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破産債権を弁済した保証人の地位
弁護士河原崎弘
相談
私は、A社の連帯保証人として、A社のB銀行に対する債務を約800万円弁済しました。その後、A社に対して破産宣告がありました。裁判所から、私にも通知がありました。
破産宣告後、B銀行の要求(私の家を差押えるとの通知があり)で、200万円ほど弁済しました。
私は、裁判所に対し、破産債権としていくらを届出るべきなのでしょうか。
相談者は、奥さんと一緒に法律事務所を訪れ、弁護士に相談しました。
説明
破産手続きでは、債権届出をする債権者及び債権額は、代位弁済をした時期によって異なります。
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破産手続開始前に連帯保証人が債権者に対して弁済をした場合
連帯保証人は債務者に対して有する求償権または求償権の範囲内における原債権について、破産債権者として権利を行使することができます(民法502条1項)。
債務者がB銀行に対して債務を負っており、連帯保証人がB銀行に対して一部を弁済した場合、連帯保証人は弁済した一部の債権額の破産債権を有し、B銀行は弁済を受けていない残額の破産債権を有することになります。
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破産手続開始後に債権者の債権が全額弁済された場合
債権者が破産債権全額について債権届出をしていれば、原債権全額について代位弁済した連帯保証人は、求償権の範囲内において、この原債権を破産債権として行使することができます。
連帯保証人は、B銀行に債務全額を代位弁済すれば、B銀行の届出債権全額を承継することができます(破産法104条4項)。
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破産手続開始後に債権者の債権の一部が弁済された場合
連帯保証人が債権者に対して一部の代位弁済をした場合は、債権者は債務者に対する破産手続開始時点で有していた原債権の全額について破産債権者として権利を行使することができます(破産法104条2項)。
連帯保証人は、全額の代位弁済をしない限り、破産債権者としての権利行使ができないのです。
この結果、債権者が原債権の全額につき配当を受けることにより、債権額以上の弁済を受けることになります。これは、後で、配当異議あるいは不当利得返還で是正されるのです。
このように、破産においては、破産開始決定時の債権額によって債権者と債権額を固定し、手続きを進めます。これを開始時現存額主義(宣告時現存額主義)と呼んでいます。
そうすると、相談者の場合は、破産決定前に弁済した800万円の求償権については破産債権として届けて、破産開始決定後に弁済した200万円(一部の代位弁済)の求償権については、将来債権として届けてください。しかし、B銀行(債権者)が届けると、200万円は破産債権になりません(破産法104条3項)。
参考法律
破産法
(全部の履行をする義務を負う者が数人ある場合等の手続参加)
第104条
1 数人が各自全部の履行をする義務を負う場合において、その全員又はそのうちの数人若しくは一人について破産手続開始の決定があったときは、債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額についてそれぞれの破産手続に参加することができる。
2 前項の場合において、他の全部の履行をする義務を負う者が破産手続開始後に債権者に対して弁済その他の債務を消滅させる行為(以下この条において「弁済等」という。)をしたときであっても、その債権の全額が消滅した場合を除き、その債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額についてその権利を行使することができる。
3 第一項に規定する場合において、破産者に対して将来行うことがある求償権を有する者は、その全額について破産手続に参加することができる。ただし、債権者が破産手続開始の時において有する債権について破産手続に参加したときは、この限りでない。
4 第一項の規定により債権者が破産手続に参加した場合において、破産者に対して将来行うことがある求償権を有する者が破産手続開始後に債権者に対して弁済等をしたときは、その債権の全額が消滅した場合に限り、その求償権を有する者は、その求償権の範囲内において、債権者が有した権利を破産債権者として行使することができる。
5 第二項の規定は破産者の債務を担保するため自己の財産を担保に供した第三者(以下この項において「物上保証人」という。)が破産手続開始後に債権者に対して弁済等をした場合について、前二項の規定は物上保証人が破産者に対して将来行うことがある求償権を有する場合における当該物上保証人について準用する。
参考判決
- 東京地方裁判所昭和50年11月17日判決
ところで、破産法24条は、全部義務を負う者の全員又は数人が破産宣告を受けたときは、債権者は破産宣告時の債権の全額につい
て破産債権者としてその権利を行使できる旨を規定している。右の趣旨を本件に即していえば、破産者が約束手形の振出人として裏書
人である第三者と手形上のいわゆる合同債務を負担している場合、債権者は破産宣告時における手形債権の全額をもって破産者の破産
手続に加わることができ、また、破産宣告後に右第三者から破産手続外で弁済等を受けても、破産債権を減額する必要はなく、債権の
全額の弁済を受けるまで終始継続して同一の配当に加わることができるものと解すべきである。
してみると、本件に訃いて、原告が破
産会社の破産宣告時に有していた本件Hの手形元金債権は、右金300万円から破産宣告前の訴外会社の支払分金119万5191円
を控除した金180万4809円であり、一方、原告の訴外会社との相殺分金86万5686円については右相殺は右破産宣告後のも
のであるからこれを原告の破産債権から控除すべきでなく、結局、原告は破産会社に対し、本件Hの手形元金については金180万4809円の破産債権を有するものというべきである。
(原告は、訴外会社との特約「抗弁に対する認否1記載」に基づき手形所持人として破産債権を行使すると主張する。右の特約が、破
産会社の破産の場合と如何なる関係にあるか明らかでないが、甲第1号証によれば原告は破産会社との間においても原告主張と同じ特
約をしていることが認められるものの、右のような特約があっても、破産債権は破産宣告時を基準として定める旨の前記破産法の規定
によるべきであるから、原告の右主張は採用できない。
4は、債権の二重行使は許されないと主張する。
しかしながら、前記破産法の規定の趣旨に照らし、破産宣告後の弁済は破産債権の
行使に影響を与えないものと解されるので、右主張は採用できない。けたし、破産配当の結果、破産債権者が他の義務者からも弁済を
受けたことにより、債権額を超える弁済を受ける結果になれば、それは配当異議、或は不当利得返還を求めることによって争え足りる
ことだからである。)
- 最高裁判所平成22年3月16日判決
債務者の破産手続開始の決定後に、物上保証人が複数の被担保債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済した場合には、複数の被担保債権の全部が消滅していなくても、上記の弁済に係る当該債権については、破産法104条5項により準用される同条2項にいう「その債権の全額が消滅した場合」に該当し、債権者は、破産手続においてその権利を行使することができない。
登録 2011.3.9