質問:公訴時効の完成
私の兄は、11 年前に、夜間、車にひき逃げされ亡くなりました。犯人は逃走して捕まりませんでした。
最近、隣町の人が犯人として名乗り出て、警察も調べましたところ、真犯人だとわかりました。
しかし、11 年を経過し、公訴時効が完成しているので、逮捕も裁判もできないと聞きました。遺族としては納得できません。どうしたらよいでしょうか。弁護士の回答:民事の損害賠償請求ができる
犯罪の 公訴時効 が完成すると検察官は犯罪者を起訴できなくなり、その結果犯罪者を処罰できなくなります。公訴時効期間は 刑事訴訟法250条 に規定されています。
自動車運転(従来は、業務上)過失致死事件の法定刑は「 7 年以下の懲役叉は禁固」ですから(刑法 211 条)、公訴時効期間は 5 年です(刑事訴訟法250条2項5号) 。
5 年を経過すると、逮捕も、裁判もできません。遺族としては悔しいお気持ちでしょう。犯人を逮捕していなくとも、名前がわかっていれば、起訴して公訴時効を中断できますが、日本の検察官はそのようなこと(時効中断のための起訴)をしません(下記判例を参照)。
不法行為に基づく民事の 損害賠償請求権の時効消滅 期間は、被害者などが、損害および加害者を知ったときから 3 年、あるいは、不法行為時から 20 年です(民法 724 条)。
あなたは、最近、加害者を知ったのであり知ってから 3 年を経過していませんし、不法行為時から 20 年経過していませんので、法定相続人(民法 887 条 - 890 条 )は民事で損害賠償請求をすることができます。
判例もあります。
請求できる金額はお兄さんの収入にもよりますが、 5000 万円前後でしょう。正確な金額を算出するためには 損害金計算機 をお使い下さい。判例
- 東京高等裁判所平成20年1月31日判決(出典:判例タイムズ1268号208頁)
殺人事件発生の26年後に遺体の身元が確認されて提起された不法行為による損害賠償請求の訴えが除斥期間を経過していないとされた。
遺体の身元が特定された後、3箇月の熟慮期間(民法915条)の経過により相続人が確 定してから6箇月以内に訴えを提起すれば、民法160条の法意により不法行為の除斥期間経過による 請求権の消滅はないことを明らかにした。(判決理由概要)
(4)ア 控訴人らは,本件は殺害行為によって損害賠償請求権が発生し,かつ相続が開始したが,加害者である被控訴人の隠匿 行為によって相続人である亡冬子及び亡太郎が相続の開始を知らず,相続人が確定しないまま民法724条後段に定める20年が経過 してしまい,その後被控訴人の自首により,第1審原告らが相続の開始を知り,相続人確定後6箇月内に損害賠償請求権を行使したと いう事案であり,民法724条後段の20年が除斥期間と解されるとしても,前掲最高裁平成10年6月12日判決の重視する被害者 側の権利行使可能性と,権利行使の困難性に関する加害者側の事情とを考慮すれば,本件では特段の事情があるものとして,民法16 0条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じないものと解すべきである旨主張する。
イ そこで検討するに,民法160条は,「相続財産に関しては,相続人が確定した時,管理人が選任された時又は破産手続開始の 決定があった時から6箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。」と定めるところ,その趣旨は,相続人が確定するまでに多 少の日数を要することがあり,時として相続人がないため一時管理人を選任して相続財産を管理せしめることがあり,これらの場合に 時効の停止がなければ,被相続人の権利は,相続人が確定しない間に,または相続人や管理人等がまだその権利があることを知らない 間に,時効により消滅することがあり,そのようなことは相続人に酷な面があるとして,これを保護するところにあると解される(な お,民法160条は,相続人を保護する側面のみならず,相続財産に対して権利を有する者を保護する側面も有しているが,本件との 関係では相続人の保護の面を考慮すれば足りる。)。そして,民法915条1項により,相続人となるべき者が承認又は放棄をし得る 時までは相続人は確定しないものというべきであり,被相続人が死亡して相続が開始したが,その死亡の事実が不明のため,相続人と なるべき者において相続開始の事実を知ることができない場合にも,相続人が確定しないものとして,民法160条が適用になるもの と解するのが相当である。
