被害者が高齢者の場合の得べかりし利益の計算方法
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2024.5.13 mf updated
弁護士河原崎弘
質問
私の母(53歳)は早朝横断歩道を渡っていた際、赤信号を無視して走行してきたバイクに跳ねられ死亡しました。バイクは保険に入っていたので、現在保険会社の担当者と示談交渉中です。
母は、華道の師範をしていて、年収は、400万円ほどありました。保険会社は、67歳までの収入を計算して、損害を計算すると主張していますが、私の周囲では華道の師範は70歳を過ぎてもできるから75歳までの収入を計算するように言います。
事故の賠償の常識では67歳までの収入を計算するそうですが、これでは実状に合わないのではないでしょうか。
相談者は日弁連交通事故相談センターで弁護士に相談しました(料金は無料)。
お答え
裁判所においての 交通事故 の損害賠償の計算は、定型化されていますが、できる限り個別的事情も考慮しています。
得べかりし利益の計算をする場合は、通常、67歳まで働けることを前提にしています。しかし、高齢者の場合は、次のうち、長い方を就労可能期間としています。53歳の女性の67歳までの期間は、14年、平均余命は35年(小数点以下切り捨て)
ですから、その2分の1は、17年です。そこで長い17年を使います。17年のライプニッツ指数は13.1661です。計算は、次のようになります。
400万円×(1−0.3)×13.1661
=3686万5080円
さらに、職業によっては、次のような判例があり、67歳以後も働けることを認定しています。
- 箏曲師範兼仏具金具製造業手伝い(54歳女性)の死亡による逸失利益について、箏曲組織に所属し、弟子35名に琴、三絃を指導していて、弟子からの月謝収入、免許料の師匠収入分、事故前1年間の演奏会の出演料、ラジオ出演料、レコード吹込料を収入の基礎として、就労可能年数を70歳までとし、生活費控除については20%にして計算(京都地裁昭和62年5月6日判決)
- 56歳の開業医(男性)について70歳まで14年間就労可能(京都地裁平成7年12月21日判決)
あなたのお母さんの場合、上記判決に従えば、70歳まで(17年間)の収入を損害として算定できるでしょう。
厚生労働省の平均余命を参考にして下さい。
判例
- 神戸地裁令和2年2月14日判決
被告運転の乗用自動車と被相続人(65歳)運転の自動二輪車との交通事故について、相続人である原告らが、被告に対し、賠償金の支払を求めた事案。
裁判所は、直進原告車両の進行妨害をしてはならない注意義務を怠り、漫然と右折を開始した被告の過失は大きいとし、他方、被相続人は、被告車両の交差点右折の予見は可能であったとし、
過失割合は、被告85%、被相続人15%があるとし、被相続人の逸失利益につき、労働分は、大学教授であることなどの経歴を踏まえ、基礎収入から、生活費控除率40%、就労可能年数は、平均余命の約2分の1で算定し、年金分は、受給が確定していたとして、平均余命年につき、逸失利益を認めて算定するなどして、原告らの請求を一部認容した
神谷町 河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03−3431−7161