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<<修正中>≫贈与税の相続時精算課税

弁護士河原崎弘

暦年課税と相続時精算課税

贈与税の課税制度には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、一定の要件に該当する場合には、相続時精算課税を選択することができます。

相続時精算課税の概略

相続時精算課税とは、生前贈与された財産について、2500万円まで、とりあえず、 非課税としておき、その非課税とした分を、相続時に相続財産に加算して、相続税で精算する制度です。
2500万円を越える贈与を受けた場合は、贈与税がかかりますが、贈与税の税率は一律20%に軽減されています。この支払った贈与税は、後に相続税を計算する場合に控除されます。
この制度は、贈与時に贈与財産に対する贈与税(特別控除額がある)を納め、その贈与者が亡くなった時に、その贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めたその贈与税相当額を控除する方法により贈与税・相続税を通じた納税を行うものです。

適用対象者

贈与者は65歳以上の親、受贈者は贈与者の推定相続人である20歳以上の子(子が亡くなっているときには20歳以上の孫を含みます。)とされています(年齢は贈与の年の1月1日現在のもの)。
なお、平成27年から、贈与者は、「60歳以上に」拡大し、受贈者に、「20歳以上の孫」が加えられる。

相続時精算課税の仕組み

贈与税額の計算(2500万円の控除を受ける)

相続時精算課税の適用を受ける贈与財産については、その選択をした年以後、相続時精算課税に係る贈与者以外の者からの贈与財産と区分して、その贈与者(親)から1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基に贈与税額を計算します。
その贈与税の額は、贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出します。
特別控除額の限度額 2500万円です。前年以前において、既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となります。
なお、相続時精算課税を選択した受贈者(子)が、相続時精算課税に係る贈与者以外の者から贈与を受けた財産については、その贈与財産の価額の合計額から暦年課税の基礎控除額110万円を控除し、贈与税の税率を適用し贈与税額を計算します。
相続時精算課税に係る贈与税額を計算する際には、暦年課税の基礎控除額110万円を控除することはできません。

相続税額の計算(相続税から支払い済の贈与税を控除する)

相続時精算課税を選択した者に係る相続税額は、相続時精算課税に係る贈与者が亡くなった時に、それまでに贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた贈与税相当額を控除して算出します。
その際、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については、相続税の申告し、還付を受けることができます。
なお、相続財産と合算する贈与財産の価額(評価)は、贈与時の価額とされています。

1年目の贈与
2000万円
特別控除額
2000万円
特別控除額残
500万円
贈与が特別控除額の範囲内
なので、贈与税はかからない
2年目の贈与
1600万円
特別控除額残
500万円
課税対象
1100万円
特別控除額残を超えた1100万円が
課税対象となる/税率20%
贈与税額 1100万円 × 0.2 = 220 万円     
相続人の支払う相続税相続した財産+贈与を受けた3300万円
が「相続によって取得した財産」となる
納付すべき相続税額 = 各人の相続税額 − 220万円(納付済の贈与税額)

暦年課税と相続時精算課税の比較

-暦年課税相続時精算課税
贈与者年齢制限なし65歳以上の親
(平成27年から、60歳以上)
受贈 者年齢制限なし推定相続人である20歳以上の子
(平成27年から、 20歳以上の孫が加えられる)
非課税枠基礎控除:年 110万円
毎年使える
特別控除: 2500万円
合計2500万円に達するまで複数年使える
税率10% 〜 50%
(平成27年から、10%〜55%)
一律 20%
債務控除なし相続時に債務控除が可能
相続時の取扱い相続開始前3年以内の贈与は、
贈与時の価額で相続財産として加算する。
贈与財産を贈与時の価額で相続財産に合算し、相続税を計算し、
相続税額から相続時精算課税による支払い済の贈与税額を控除します。
控除しきれない贈与税は還付されます。
メリット・デメリット相続財産を減らすことにより、相続税が安くなる 相続税を安くすることはできない。
この制度を選択すると、その贈与者については、暦年課税制度が使えない
贈与税が高いので、大型の贈与ができない 大型の贈与ができるので、事業承継に利用できる

手続き

相続時精算課税を選択しようとする受贈者(子)は、その選択に係る最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間(贈与税の申告書の提出期間)に、納税地の所轄税務署長に対して「相続時精算課税選択届出書」を、受贈者の戸籍謄本などの一定の書類とともに相続時精算課税の贈与税申告書に添付して提出する必要があります。
相続時精算課税は、受贈者である子、それぞれが、贈与者である父、母ごとに選択できますが、いったん選択すると選択した年以後、贈与者が亡くなる時まで継続して適用され、暦年課税に変更することはできません。