これに対し,民法724条後段の規定の趣旨は,一定の時の経過によって法律関係を確定させるため,被害者側の事情等は特に顧慮 することなく,請求権の存続期間を画一的に定めるという除斥期間を定めたものと解されるところ,上記規定を字義どおりに解すれば, 不法行為の被害者が殺害され,遺体を隠匿されるなどしたため,相続人に死亡の事実が20年以上知られないままとなったときは,上 記20年が経過する前に不法行為による損害賠償請求権を行使することができないまま,上記損害賠償請求権が消滅することとなる。
しかし,これによれば,特定人の死亡(及びそれに伴う相続開始)の事実が相続人に知られないことになったのが当該不法行為に起 因する場合であっても,被害者の相続人は,およそ権利行使が不可能であるのに,単に20年が経過したということのみをもって一切 の権利行使が許されないこととなる反面,殺害を行った加害者は,20年の経過によって被害者に対する損害賠償義務を免れる結果と なり,著しく正義・公平の理念に反するものといわざるを得ない。そうすると,少なくとも,上記のような場合にあっては,当該相続 人を保護する必要があることは,前記時効の場合と同様であり,その限度で民法724条後段の効果を制限することは条理にもかなう というべきである。
したがって,不法行為により被害者が死亡し,不法行為の時から20年を経過する前に相続人が確定しなかった場合において,その 後相続人が確定し,当該相続人がその時から6箇月内に相続財産に係る被害者本人の取得すべき損害賠償請求権を行使したなど特段の 事情があるときは,民法160条の法意に照らし,上記相続財産に係る損害賠償請求権について同法724条後段の効果は生じないも のと解するのが相当である。
ウ これを本件についてみると,前記1に認定したとおり,昭和53年8月14日に春子が被控訴人から殺害されて死亡し,客観的 に相続が開始したが,被控訴人において春子の遺体を自宅床下に隠匿したため,春子の父亡太郎及び母亡冬子は,春子が死亡したこと 即ち自己のために相続の開始があったことを知らないままであったこと,平成10年8月14日,被控訴人による殺害行為時から20 年が経過したが,同時点でも,春子の権利義務の相続人による承継人ら(既に亡太郎が死亡していたことから当時の承継人は第1審原 告らの3名)はやはり春子の死亡,すなわち自己のために相続の開始があったことを知らないままであったこと,その後,平成16年 8月22日,被控訴人の自首に伴い,本件自宅の床下から白骨化した遺体が発見され,同年9月29日,DNA鑑定によりそれが春子 の遺体であると確認されたため,同年10月7日,第1審原告一郎及び第1審原告二郎は被控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償 請求権(春子が取得すべき損害賠償請求権の相続による承継分を含む。)を被保全権利として,本件自宅の土地についての被控訴人の 持分を仮差押えし,さらに,平成17年4月11日,第1審原告らは,本件訴えを提起することにより上記損害賠償請求権を行使した ことが認められる。
以上の経緯により,第1審原告らは,春子の遺体が確認された平成16年9月29日から3箇月経過してその相続人が確定した時か ら6箇月以内に本訴を提起したものであるから,本件においては前記特段の事情があるものというべきであり,民法724条後段の規 定にかかわらず,本件殺害行為に係る不法行為により春子が取得すべき損害賠償請求権が消滅したということはできない。- 盛岡地方裁判所昭和59年8月10日判決
ひき逃げ死亡事故について公訴時効完成後、民間人が調査によつて突きとめた者を加害車両の運転者と認め、被害者の遺族から運転者らに対する損害賠償請求を認容した。
この民間人が、加害者との会話を証拠として残そうと考え、密かに会話を録音した。裁判では会話が密かに録音されたため、録音テープの証拠能力も問題になったが、証拠能力ありされた(判例時報1135-98)・・・この判決は、2審で破棄されました 。- 最高裁昭和55年5月12日判決
刑事訴訟法254条1項の規定は、起訴状の謄本が法定の期間内に被告人に送達されなかつたため決定で公訴が棄却される場合にも適用があり、公訴の提起により進行を停止していた公訴時効は、右公訴棄却決定の確定した時から再びその進行を始める(判例時報967-132)。