交通事故の加害者の刑事責任と民事責任

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Last updated 2024.4.8mf
弁護士河原崎弘

民事責任と刑事責任

交通事故 は、民事事件の側面と刑事事件の側面を持っています(正確には、さらに運転免許についての行政事件の面も持っています)。
被害者が負傷あるいは死亡した場合には、運転者は刑法上、自動車運転過失致傷罪(平成19年の刑法改正までは、業務上過失傷害罪)ないし、自動車運転過失致死罪(平成19年の刑法改正までは、業務上過失致死罪)の責任を問われます( 刑法 211 条 )。ただし、民事裁判と刑事裁判とでは、事実認定方法が異なります(刑事裁判の方が証明が厳格である)ので、民事上損害賠償責任が認められたとしても、刑事事件で有罪とならない場合もあります。「疑わしきは罰せず」の理論が働くからです。
さらに、刑事責任を問われるケースは、民事責任を問われるケースより、重いと一般的に考えられています。自由主義の国家では、国家の国民への干渉(この場合は刑罰権)は必要最小限に抑制すべきとの考えがあるからです。ここから、重大な交通事故に限って刑事事件として扱えばよいとの結論が出てきます。
ただし、最近の刑事事件についての処理は甘過ぎます。自動車運転過失致死傷事件に対する処理は、特に、甘過ぎます。重大事故を引き起こした加害者は日頃から危険な運転をしていることが多いのです。しかし、組織の一員である裁判官(公務員です)は前例に従って、量刑しているだけです。
近代の法律は被害者に対し復讐を禁じ、国家が犯人に刑罰を加えます。しかし、現在の刑罰権の行使状況が被害者の感情に合っていないことは明らかです。
そこで、平成 13 年 12 月 25 日施行の刑法改正(さらに、17年1月1日施行の改正法)で、 危険運転致死傷罪 が設けられ、重い刑が設けられました。これだけで、問題が解決したわけではありません。

重大な傷害:
傷害の刑事事件として起訴されるのは、大体、被害者の傷害が全治 2 週間(平成 10 年 4 月頃からこれが 3 週間程度になったようです)を越える場合です。

過失:
ただし傷害が重くとも、運転者に過失がなければ、刑事事件にならない。例えば歩行者が飛出してきて事故になったような場合には、運転者に過失がなく刑事事件とならない。検察官は諸事情を点数として加算して、起訴を決めています。

罰金:
軽いけがで運転者の過失が小さい場合には罰金 10 万円位の判決となる。被疑者に異議がなければ略式手続きにより罰金が科せられるので、正式な裁判とはならない。逆に、軽いけがでも、酒酔い運転、 30 km/hを超えるスピード違反、信号無視など悪質で危険な違反を伴うものは処分も重い。
最近の例では、テレビタレントが 酒気帯運転 で停止中の前車に追突し、逃げた場合(救護義務違反、道路交通法72条1項)、被害者のけがは 1 週間程度であったが、逮捕され、罰金 40 万円を科せられた。

公判請求:
傷害が重いとか、運転者の過失の程度が大きいとか、酒酔い運転などが重なると、正式な裁判となる。これも、初犯で、本人が反省している場合には、通常、判決に執行猶予( 刑法25条2項 )が付き、刑務所に入ることはない。ただし、 2 回目の執行猶予は難しい。

実刑:
被害者がいる場合は 示談 が成立していると被疑者(被告人)にとって良い情状となる。さらに、 業務上過失致死罪の場合には、被害者の遺族の感情が大きな働きをする。遺族から、「被告(運転者)に寛大な処置を求める」旨の 嘆願書 が取得できると、執行猶予の判決の可能性が大きくなる。
被害者と示談する際に嘆願書を書いてもらう必要がある。損害賠償を支払った後では嘆願書は取れないことが多いで注意が必要となる。保険会社の示談担当者が示談をし、保険金を支払ったが、嘆願書をもらってなかったので、運転者は実刑判決となり、刑務所に行った例があった。その意味で、死亡事故の場合は、示談の際に弁護士を依頼すべきです。
ただし、死亡事故に、スピード違反、酒酔い運転、無免許運転などが付いていると、悪質であるので、実刑判決になる可能性が大きい。
全国の裁判所の中で、東京地方裁判所が交通事件に一番厳しい。

法律

刑法25条
25条 (執行猶予)
次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

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(危険運転致死傷)
1 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。

<<省略>>