分単位の残業手当て請求
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2024.10.18mf
弁護士河原崎弘
相談:残業手当の計算
飲食店で働いています。
終業後、毎日、義務としての約20分〜30分の清掃業務があります。これは勤務時間とされておりません。
残業手当を請求することができるでしょうか。
なお、本給も、時間給で、就業規則では、30分単位で労働時間(就業時間)を計算するとなっています。30分に満たない勤務時間は切り捨てるとなっています。
このような、就業形態は労働基準法に違反しませんか。
弁護士の回答:全額払い
労働時間の計算で不払い部分があってはならない
労働基準法24条1項は賃金は全額支払うよう規定しています。この趣旨は、どのような計算でも支払わない部分があってはならないとの意味です。法律で明文化されていませんが、「賃金の全額を支払う」という記載から、たとえ1分単位未満であっても労働時間を切り捨ててはならないと解釈されています。これを「賃金全額払いの原則」といいます。
勤務時間の切捨て
義務として清掃業務があるのですから、これは、当然、残業として仕事であり、25%以上の割増賃金の対象となります(労働基準法37条1項)。
残業時間を計算する際に、上記の通り、不払い部分があってはなりません。切捨てがあってはいけないのです。分単位であればよいと言う訳ではないのです。
通達
法律ではありませんが、勤務時間については、時間の切捨てについては、通達があります。
行政では、割増賃金(残業代)計算における勤務時間の端数の処理として、
- 1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働労働時間の計算で不払い部分があってはならないの各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合には、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること
-
1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること
- 1か月における時間外労働、休日労働、深夜労働の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、上記と同様に処理すること
3つの方法について、常に労働者の不利益となるものではなく、事務の簡便を目的としたものと認められるため、労基法24条及び37条違反としては取り扱わないとしました(通達昭和63年3月14日基発第150号)。
しかし、労働時間数の端数処理は、法律上の権利として存在しているものを否定することになりますから、少なくとも労働者の同意が必要になります。これらの通達は、単に、以上の端数処理を行政手続き上は、労基法違反とは取り扱わないと言っているに過ぎません。
以上は、残業手当(休日給、時間外手当)の計算の方法であり、基本給を計算する際は、上記通達のような切捨ては許されません。
残業手当の請求ができるのは、上司(ないし会社の)の指示がある場合です。自分の意思で、勝手に残業しても、残業手当は認められません。
相談者の例のように
就業後の清掃が義務付けられていれば、指示があったと言えます。
相談者の例は、労働基準法に違反していると言えます。
残業手当の請求
しかし、通常、このような職場では、勤務しているときは、一人だけで残業手当の請求することは難しいです。トラブルを抱えての勤務は難しいからです。
そこで、タイムカードがあるなら、それを写真に撮る、タイムカードがない場合は、勤務時間を手帳にメモして証拠を確保することが大事です。退職後、過去の残業手当を請求する方法が良いでしょう。
法改正があり、賃金債権の時効は5年になりました。しかし、当面の間3年となっています。2020年4月1日以降に発生する賃金債権。それより前は、過去の残業手当ては、過去2年分を請求できます。それより前は時効となります。3年の時効の適用対象は「2020年4月1日以降に発生する賃金債権」に限られます。
判決
- 東京地方裁判所平成24年3月27日判決
なお,被告会社は,数分単位の早出,残業は,一般論として稼働準備時間,帰宅準備時間として労働時間に含まない扱いをしており,30分以内の時間について
は,通達でも切り捨てることが容認されていると主張する。通達(昭和63年3月14日基発150号)においては,1か月単位で30分未満の端数を切り捨て,それ以
上を1時間に切り上げる旨の算定方法を容認しているもので,この点で被告会社の上記主張には誤りがあるが,この点をおくとしても,これらの取扱いが労基法に違反し
ないものとして容認されるのは,当該使用者において,時間外手当等の支給に関し上記通達に沿った取扱いを現に行っていることが前提というべきであって,それまで同
通達に沿った取扱いをしていなかった使用者が,特定のケースについてのみ上記取扱いによる算定方法を選択することは許されないと解される。
被告会社の給与明細書に
おいては,労働時間について上記のような端数処理がなされていることが窺われるものの,そもそも,年俸額に時間外手当等が含まれるものとして職員に時間外手当等の
支給を行ってこなかったのであるから,上記通達の端数処理を行う前提を欠くというべきである。
- 東京地方裁判所平成23年9月9日判決
ア 以上を前提にすると,本件出退社時間のうち「労基法上の労働時間」と評価し得る時間は,別紙2「時間認定表」中の「総労働時間」欄に記載の時間(=「就労終
了時刻・認定」欄の時刻−同表の「就労開始時刻・認定」欄の時刻−休憩時間)が,これに当たるものというべきである(なお就業開始時刻として午前零時から午前2時
までの間の時刻を認定する場合,別紙2「時間認定表」中の「就労開始時刻」欄には当該認定時刻から3時間後の時刻を,また「就労終了時刻」欄には当該認定時刻から
1時間前の時刻を記入しているが,これは当裁判所が使用した残業時間に関する認定ソフトを適正に作動させるための便宜上の措置である。)。
イ そうすると別紙3〈67頁−編注〉「本件割増賃金額等に関する集計表(認定)」に記載のとおり,本件割増賃金請求における時間外労働時間数は合計「1421
時間53分」(日制限超過・1387時間11分,週制限超過・34時間42分。なお平成22年4月1日以降における月(ママ)制限超過はなし。)で,その割増賃金
合計額は,「312万4642円」であると認められる。
2013.1.21