相続時精算課税制度を利用した節税

親から子へ 財産の承継

相続時精算課税を利用すれば、例えば、2500万円以内の現金や不動産を父親から贈与された場合、贈与税を支払わずに済みます。
相続時精算課税で認められている特別控除額2500万円は、複数年に繰り越すことができます。つまり、1年目に2千万円を贈与して、2年目に500万円に贈与するということも可能です。
相続時精課税は、その仕組み全体を見れば、相続税の前払いの性質を持っています。
収益性のある財産の生前贈与や、将来、値上がりする可能性の高い財産の生前贈与を、相続時精算課税方式によって行うと、この「相続税の前払いとしての性質」を生かした効果的な節税が可能となります。
例えば、収益性の高い賃貸アパートや賃貸マンションを生前贈与しておけば、将来的に相続人の財産として相続する場合の相続税よりも、節税になることがあります。また、将来値上がりすることが予想される土地などは、現時点での地価で贈与税を払うほうが、結果的に得になる可能性があります。さらに、事業の承継にも使えます。

相続時精算課税を利用した遺産分割

被相続人が生きている間の遺産分割は、無効ですが、生前贈与は可能です。しかし、贈与税は、高く、財産の承継は、相続まで待つことが常識です。
でも、控除が2500万円あり、2500万円を越えても、贈与税率が、一律20%である相続時精算課税制度を使うと、生前贈与をしても、贈与税は安いです。このため、相続時精算課税を使うと、被相続人の生前に遺産分割ができます。

相続時精算課税と相続による財産移転の比較

-相続時精算課税相続による財産移転
小規模宅地等の特例(評価減)贈与の場合は、使えない使える
物納贈与で得た財産は物納できない物納できる
将来値上がりする財産相続するより有利 遺産の評価が高くなり、税金も高くなる
収益(家賃など)物件の贈与受贈者が収益を取得できる遺産に収益がプラスされ、税金が高くなる
遺産分割と似た効果被相続人の生前に、実質的に、遺産分割可能生前は遺産分割できない
登録免許税1% 0.2%
不動産取得税ありなし

相続時精算課税の問題点

いくつかの問題があります。

相続時精算課税の届出後 推定相続人でなくなった場合

相続時精算課税を受けた後、養子縁組の解消により贈与者の推定相続人でなくなった場合でも、相続時精算課税の適用はあります。その贈与者からの贈与により取得した財産については、引き続き相続時精算課税が適用されるのです。
養子縁組の解消(離縁)前後に、相続時精算課税による財産の贈与を受けた場合、すなわち、時系列的に次のような経過の場合です。
  1. 財産の贈与
  2. 相続時精算課税の届出
  3. 養子縁組の解消
  4. 財産の贈与
養子縁組の解消前の贈与について、相続時精算課税の適用を受けている場合には、養子縁組の解消後の贈与についても、相続時精算課税が適用されます(相続税法21条の9、5項 )

相続時精算制度と相続放棄

相続時精算課税制度を利用しても、その後、受贈者が相続放棄することは できます。相続時精算課税制度を利用して贈与された財産は、すでに受贈者の財産となっているため、その後、相続放棄をしても受贈者の財産であることには変わりがなく、その財産を放棄することにはなりません。
相続税の計算において、相続放棄をしても、相続時精算課税制度によって贈与により取得した財産は、相続により取得した財産とみなされます(相続税法法21条の16、1項)。相続税を計算する上では、相続放棄した人も相続人の1人とみなされ法定相続人に含めることになります。
相続時精算課税制度によって3000万円の贈与を受けて、100万円の贈与税を支払った場合、相続放棄をすると、相続時精算課税制度によって得た贈与財産以外には相続財産がないという状況になります。
この場合において、3000万円は、相続税の基礎控除額に満たないので、贈与税100万円は還付されます。

上記計算例
贈与額特別控除額課税対象額
3000万円2500万円500万円
贈与税=(3000万円 - 2500万円)×0.2
=100万円
相続税 0 の場合(還付)100万円

ただし、相続税額が納付済の贈与税額を上まわる場合は、新たな相続税が生じる場合もあります。

贈与と詐害行為取消

贈与時に贈与者が債務超過であり、債権者への弁済を意図的に免れる目的で財産を贈与したような場合は、詐害行為取消(民法424条)の対象となるため、贈与が取消される可能性があります。
贈与時には財産が十分あったが、その後の状況の悪化で債務超過となってしまったというような場合は、詐害の意思がないので、贈与は詐害行為取消の対象とはなりません。

贈与後の贈与者の破産

相続時精算課税による贈与をおこなった後、贈与者が破産することはできます。 上記詐害行為取消の法理は、破産でも同じです。破産管財人は、債権者を害する行為があれば、否認します。
破産法では、支払停止後または停止前6か月以内におこなった無償行為(贈与は、これに当たる)は否認の対象となります(破産法160条3項)。また、それ以前であっても、当事者が、債権者を害することを知っておこなった贈与は否認の対象となります(破産法160条1項)。否認されると、贈与は取消されます。受贈者が子の場合、債権者を害することを知って贈与したと認定され易いです。

登録 2014.8.2