下請の過失(履行代行者)の過失については元請けは責任を負う

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2013.11.8mf更新
弁護士河原崎弘

マンションでの水漏れ

酒井さんは建築会社を経営しています。下請を使っていますので、従業員は8人ですが、銀行の信用もあります。あるとき、マンションのリフォームの仕事が入ってきました。風呂場とトイレを洋式にする工事を含め、請負代金は800万円でした。
工事は順調に進み、4週間ほどで終了しました。酒井さんは無事800万円を払ってもらいました。
ところが、6ヶ月ほどして顧客から連絡がありました。「すぐ来てくれ」と言うのです。酒井さんが飛んで行くと、事情は次の通りでした。
顧客の風呂場の斜め下に、階下の住人の押入れがあり、そこへ上階から水漏れがあり、水浸しになっていたのです。
すぐ、マンションの管理会社を交えて水漏れ個所を調査すると、風呂に水を供給する鉄管の継ぎ目から水漏れがあることが分かりました。水道工事のときの締めが甘かったのです。
酒井さんはすぐ下請の杉本さんを呼んで修理をさせました。
しかし、階下の住人はこれではおさまりません。階下の住人は、上階に住む酒井さんの顧客に対し、室の改装費用と衣類の損害として500万円を請求してたのです。顧客は酒井さんに、「損害賠償しろ」と強硬に申し入れてきました。
酒井さんは、初めは、「お前に責任がある」と言って、下請の杉本さんを階下の住人のところへ行かせました。ところが、杉本さんは無責任な人で、一回行っただけで、相手から叱られるのが嫌で、二度と交渉に行きません。仕方がなく、酒井さんが交渉をしましたが、酒井さんは、もともと、責任者は杉本であると考えていて、お金を支払う気持ちがありませんでした。
この頃には、酒井さんも嫌気がさして、知人の弁護士に交渉を頼みました。

損害の査定

酒井さんの弁護士は、損害を詳細に調べ、階下の住人の損害を230万円と査定しました。弁護士は酒井さんに対し、和解(示談)をするように勧めました。酒井さんは、「責任は、杉本にある」と言ってなかなか納得しません。
しかし、下請けの過失は、元請の過失と同視されるのです。そこで弁護士は、判例集から、下請人の過失についての判例をいくつかコピーして示し、酒井さんを納得させました。

和解の成立

交渉は難航しましたが、結局、酒井さんが200万円を支払うことで示談ができました。 この場合、最終責任は、過失のある下請けの杉本さんが負います。酒井さんは、他方で下請の杉本さんとも示談をし、杉本さんから1年間にわたり、120万円を分割で払ってもらうことにしました。従って酒井さんの実損は80万円となります。

元請けの責任

建設業者(元請け)は、下請を使って仕事ができます。他方、下請が誤って注文主に損害を与えれば、元請けは、賠償の責任を負います。法律は、下請は、元請けの手足のようなものと見ているわけで、下請(専門用語で、履行代行者といいます)の過失は、元請けの過失と見ます。しかし、その場合でも、最終責任は下請にありますから、元請けは、支払った額を下請に求償できます。
本件の場合、酒井さんに改装工事を依頼したマンションの住人は、自己の所有物(水道管)の欠陥により、階下の住人に損害を与えたわけですから、階下の住人に損害賠償を支払う義務があります。しかし、この人は、酒井さんの工事の不手際により、自分が金銭を支払う破目になったのですから、酒井さんに損害賠償を請求できるわけです。
損害を査定する際には、原価償却をします。弁護士は、原価償却をして損害を230万円と査定しました。裁判になると、裁判所は、酒井さん、あるいは酒井さんの顧客に対し、この支払を命じるでしょう。

和解のメリット

被害者は、裁判になると時間や費用がかかるから、できれば少ない額でも示談で確実に払ってもらいたいと考えたのです。その結果、両者が200万円で妥協したわけです。
酒井さんは杉本さんに、200万円全額を支払ってもらいたかったのです。しかし、弁護士は、「あまり杉本さんを責めると、彼は逃げてしまい、下手をすると一銭もとれなくなるから」と言って、低い額で杉本さんと示談することを勧めたわけなのです。                      

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