自営業者で所得が赤字の場合の休業損害/弁護士の法律相談
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2012.1.13mf
弁護士河原崎弘
相談:赤字申告
昨年交通事故に遭い、腰を骨折しました。示談交渉中ですが、問題は、自営業である私の昨年の所得が赤字であることです。
このような場合は、休業損害(休損)は認められないのでしょうか。
回答:賃金センサスを使う
休業損害(休損)を証明する資料として、自営業者の場合は、過去の所得税申告書を使います。ところが、自営業者で、申告所得が赤字であるが、実際は所得があったと主張する人がいます。この場合、裁判所が、確定申告書と自営業者の主張のどちらの基準にするか問題となります。
結論としては、確定申告書と自営業者の主張のうち、裁判所は、信用できる方を採用します。
例としては、自営業者の主張を採用したものがあります。現実に生きて生活していたのですから、休業損害がゼロということはありえないとの理由です。
その場合、基準となる所得金額が必要となります。所得が赤字の場合は、統計上の賃金(賃金センサス)などで、同業種の平均収入で逸失利益を認定することが普通です。
申告が赤字でも、実際は、
所得があったとの事情を説明してください。認められる場合があります。
判例:平均収入を認定
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大阪地方裁判所平成18年6月14日判決(出典:交通事故民事判例集39.3.764)
原告の基礎収入については、一方で、前記のとおり、確定申告額の上では本件事故以前に原告に所得はないことになり、実際の所得もまた明らかでなく、他方、原告は、本件事故により現実に労働能力の一部を喪失し、そのことと原告の事業の縮小とが無関係であるとまでもいえず、家族が甲野商店の営業に寄与している面もあると考えられ、これらの事情を総合考慮して、平成14年度の各種商品小売業者全労働者の平均賃金である459万1200円の7割を得る蓋然性が高いと認め、459万1200円の7割である321万3840円を基礎として、労働能力喪失期間を12年間(対応するライプニッツ係数は8・8632)、労働能力喪失率を9%(原告の後遺障害は後遺障害等級13級10号(一足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの)に該当するものと認められる。)とし、次のとおり、256万3641円を認める。
- 東京地方裁判所平成15年7月1日判決(出典:判例タイムズ1157号195頁)
ア 前記第3の1(4)(一)認定のとおり,本件事故の前年である平成10年度の確定申告書によれば,本件店舗はいわゆる赤字経営であって,原告の事業所得は0
円であったと認められるし,本件事故の年である平成11年度の確定申告書によっても,本件店舗は赤字経営であって,原告の事業所得は0円であったと認めれる。
イ この点,原告は,事業所得算定の基礎となる売上金額について,本件事故の年である平成11年度の確定申告書上は,1月から10月までの総売上金額を655万
1442円としているが,これは小規模店舗を経営する事業者にとっては常識であるいわゆる過少申告にすぎず,実際は,本件事故の直前3か月,すなわち平成11年8
月から同年10月までの売上金額は,8月が248万1120円,9月が280万3860円,10月が277万3090円であり,それを平均すれば,1か月当たりの
売上金額の平均は268万6023円あったと主張し,これに沿う証拠(甲8ないし10)も提出する。しかしながら,原告が提出した証拠(「お会計票」)は,その記
載内容,提出の経緯等にかんがみ,たやすく採用することができず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
ウ もっとも,証拠(甲5,甲6の1ないし5,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,ある時期には雑誌に取り上げられるなどしながら,およそ13年間に
わたって本件店舗の営業を維持してきたものと認められるから,時期により多少の変動はあるものの,本件店舗の営業で少なからず利益を上げ,そこから相当額の収入を
得ていたと認めるのが相当である。
そして,本件事故当時の原告の年齢(62歳)などに照らせば,本件事故当時,原告は,1年間当たり,平成11年賃金センサス第1
巻第1表のT「卸売・小売業,飲食店」の企業規模計・男性労働者・学歴計・60歳〜64歳の年収額482万7000円の収入を事業所得として得ていたものと認める
のが相当である。
- 東京高等裁判所平成9年8月18日判決(出典:交通事故民事裁判例集30巻4号941頁)
第一審原告は本件事故の前年の昭和56年分の確定申告で自営店について赤字の申告をしていたことを認める
ことができることに照らすと、右陳述書及び供述調書だけで右主張のとおり自営店で利益を上げていたとは到底認めることができない。
もっとも、第一審原告は
昭和27年1月生まれの男子で前記のとおり就労して生活をしていたものであるところ、五幸商店からの給与収入は賃金センサスによ
り認められる平均的賃金額よりも相当低額でありかつ前記陳述書及び供述調書によると第一審原告は自営店の経営により実際に利益を
得ていたこと自体は認めることができるから、これらのことに照らすと、第一審原告は、五幸商店及び自営店での就労を通じて、本件
事故前、控えめに見ても賃金センサス昭和57年第一巻第一表による産業計企業規模計高卒男子の全年齢平均収入額である年額366
万5200円程度の収入を得ていたものと認めるのが相当である。
- 東京地方裁判所昭和50年8月25日判決(出典:交通事故民事裁判例集8巻4号1170頁)
亡ふぢは、明治30年5月16日生れで事故当時満74才の女性であつたが、いまだ健康で原告夫
婦が店舗に出たあとの原告方の家事をとりしきつていたことが認められ、また、〔証拠略〕によれば、ふぢの死亡後は、原告の妻が家
事をみなければならなくなつたため店に出られなくなり、そのために原告が得意先まわりをする回数が少くなつて売上が減少し、昭和47年度は赤字の所得申告をするに至つたこと、その後、昭和48年度においては原告の妻が努めて店に出るようになり、また、原告
の子供も時々店を手伝うようになつたので、原告の得意先まわりの回数もふえて売上もかなり回復し、昭和49年に原告の息子が学校
を卒業して店を手伝うようになつてはじめて原告が自由に得意先まわりをすることができるようになつたことが認められる。
以上の事実によると、亡ふぢの逸失利益は、昭和47年度賃金センサスによるパートタイムを含む60才以上の女子の平均月収4
万3300円を12倍した額に年間の賞与その他の特別給与額10万2200円を加えた62万1800円を年収とし、生活費
を年収の50パーセント、就労可能年数を昭和47、48年の2年間とし、ホフマン式計算法により年5分の割合による中間利息と控
除して算出した額である57万8709円(事故発生時の現価・円以下切捨)と認めるのが相当である。
登録 2009.10.30
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