階の1303室で午後4時からあるそうだ。
授業が終わって家に帰ると実家から手紙が来ていた、仕送りもある。なかには野菜や米ぐらいだが一人暮らしの自分にとって貴重なものである。時間は流れ寝ようとした時・・・
「いったいどんな人が来るんだろう」不安で気持ちはいっぱいだった。
説明会の当日、第五校舎に行った時どこからかピアノの音が響いた。
「どこからだろう、1102室からだ。あそこは確か音楽室のはずだけど」僕が向かった教室では一人の女性がピアノを弾いていた。
「うまいもんだな」弾いている曲はベートーベンの月光ソナタだ。悲しげな旋律で弾いているその女性もさみしそうだった。しかし僕に気付くとあわてて立ち上がりその場を去っていった。
「お邪魔しちゃわるかったかな・・・」なぜ彼女は一人でここに、あの曲を弾いていたのか・・・。
説明会場に行くと青山が先に来ていた。
「よう」
「もう来ていたのか、早いね」彼はもう一人の部員とすっかり打ち解けて話をしていたようだ。彼はそう言うタイプである。
「俺は野中だけどよろしく」彼は野中孝一、高校の頃バンドの経歴を持つ。ベースができるやつだ。
「お前達楽器は弾けるのか」
「いや全くないわけじゃないけど、いまいちってところかな」青山も高校時代バンドを経験している。
「バンド経験か、まったくないね」僕はそういうしかなかった。
説明会が始まり、
部員の紹介のあといろんな人との話し合いの時間となった。いわば友達づくりの一環だ。
「でもこれから良い経験をつんでけばいいさ。お互いずっとやっていこうじゃないか」彼らとはこれからうまくやって行けそうだ。色々楽しんでやってみたいと心の中で思った。さて、どうしようか・・・。