相談
私は 2ヶ月前に、自分の乗用車(所有者が私の父親で、使用者が私名義になっていますが、私が使用していました)を、友人に売りました。引渡しは完了していますが、車両の名義変更などの手続がまだ完了していません。
私は、友人が事故を起こした場合のことなどを考え、覚書きを取り交わしておこうと考えています。
彼が、万が一、人身事故を起こした場合は、私が損害賠償責任を負うのでしょうか。彼が運転することを考えると、心配です。
相談者は、弁護士会の無料電話相談で相談しました。回答
運転者、運航供用者に責任ある
事故に責任があるのは、民法の不法行為、 自動車損害賠償保障法により、責任がある人です。
自動車損害賠償保障法により責任があるのは、車につき、運航支配、運航利益がある人です。 あなたは車を譲渡したことにより、運航支配も、運航利益も有していません。運航供用者ないし保有者でなくなっています。あなたに、事故につき責任はありません。
ただし、その車が事故を起こした場合、既に所有者でないこと、すなわち譲渡したことはあなたが証明しなければなりません。そこで、譲渡の際は売買契約を作るべきだったのです。契約書を作らなかった場合は、相手から、下記のような、譲渡を受けたので以後事故の場合は、自分が責任を負う旨の文書をもらっておけば良いでしょう。
念書 〇〇〇〇殿 私は、2017年12月3日、貴殿から、トヨタ製クラウン(登録番号品川け34〇〇〇〇)1台の譲渡を受けました。以後、事故などにつき私が保有者として責任を負い、貴殿には迷惑をかけません。 2017年12月3日 住所 氏名 印
この文書は譲渡を証明することに意味があります。「私が保有者として責任を負い、貴殿には迷惑をかけません」は、それほど意味はありません。
譲渡の際に買主が名義書き換えせずに、後で、自動車税の納税通知が名義上の所有者に来たり、後でトラブルが起こることはよくあります。譲渡の際は、名義書き換え手続きを業者などの第三者に依頼するなどし、さらに、免許証等で買主の住所、氏名を確認しておく必要があります。判決
下記2つの東京地裁の判決でも、単なる名義人の責任を否定しています。車に対する運航支配、運航供用者の責任がないからです。
- 東京地方裁判所判決令和6年3月28日判決
1 各被告の本件事故に対する責任の有無
(1)被告Y1
被告Y1が、進路の安全を確認しながら運転すべき注意義務を怠って本件事故を発生させたことは原告と被告Y1との間で争いがなく、被告Y1は、民法709条及び自賠法3条に基づき、本件事故によりAに生じた人身損害を賠償する責任を負う。
(2)被告Y2
被告Y2が、本件事故時、本件車両を自由に使用処分する権限を有していたことは原告と被告Y2との間で争いがなく、被告Y2は、自賠法2条3項の「保有者」として、同法3条に基づき、本件事故によりAに生じた人身損害を賠償する責任を負う。
(3)被告Y3
証拠(乙C1、乙C2の1の387〜388頁、乙C2の2の5〜8頁)及び弁論の全趣旨によれば、@本件車両は、平成27年11月頃、被告Y3がインターネットを通じて購入して車検証上の所有者として移転登録を受けて保有するところとなり、その時点で近く被告Y4に譲渡する予定にして、被告Y4を使用者として登録したこと。Aその後、被告Y4が少年院に入所したため、被告Y3において、予定していた時期に売却することができなくなり、その売却先を探していたところ、被告Y2が購入を希望したことから、平成28年7月12日、被告Y3から被告Y2に対し、現金10万円の支払と引き換えに売り渡され、以後、被告Y2がこれを自由に使用処分する権限を有するに至ったこと、B本件事故当日も、被告Y2が被告Y1への貸与を承諾する形で被告Y1が本件車両を運転するに至ったことが認められ、これらに反する証拠はない。
上記認定事実によれば、本件事故当時、本件車両の所有者として本件車両を使用する権利を有していた自賠法2条3項の「保有者」は、被告Y2であって、被告Y3は本件車両を使用する権利を有していなかったといわざるを得ず、被告Y3は、本件事故当時、自己のために本件車両を運行の用に供する者(同法3条)であったとはいえない。これと異なって、被告Y3の被告Y2に対する本件車両の譲渡が名目的なものにとどまっていたなどの事情を認めるに足りる証拠はない。
そうすると、被告Y3は、本件事故によりAに生じた人身損害を賠償する責任を負うとはいえない。(4)被告Y4
上記(3)に認定した事実によれば、被告Y4は、被告Y3から将来の本件車両の購入を予約する趣旨で、その車検証上の使用者として登録されたものの、代金の支払と処分権限の移転を予定していた時期に、被告Y3に対して代金を支払えない状態となったことから、被告Y3にいわば留保されていた本件車両の処分権限を実行されて、本件車両の処分権限が被告Y2に移されたものと認められる。
そうすると、被告Y4は、本件事故時、所有権留保を実行されて使用処分の権限を失った使用者と同様の立場にあったということができ、本件事故当時、自己のために本件車両を運行の用に供する者(自賠法3条)であったとはいえないから、本件事故によりAに生じた人身損害を賠償する責任を負うとはいえない。
