土地使用者の土地時効取得
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2015.5.28mf更新
弁護士河原崎弘
相談:不動産
祖父名義の土地(畑)がありました。
祖父は、一度、他家に養子に行きましたが、離縁となり、祖父の実家に戻り、そこで、亡くなったそうです。
当時は、祖父名義の土地とは知らず、祖父の兄弟が土地を使用していました。今は、祖父の兄弟も亡くなり、その子供が、この土地を使用していましす。
最近、この土地を使用している人が土地を売ろうと考え、登記所で調べたところ、土地は祖父の名義になっていることが、判明しました。
そこで、この人は、祖父の子供である母を訪ねて来て、「土地を譲渡して欲しい、登記書類に実印を押して欲しい」と言いました。
母は、祖父が所有していた土地があるとは、今迄知らず、ただ、子供のときに、その土地で、畑仕事をした記憶があるだけです。母は、その土地が祖父名義になっているとは全く知りませんでした。
そこで、母は、「家族で相談してから返事します」と答えたそうです。
祖父が亡くなってからは、その土地の固定資産税は、今使用している人が支払っていました。30 年間支払ったそうです。母は、できることなら、土地全てではなくとも、一部でも欲しいと考えています。
または印鑑代でもいいので、いくらかの金銭を欲しいと考えています。
土地の名義人は祖父ですので、その子供である母に土地の所有権はあるのでしょうか。
それとも、30 年間もこの土地の固定資産税を支払い続けた人に何か権利があるのでしょうか。
相談者は市役所で月1回開かれる法律相談会で弁護士に相談しました。
回答
この場合土地の所有権は一応お母さんにあると考えていいと思います。但しお母さんに兄弟がいたら、兄弟と共有になります。
現在使用している人が所有権を時効取得している可能性も若干はあります。
10 年あるいは 20 年間土地を継続して占有した場合、土地の所有権を時効により取得することはあります(民法162条)。しかし、時効取得するには所有の意思が必要です(所有の意思のある占有を自主占有と言います)。これは外観上で判断します。内心に所有する意思があっても、他人の土地を借りている人には所有の意思があるとは判断されません(所有の意思のない占有を他主占有と言います)。他主占有は、所有者に対し、「所有の意思のあること」を表示しないと、自主占有になりません(民法185条)。
ただし、所有の意思は、推定される(民法186条)、所有の意思を否定する当事者が、否定の証明する負担を負います。
ので、
30 年経過してもそうです。固定資産税を支払ってもそうです。固定資産税は使用者(地方税法343条4項あるいは納税管理人(地方税法355条)として支払っている可能性が大きいです。現在使用している人、さらにそれ以前に使用している人の使用するに至った状況を調べる必要があります。
相手方は、「土地を時効取得したので登記したい」と言ったのではなく、お母さんの所有権を認めて、「譲渡して欲しい」と言ってきたのですから、相手が時効取得を主張しても、
時効は中断するか、時効完成後は
取得時効の援用は、信義則上許されません(民法 156 条)。相手は、時効取得を主張できません。お母さんに所有権があると判断される蓋然性が大きいです。
取得時効を考える場合、固定資産税を支払ったこと自体ではなく、支払った理由が問題となります。所有の意思があったか否かが問題となります。
結論として、話合いで時価の半額で土地を譲渡するか、半分の土地を相手に譲渡し残りの土地を明渡してもらうなどとの双方が譲歩する和解をしたら良いでしょう。
判例
- 大阪高等裁判所平成15年5月22日
判決
ア 上記認定事実に照らして検討するに,控訴人らないしその先代が,売買により家屋を取得するなどして,本件各係争土地の占有を開始したことは認められるが,本
件各係争土地を売買等により取得したことは認められない。
そして,本件各係争土地はもともと国有地であったところ,被控訴人(国)が控訴人らやその先代を含む私人に対し本件各係争土地を売却するなどしてその所有権を譲
渡したことは全く存在しないのであるから,控訴人らないしその先代が売買契約等により本件各係争土地を取得した事実はないし,被控訴人(国)から売買等により所有
権を取得した者から控訴人らないしその先代が所有権を承継した事実もあり得ないのである。
そうすると,結局,控訴人ら及びその先代は,いずれも,本件各係争土地の所有権を取得すべき法律行為が全くないまま,その地上家屋のみを購入するなどして,本件
各係争土地を占有するに至っているものであるから,本件各係争土地については不法占拠者であるといわざるを得ない(さらに,控訴人らは,敷地の所有者である国との
間で賃貸借契約等の占有を正当化させるべき契約を締結しないままに取得時効期間が経過していることとなる。)。
そうすると,控訴人らないしその先代は,本件各係争土地を不法占有するものであり,その性質上,所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得したという
