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企業秘密の窃取等不正取得、利用 / 不正競争
2015.7.7mf更新
企業秘密の窃取等不正取得、利用 / 不正競争
弁護士河原崎弘
質問:顧客名簿の持出し
当社は、不動産の賃貸の仲介を業務としています。当社には、ビルのオーナーなど約500件の顧客があります。
当社に6年間勤めた従業員が当社を退職し、最近、友人と会社を設立し、当社と同じような仕事を始めました。驚いたことに、当社の顧客宛てにダイレクトメールを出しています。
この従業員は、当社のコンピュータに入っている顧客名簿をコピーし、持ち出したと思われます。この元従業員に対し、法的措置を取れないものでしょうか。
相談者は、法律事務所を訪れ、弁護士に相談しました。
説明:企業秘密防衛策
会社の防衛策を刑事面と民事面で考えてみます。
刑事
情報が書かれたファイルをコピー目的で会社外部に持ち出す行為は、返還する意思があっても窃盗罪です(東京地裁昭和59年6月15日、判決判例時報1126-4)。これは場合によっては、業務上横領罪に当たります(大阪地裁昭和42年5月31日判決、判例時報494-74)。
情報を盗み出す場合、会社の複写機を使ってコピーし、コピーを持ち出した場合、やはり窃盗罪に当たります。反面、従業員が自己のコピー機ないしカメラを使って情報を写し取った場合は、窃盗罪になりません。窃盗罪の対象は財物であるからです。情報を財物とはみないからです。
従業員が会社のフロッピーを使ってコピーし、フロッピーを外部に持ち出した場合は、それが会社のフロッピーなら窃盗罪です。従業員の所有するフロッピーなら窃盗罪にならないでしょう。
さらに、管理侵害行為(不正競争防止法14条1項三号)等に当たれば、やはり刑罰が科せられます。
不正競争防止法で言う秘密とは、@秘密に管理されており、A有用性を持ち、B公開されていないものを指します(2条4項)。
従って、上記基準で元従業員の行為が窃盗、管理侵害行為等に当たれば、警察、あるいは、検察庁へ告訴状を提出して告訴するとよいでしょう。
民事
さらに、新しい 不正競争防止法では、不正手段により営業秘密を取得する行為、その営業秘密を使用する行為は、差止め、損害賠償の対象となります(2条1項4号ないし9号)。
相手がそれによって、得た利益は、被害者の損害と推定されます(5条)。そこで、元従業員が不正に取得したことを証明できれば、損害賠償を求めて訴えを提起できます。具体的には裁判所に 訴状 を提出します。
「相手の会社が送ったダイレクトメールのほとんどが、あなたの会社の顧客である」と証明できるなら、元従業員が、合理的な説明をしない限り、あなたの顧客情報を不正に入手したことを証明できるでしょう。
判決
-
東京地方裁判所平成10年7月7日判決(判例時報1683号160頁)
(罪となるべき事実)
被告人は、ソフトウェアの開発等を目的とする株式会社甲野の渋谷営業所のシステム第一課長として、同社が乙山ソフトウェア株式会社等を介して丙川・システムデザ
イン株式会社から受注した株式会社丁原銀行向け債券償還案内等のプログラム開発業務に従事していたものであるところ、右丙川・システムデザイン株式会社のために業
務上保管中の項目説明書等の資料四枚を、株式会社戊田図書館で複製しその複製物を丁原銀行の顧客データと共に売却する目的で、ほしいままに、平成9年11月5日、
東京都千代田区《番地略》所在の右プログラム開発業務の作業実施場所である甲田テクノサイエンス株式会社5階事務所から、東京都港区《番地略》所在の乙野ビル三階
株式会社戊田図書館へ持ち出し、もって、これを横領したものである。
(証拠の標目)《略》
- 東京地方裁判所昭和60年2月13日判決(判例タイムズ552号137頁)
5 一時持ち出し行為は業務上横領罪に該当しないとの主張について
(一) 弁護人は、被告人らが本件資料を持ち出したのは、単にコピーするためであつて、処分する意図はなく、コピーした後に元の場所に返還しているのである
から、被告人らには不法領得の意思はなかつた、と主張する。
(二) そこで検討するに、他人の物を一時的に持ち出した際、使用後返還する意思があつたとしても、その間、所有権者を排除し、自己の所有物と同様にその経
済的用法に従つてこれを利用し又は処分をする意図がある限り、不法領得の意思を認めることができると解されるところ、前記認定のとおり、被告人らが持ち出した本件
資料は、新潟鉄工が多大な費用と長い期間をかけて開発したコンピューターシステムの機密資料であつて、その内容自体に経済的価値があり、かつ、所有者である新潟鉄
工以外の者が同社の許可なしにコピーすることは許されないものであるから、判示のとおり被告人等が同社の許可を受けずほしいままに本件資料をコピーする目的をもつ
てこれを同社外に持ち出すにあたつては、その間、所有者である新潟鉄工を排除し、本件資料を自己の所有物と同様にその経済的用法に従つて利用する意図があつたと認
められる。したがつて、被告人らには不法領得の意思があつたといわなければならない。
- 東京地方裁判所昭和59年6月28日判決(出典:判例時報1126号3頁)
このような視点に立って本件をみるに、所論引用の判例にもあるように、「窃盗罪の成立に必要な不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の財物を自己の所有物と
同様にその経済的用法に従いこれを利用又は処分する意思をいい、永久的にその物の経済的利益を保持する意思であることを必要としない」と解するのを相当とするとこ
ろ、本件窃盗は、判示にもあるように、本件ファイルを複写して、これに化体された情報を自らのものとし、前示のような効果を狙う意図と目的のために持ち出したもの
であるから、これは正に被告人らにおいて、権利者を排除し、本件ファイルを自己の所有物と同様にその経済的用法に従い利用又は処分する意思であったと認められるの
が相当である。
そして、こうした意思で本件ファイルを持ち出すことは、たとえ複写後すみやかに返還し、その間の権利者の利用を妨げない意思であり、かつ物理的損耗を何ら伴わな
いものであっても、なお被告人両名及び鈴木らに不法領得の意思があったものと認めざるを得ない。
神谷町|河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03-3431-7161