商取引の事件処理(4)営業担当者の使い込み(横領)

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Last updated 2015.6.9mf
営業担当者の使い込み
小池さんは、印刷会社を経営しています。従業員は10人ほどいますが、営業は小池さんを含めて3人でやっています。営業の1人の太田が最近ときどき休むので、他の従業員が代わって伝票を整理し、得意先に請求書を送ったところ、得意先から、「その代金はもう払ってある」との連絡を受けたのです。
驚いた小池さんが太田の出社を待って事情を聞いたところ、太田は売上金の使い込みをしたことを認めました。
そこで、太田が担当していた得意先の伝票を全て整理し、電話で得意先の確認を求めたところ、使い込み金額は1400万円にものぼっていることがわかりました。その直後、太田の妻から小池さんに電話があり、「太田は2年前から愛人ができ、それを、奥沢のアパートに住まわせ、月の半分は自宅に、半分は愛人のところに泊まり、家庭でも離婚話が始まっている」とのことでした。

使い込み金額の確認
太田が会社の金を2年間にわたり1000万円以上も使い込み、会社も経営の危機に陥っているので、小池さんは何とか、太田から金を回収することを考えました。そこで法律事務所を訪ね相談し、弁護士に、太田には家があることを話しました。
弁護士は、まず、太田に使い込み金額の確認書を書かせ、次に、それを証拠に太田の自宅を仮差押するか、代物弁済として、こちらに所有権を移転させることを助言しました。
太田が使い込み金額認めない場合、小池さんの会社は、得意先に(請求書、領収書によって)確認してもらわねばならず、証拠を揃えるのが面倒なのです。
小池さんは、太田を、法律事務所に連れてきました。弁護士が、「君が認めなければ横領罪で告訴する」と強い態度で臨んだところ、太田は素直に横領した金額について認め、これを文書にし、署名捺印しました。これで、会社の損害額が確定し、証拠が確保できました。

代物弁済
次に、小池さんが、「自宅の所有権を会社に移すことで代物弁済する方法はどうか」と太田に話しました。太田は、それに同意しました。しかし、太田は妻に家の権利書を取り上げられていたのです。これでは登記ができません。そこで、弁護士は、代物弁済の予約の仮登記をしました。これで小池さんの会社に優先権が発生しました。
太田の家庭内では、このことで、また大騒動となって、離婚話が持ち上がりました。しかし既に仮登記がしてあったために、太田の妻もあきらめ、権利証を小池さんに渡し、家の所有権を小池さんの会社に移し、明渡すことに同意しました。この家は結局2300万円で売れました。小池さんは、このうち太田の妻には、900万円を渡し、結局、小池さんの会社は1400万円の弁済を受けました。

人事管理面に手落ち
太田自身は決して悪い人間ではないのですが、酒も飲まず、友人もなく、やや内向的な性格のため、女性にひきずられ、溺れ、会社の金を使い込んでしまったのです。
小池さんは、あまりにも仕事を太田にまかせっきりだったこと、太田には無断欠勤が相当あったのを見すごしていたことなど、人事管理面に手落ちがあったと反省しています。

代物弁済の予約の仮登記と仮差押の比較
本件の場合仮差押をしてもよかったのですが、他の債権者から、さらに、仮差押や、差押があったときには両者は平等となってしまいます。代物弁済の予約の仮登記をした方が、優先権が発生して都合がよいのです。相手(債務者)が同意しないと代物弁済予約の仮登記はできません。その場合は、仮差押をするしか方法はありません。 仮登記手続は、権利証がなくともでき、登記料も安いのです。
その後、代物弁済で家の所有権を取得するのですが、家の価値が債権額より大きければその差額を返さなくてはなりません。以前は貸金業者などが代物弁済で貸金額以上の価値のある家をそのまま取り、不当な利益を得る例が多かったですが、裁判例および昭和54年4月1日施行、「仮登記担保契約に関する法律」により、そのようなことは許されなくなりました。
登録 July 23, 2003
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 電話 3431-7161