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2015.12.8mf更新
弁護士河原崎弘
結婚するように装い、複数の女性と肉体関係を伴った交際をする男
(結婚の約束がない場合)
相談:婚約していないが慰謝料を請求できるか
私(31歳)は、結婚相手を紹介する会社から、ある公益法人に勤務する男性(36歳)を紹介されました。初めてあった日は、食事だけをして別れました。その後、彼から、何度も、食事に誘う電話やメールがあり、次に会ったときには、彼のアパートへ行き、肉体関係を持ち、以来、3か月間、お互いの家に行くような交際をしました。
彼からは、「結婚する」とかの言葉は聞いていませんが、当然、結婚するものと思っていました。3か月位して、2人で彼の部屋にいるときに、彼に電話がかかってきました。そのとき、彼は、ひどくあわてて、電話を持って、すぐ、部屋を出て行きました。
そのとき、私は、彼の部屋に置いてあった手帳を、偶然、見てしまいました。手帳には100名ほどの女性の名前と電話番号が書いてありました。帰ってきた彼を問い詰めると、彼から、「お前とは結婚する気はない。別れる」と怒鳴られました。その後、私は、妊娠していることがわかりました。彼に妊娠のことを言うと、彼は、「おろせ」と言うだけでした。
彼は、私と平行して2人の女性と肉体関係があります。彼は、自分でも、それを認めました。
私は、子供をおろしました。その後も、ずるずる交際が続きました。私は、彼とは、別れようと思います。明日、彼と最後の話し合いをします。弁護士を頼み、彼を訴えることができますか。
回答:人格侵害の不法行為になる場合がある
男女の交際があり、婚約せず、その後、別れたとしても、通常、慰謝料支払い義務はありません。判例でも、婚約破棄ないし結婚の承諾の撤回を不法行為とし、慰謝料の支払を命じた判決は多数ありますが、婚約に至らない男女交際について、その解消を不法行為としたものはありません。
しかし、婚約していなくとも、肉体関係を続ける目的で、結婚する意思がないのに、結婚するように装い、異性と関係を続けた場合は、人格権侵害の不法行為を構成します。あなたのケースもそうでしょう。
下に、人格権侵害の不法行為を認めた判例を載せておきます。このケースでは騙された2人(複数)の女性が、直接、話をし、証拠が確保できました。300万円の慰謝料は比較的高額です。
関連質問
私(21歳)は、学生の起業支援グループのスタッフに来ていた彼(39歳)と知り合い、2か月の交際の後、親密な関係になり、半年ほど交際しました。
彼は、1人でマンションに住んでおり、「妻とは離婚した」と言っていました。私と彼は、幾度となく、結婚の話をし、私が大学を卒業したら、結婚しようと約束しました。
私は、郷里の両親に紹介するために、先月、一緒に静岡に行く約束をしました。ところが、その日、東京駅で新幹線に乗る直前、彼は、「実は、妻が離婚に同意しないのだ。子どももいる」と話したのです。奥さんとは、私と知り合う頃に別居したのだそうです。結局、私の実家には行きませんでした。
私は、このとき、妊娠したことがわかりました。彼の話を聞いて、私は、彼と別れることに決め、先週、子どもをおろしました。病院の費用25万円は彼が出しました。
私は、彼に慰謝料請求できますか。金額はいくらくらいですか。彼は銀行員で、年収は1500万円です。
回答
騙して、結婚の約束をしたのですから、彼の行為は、不法行為でしょう。慰謝料は、200万円〜300万円くらいでしょう。
判決:婚約をしていないが慰謝料を認めたケース
- 東京地裁平成8年6月7日判決(判例タイムズ915号171頁)
被告の行為は、結婚等のための交際相手を紹介する会社を利用して、結婚願
望を有する女性に交際の申込みをし、条件が整えば結婚してもよい旨の意向を示しながら当該女性と継続的に性的関係を持ち、
結婚を迫られると、条件が整っていないとしてこれを拒むものであり、結婚する意思がないにもかかわらず、あたかも結婚を
検討しているかのように装う一方、婚約ないし結婚の承諾をすることを巧妙に避けながら長期間性的関係の係属を図るもので
ある。
これに対して原告は、被告が自己紹介書に「お互いの人格を尊重し、心の安らぐ、明るい家庭をつくってゆきたいと思
います」との原告あてのメッセージが記載されていたことを始めとして、被告の幾多の言動から、交際の当初より、結婚でき
るかもしれないと誤信して付き合いを続け、その結果、初めて身籠った子の妊娠中絶手術をせざるをえなくなるなど、人生設
計を大きく狂わすこととなったものである。被告のこのような行為は、原告に対し、人格権侵害の不法行為を構成するもので
ある。
一方、被告の応訴の態度をみてみると、原告からの責任の追及に対し、「双方が決して相手を拘束することのないよう割り
切って交際していたはずであり、『愛してる』とか『好きだ』などといったことは一度もなく、ましてや『結婚の約束』など
したこともない」と主張して、交際の当初から結婚を約束する言葉を一度も発したことがないことを強調している。
右事実と前記一及び二認定の事実を合わせ考えると、被告の右不法行為は、原告から責任追及があった場合のいい逃れも考えた上での
計画的なものであったことが認められる。しかも、被告は、原告から責任を追及された場合には、証拠の残りにくい日常生活
上の言動が争点となることを承知の上、前記二認定のように、原告の経歴、性的嗜好等について根拠のない中傷をし、これに
よって自己の防御を図ろうとしており、このような被告の行為は、原告の人格と精神的苦痛を省みない悪質なものであるとい
える。
幸いにして本件においては、原告が被告との交際について具体的事実を詳細に記載したメモを残しており、被告のもう
一人の交際相手である丙川良子も詳細なメモを作成し、これを原告に渡したため、証拠により証明することが一般には難しい
言葉のやり取りや日常生活上の言動についても、かなり正確な立証が可能となったものであり、その意味で本件は珍しい事件
といえる。
被告が行ったこのような不法行為は、証拠関係の特質上刑事手続によって抑止する対象にはならず、計画的行為であり被告に
反省する意思がないから、示談、調停その他の任意の紛争解決手段に頼ることもできず、結局、民事裁判手続において損害賠
償を認容することにより抑止を図るほかないものである。このような点も考慮し、また、原告が弁護士に委任して本件訴訟を
提起せざるをえなかったことも考慮すると、原告が被告の前記一及び二認定の行為によって被った精神的苦痛を慰謝する金額
としては、原告が請求する300万円全額を認容するのが相当である。
なお、被告の文書提出命令の申立ては、理由がないから却下する。・・・・
以上のとおり、被告に対し、300万円の慰謝料及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成8年1月11日から支払
済みまで民法所定年5分の遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由があるから認容することとして、主文のとおり判決す
る。
- 東京地裁平成18年12月19日判決
裁判所は、「2人の交際は真摯なものだった。男女交際を解消することはありうるが、別れるときは理解を得るように努める義務がある。・・・別れてすぐ結婚した女性の態度は、義務に違反する」とした。
交際相手だった30歳代の女性は、別れてわずか2カ月後に別の男性と結婚したため、
精神的苦痛を受けたとして、40歳代の男性がこの女性に1000万円の損害賠償を求めた。裁判所は「不誠実だった」として女性の不法行為を認め、慰謝料120万円の支払いを命じた。
従来の判例では、婚約を解消した場合には債務不履行による賠償が認められるが、このケースでは2人が婚約関係になかったことを認定し、慰謝料120万円を認めた。
(注)この判決は、婚約していないのに慰謝料を認め、さらに、男性から女性に対する慰謝料を認めた珍しいケースです
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