(5)被告Y5
前記(3)に認定した事実によれば、被告Y3は、本件事故時までに本件車両を譲渡していたと認められるところ、証拠(乙C3)及び弁論の全趣旨によれば、本件車両を被保険自動車として被告Y3と被告Y5との間で締結されていた総合自動車保険契約約款においては、@被保険自動車が譲渡された場合、当該保険契約に適用される普通保険約款及び特約に関する権利及び義務は、譲受人に移転しない旨(第7章基本条項12条1項)、並びに、A被告Y5は、被保険自動車が譲渡された後に、被保険自動車について生じた事故による傷害に対しては保険金を支払わない旨(同条2項)が定められており、その約款内容は合理的であるから、被告Y5は、上記保険契約の対人賠償責任条項に基づいて、本件事故によりAに生じた人身損害に対して保険金を支払う義務を負うとはいえない。
そうすると、原告の直接請求の対象となる「対人賠償責任条項…に係る保険金」(同28条1項1号)が存在しないことになるから、被告Y5は、損害賠償請求権者からの保険金請求に応ずる義務があるとはいえない。
2 原告による損害賠償請求権の代位取得
上記1に判示したところによれば、本件事故によりAに生じた人身損害の支払責任を負うのは、被告Y1及び被告Y2のみであって、被告Y5の対人賠償責任保険の担保も及ばないことから、原告のAに対する無保険車傷害保険金の支払も、無保険車による本件事故を保険事故とする支払であると問題なく認められる。
前記第2の1の前提事実(2)の本件事故によるAの受傷及び後遺障害の内容に照らせば、前提事実(3)のAに対する無保険車傷害保険金の算定根拠となる金額中に過大な項目もあるとはうかがわれず、また、前提事実(1)のとおり、本件事故が歩道内を歩行中のAに対する衝突事故であることに照らせば、本件事故についてAの過失も認められないから、原告は、支払った無保険車傷害保険金相当額の全額につき、保険法25条1項に基づき、被告Y1及び被告Y2に対する損害賠償請求権を、Aに代位して取得したものと認められる。- 東京地方裁判所平成20年1月30日判決
(2) これを本件について検討するに,証拠(甲20の1)によれば,本件事故当時,被告車の登録事項等証明書上の所有者は被告会社であったことが認められ る。
しかしながら,証拠(乙1,乙5の2及び3,乙7,8,10,11)によれば,本件事故前の平成16年8月中旬ころ,訴外Aは,訴外Cに対し,被告車の 売却の仲介を依頼したこと,被告会社は,同年9月16日,被告車に付保していた事業用総合自動車保険を解約したこと,訴外Cは,同年9月末ころ,訴外D(以下 「訴外D」という。)に被告車を60万円で売却し,同金員を訴外Aに渡したこと,訴外Dは,被告車をコインパーキングに駐車し,同車の鍵は訴外Dとその運転手が 主に所持していたこと,被告Y1が訴外Dに無断で被告車を運転し本件事故を起こしたことが認められる。
そして,被告Y3は,本件事故当日,警察官に対し,被告会社が被告車を購入後,被告車は主に被告Y3の長男である訴外Aが使用していたこと,訴外Aが, 被告Y3の知らない間に被告車を譲渡してしまい,そのときは仕方ないと思っていたが,平成16年9月初旬に,訴外Cから,被告車の名義変更に必要な書類の作成を 依頼され,住所氏名を記載し押印したこと,その後,名義変更するのであれば任意保険も解約しようと思い,同月中旬ころに解約の手続きをしたこと,その後,本件事 故の約2週間前に訴外Cに名義変更の有無を確認し,まだしていないということだったので,早く名義変更するよう催促した旨供述しているところ,上記供述は,事故 当日に警察官の面前でなされたものであること,自動車保険の解約等,上記認定した事実とも一致しており,信用することができる。
そうすると,被告車の所有者である被告会社の代表者である被告Y3が,訴外Aから被告車の売却を依頼された訴外Cから被告車の名義変更に必要な書類の作 成を依頼され,これに応じた平成16年9月初旬に,訴外Aによる被告車の第三者への売却を追認したものと認められること,被告会社は,被告車の第三者への売却を 前提に被告車に付保されていた自動車保険を解約していること,被告Y3は名義変更に必要な書類の作成に協力し,さらに,名義変更の督促もしており,売主としての 義務を果たしていること,遅くとも同年9月下旬には訴外Dに被告車が引き渡され,鍵も含めて訴外Dが被告車を管理していたことが認められ,本件事故発生の時点に おいては,客観的,外形的に見れば,被告会社は,既に被告車の運行支配及び運行利益を有していたものと評価することはできないというべきである。
したがって,被告会社は運行供用者として自賠法3条の責任を負わないというべきであり,被告会社に対する原告の請求は理由がない。法律
自動車損害賠償保障法
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。