べきであって,他主占有であると認めるのが相当である。
イ (控訴人らの当審における主張について)
控訴人らは,原判決は控訴人らに売買など所有の意思とされる自主占有が認められない限り他主占有権限に基づく占有とみなされると判断したものであり,最高裁判所
の判決における主張立証責任を転換するものであって,不当であると主張している。
しかしながら,占有者は所有の意思をもって占有するものと推定される(民法186条1項)ものの,土地の占有者が建物のみを買い受け,土地については何の権原も
取得していないことが立証された場合,すなわち不法占拠であることが立証された場合には,占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得
した事実が立証されたものと解すべきである。そして,本件において,被控訴人がその占有の推定を覆す事由として他主占有を主張し,その立証として,控訴人らあるい
はその先代が本件各係争土地上の建物を購入するなどしたものの,本件各係争土地自体については所有者である被控訴人(国)からの売買契約などによって所有権を取得・
承継した事実あるいは貸借権等の設定あるいは承継を受けた事実が全くないことを立証したのであるから,所有の意思の推定は覆されたものというべきである。
-
東京地方裁判所平成12年2月4日判決
原告は、被告によって復元された境界を示す丈量図に署名押印することによって、本件土地について所有地を有していないことを確定的に
認めたというべく、その結果、それまでの占有の継続を根拠とする取得時効の援用をすることは信義則上許されず、時効援用権を喪失するに至ったと解するのが相当であ
る。
- 最高裁判所昭和54年7月31日判決
占有者は所有の意思で占有するものと推定されるのであるから(民法一八六条 項)、占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成
立を争う者は右占有が他主占有にあたることについての立証責任を負うというべきであり、占有が自主占有であるかどうかは占有開始原因たる事実によつて外形的客観的
に定められるものであつて、賃貸借によつて開始された占有は他主占有とみられるのであるから(最高裁昭和四五年(オ)第三一五号同年六月一八日第一小法廷判決・裁
判集民事九九号三七五頁参照)、取得時効の効果を主張する者がその取得原因となる占有が賃貸借によつて開始された旨を主張する場合において、相手方が右主張を援用
したときは、取得時効の原因となる占有が他主占有であることについて自白があつたものというべきである。
してみると、本件においては、本件土地の占有が賃貸借によつて開始されたとする被上告人の供述が自由にあたることが明らかであるから、まず自白の撤回の点につい
て右自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものであるかどうかを審理し、その結果、自白の撤回が許される場合には本件土地の自主占有開始の時期及び原因について、自白
の撤回が許されない場合には賃貸借による占有が自主占有に変更されたことを裏付ける新権原の存否について、それぞれ審理する必要があるものというべきであるところ、
これと反する見解のもとに、これらの点について何ら審理をすることなく、訴外西田とめ
による本件土地の取得時効の成立を認めた原判決には、法令の解釈の誤りによる
審理不備の違法があるというべきであつて、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
- 最高裁判所昭和45年10月29日判決
占有における所有の意思の有無は、占有取得の原
因たる事実によつて客観的に定められるべきものであり、原審は、上告人か本件土地の所有権を譲り受けることを内容とする交換契約に基づきその引渡を受けた旨を認定
したのであるから、上告人が右交換契約によつて本件土地の所有権を取得しえなかつたとしても、上告人の右占有は、所有の意思をもつてする占有であるといわなければ
ならない。したがつて、原審が前記の事実を認定しながら、上告人の占有が所有の意思をもつてする占有ではないとした判断は、違法というべきである。
- 最高裁昭和45年6月18日判決
占有における所有の意思の有無は、
占有取得の原因たる事実によつて外形的客観的に定められるべきものであるから、賃貸借が法律上効力を生じない場合にあつて
も、賃貸借により取得した占有は他主占有というべきであり、原審の確定した事実によれば、前示の賃貸借が農地調整法5条
(昭和21年法律第42号による改正前のもの)所定の認可を受けなかつたため効力が生じないものであるとしても、上告人の
占有をもつて他主占有というに妨げなく、同旨の原審の判断は正当として首肯することができる。
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