個人が共同経営していた店舗を止め、持分を払い戻す際の持分の評価は難しい

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2016.2.4mf更新
弁護士河原崎弘

店舗の共同経営

佐々木さんと伊藤さんは、女子高校時代の同級生でした。2人は仲が良く、将来一緒に仕事をしようと話していました。会社に入って10年近くなり、2人で小さな喫茶店を経営しようと話が決まり、東京の郊外で合計1000万円の資金で喫茶店を始めました。
当初から、売上げは伸び、売上げを使ってさらに内装をしたりし、結果的に、1400万円以上の投資をしたことになりました。
店を始めて半年ほどで、2人の共同経営者は、自分達の性格の違い、店の経営方針についての意見の違いに気が付きました。佐々木さんは、「夜は女の子を置き、アルコールを主に出し積極的な経営をしたい」と言いました。しかし、伊藤さんは、「なるべく経費を切り詰めたい」と考え、反対しました。親しい友人が店に来たときなどは、佐々木さんは「料金を安くしたい」と考えていましたが、伊藤さんは、「友人でもきちんと代金を取るように」言いました。
そのうちに佐々木さんは、胃を悪くして病院通いをし始め、時々店を休むようになりました。
当初から、店の利益は2人で平等に分ける約束でしたが、佐々木さんが時々休むため、伊藤さんは平等に分けることについても、苦情を言い始めました。この頃には店の売上げも大きく伸び、2人は月々にそれぞれ40万円ほどの利益分配を受けるようになったのです。
しかし、佐々木さんは、これ以上伊藤さんと一緒に店で働くと精神的にもまいってしまうと考え、店をやめようと思い、友人に相談しました。友人は、「自分からやめるのは不利だから、自分から『やめる』と言わないように」と助言し、さらに、弁護士を紹介してくれました。

店舗についての持分の払い戻し

弁護士の説明は次の通りでした。
「佐々木さんは、いつでも喫茶店の経営から手を引くことはできる。しかし、やめる際に、伊藤さんから、これまで佐々木さんが投資した700万円を取り戻すことが難しい。もう少し一緒に仕事を続け、片方が仕事をやめるとき、これまで店に投資した分について、どのように清算するかを文書で取り決めてからやめるとよい」と助言してくれました。
佐々木さんは、弁護士の薦めに従い仕事を続けました。2人の間でやがて仕事をやめる際の清算の話が出たので、佐々木さんは弁護士の言うとおり、「1人がやめ、他方が仕事を続けるときは、これまでの投資額全額をやめる者に払い戻す」旨の契約書を作りました。この契約書ができ、3ヶ月ほどで佐々木さんは喫茶店の経営から手を引く旨、伊藤さんに申し入れました。
伊藤さんは、佐々木さんの投資額700万円の返還をしぶりました。そこで弁護士が入って話をし、金700万円を月額20万円ずつ分割払いする旨の契約がとりかわされました。佐々木さんは、現在、その弁済を受けています。

事業を始める前に契約をする

経営を続けていくうちに、意見が対立し、一方が経営から手を引くことが多いです。
共同で会社を作ったが、一人が辞める場合、会社の場合は株式の譲渡の規定があります(商法136条以下)。個人の共同経営の場合は、問題が多いのです。 個人の場合は、若干制限がありますが、原則として、辞めること(任意脱退)は自由にできます(民法 678 条 1 項)。共同経営で一方の経営者が手を引いた場合、辞める者は事業を継続する者に対し、自己の持分の払戻しを請求できます(民法 681 条 1 項)。この持分の払戻は、投資額に比べて非常に少なく、やめる当事者が払戻し請求を諦める例も多いのです。
問題は一緒に経営してきた事業にどれだけの価値があるか、従って、やめる当事者の持分はどれ位の金銭的価値があるかの計算です。
この事業の評価は非常に難しく、また裁判で鑑定してもらうと鑑定料も高いのです。少額な裁判では高い鑑定料を支払うわけにはいきません。
そこで、共同経営の場合には、初めから、一方がやめる場合に、他方は、やめる者にいくら払い戻すかを契約書で決めておくべきです。
払戻額は、「これまでの投資額」と決めれば、一番簡単で通常は適正でしょう。しかし、年月とともに価値が減少する物に対する投資額については、「年2割の減価償却をする」とか、あるいは、「減価償却資産についてはやめる以前5年間の投資額」など決めた方が、より適正といえます。
この払戻についての取り決めがあれば、安心して事業から手を引くことができます。相手が払わなければ裁判に訴えればよいのです。
共同経営は問題の発生する可能性が大きいので、当事者の間で事業全般についての契約をすべきなのです。特に必要なのが持分の払戻についての取り決めです。
株式会社の場合も、辞める当事者が持っている株式の買取について決めておくとよいでしょう。

法律

 
民法第678条〔組合員の脱退 〕
@ 組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。
A組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。
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民法第681条〔脱退した組合員の持分の払戻し〕
@脱退した組合員と他の組合員との間の計算は、脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。
A脱退した組合員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる。
B脱退の時にまだ完了していない事項については、その完了後に計算をすることができる。

本件は、組合でした。組合員は、持分に応じて無限責任を負います。
2005年8月1日から、有限責任事業組合契約に関する法律が施行されました(日本版LLP)。この場合、構成員(組合員)は有限責任を負うだけです。                      

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