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2023.5.30 mf
弁護士河原崎弘
警察の強制採尿
質問:強制的に採尿する行為は合法か
覚せい剤事件で、警察が強制的に採尿する行為は合法ですか。
その手続きは如何に。
回答:一定の要件の下に強制的に採尿する行為は合法
これも、電話相談です。
弁護士会の法律相談担当弁護士の回答は次の通りでした。
強制採尿とは、薬物使用などの犯罪を犯した疑いのある被疑者が、捜査機関に対し、尿を任意に提出することを拒否する場合に、捜査機関が裁判官の発する令状を得て、尿を強制的に採取する捜査手続きです。覚せい剤などの薬物使用事件において、薬物反応が出る被疑者の尿が犯罪を証明する重強制的に採尿する行為は合法要な証拠になります。 そこで、犯罪を証明するために、被疑者の尿の採取が必要になるのです。
カテーテルを使用しての強制採尿は、個人の尊厳への干渉(身体に対する侵入行為であり、身体に危険を生じさせ、屈辱感を与える)であるが、他方で、覚せい剤事犯など重大な犯罪捜査では必要な方法でありました。従前、学説、判例上でも、合法と違法とに分かれていました。
最高裁の決定(昭和55年10月23日)は、次の要件で、強制採尿を合法としています。
- 捜索差押令状(強制採尿令状)が必要(刑事訴訟法218条)
- 医師の手により医学的に相当と認められる方法による。令状には医師の手によるとの条件の記載が不可欠(同法218条5項を準用)
医師の手によるとの記載のない令状によった場合でも、事実上医師が行ったので合法であるとの判例もあります(東京高裁平成3年3月12日判決)
さらに、被疑者が病院までの同行に同意しない場合には、強制採尿令状の効力として(身体を拘束されていない)被疑者を最寄の場所まで連行できるとされています(付随的効力説、平成6年9月16日最高裁決定)。
しかし、カテーテルでの強制採尿は、
個人の尊厳の保障(憲法13条)および適正手続きの保障(憲法31条)に違反し、違法との学説もあります。
判決
- 最高裁判所令和4年4月28日判決
(2)本件においては、前記1(1)のような参考人の供述内容と被告人の犯歴等を併せ考えても、本件強制採尿令状発付の時点において、本件犯罪事実について同令状を発付するに足りる嫌疑があったとは認められないとした原判断が不合理であるとはいえない。また、前記1(2)のような被告人の過去の採尿状況に照らすと、被告人が本件当時も任意採尿を拒否する可能性が高いと推測されるものの、原判決も説示するとおり、同令状請求に先立って警察官が被告人に対して任意採尿の説得をしたなどの事情はないから、同令状発付の時点において、被告人からの任意の尿の提出が期待できない状況にあり適当な代替手段が存在しなかったとはいえない。
したがって、同令状は、被告人に対して強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合とは認められないのに発付されたものであって、その発付は違法であり、警察官らが同令状に基づいて被告人に対する強制採尿を実施した行為も違法といわざるを得ない。
(3)しかしながら、警察官らは、本件犯罪事実の嫌疑があり被告人に対する強制採尿の実施が必要不可欠であると判断した根拠等についてありのままを記載した疎明資料を提出して本件強制採尿令状を請求し、令状担当裁判官の審査を経て発付された適式の同令状に基づき、被告人に対する強制採尿を実施したものであり、同令状の執行手続自体に違法な点はない。上記(2)のとおり、同令状発付の時点において、嫌疑の存在や適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、被告人に対する強制採尿を実施することが「犯罪の捜査上真にやむを得ない」場合であるとは認められないとはいえ、この点について、疎明資料において、合理的根拠が欠如していることが客観的に明らかであったというものではない。また、警察官らは、前記1(3)のような態度等を示した被告人に対して、直ちに同令状を執行して強制採尿を実施することなく、尿を任意に提出するよう繰り返し促すなどしており、被告人の身体の安全や人格の保護に対する一定の配慮をしていたものといえる。そして、以上のような状況に照らすと、警察官らに令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったともいえない。
これらの事情を総合すると、本件強制採尿手続の違法の程度はいまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえず、本件鑑定書等を証拠として許容することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとも認められないから、本件鑑定書等の証拠能力は、これを肯定することができると解するのが相当である。
- 最高裁判所令和3年7月30日判決
これらの事情と,本件ビニール袋がもともと本件車両内になかったものであるとの疑いが残ることについての前記(1)の法的な評価を併せても,本件車両の捜索差押えが違法な留め置きの結果を利用したものであることを理由として,本件薬物及び本件薬物に関する鑑定書の証拠能力を否定すべきとまではいえない。被告人による尿の任意提出手続自体に問題はなく,本件ビニール袋が本件車両内になかったとの疑いが残る点について前記(1)のように考えられる以上,被告人の尿に関する鑑定書についても証拠排除すべき理由はない。
4 しかしながら,原判決の上記判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。
証拠物の押収等の手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があり,これを証拠として許容することが,将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては,その証拠能力は否定されるものと解すべきである(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。
前記1の事実経過の下においては,本件各証拠の証拠能力を判断するためには,本件事実の存否を確定し,これを前提に本件各証拠の収集手続に重大な違法があるかどうかを判断する必要があるというべきである。しかるに,原判決は,本件ビニール袋がもともと本件車両内にはなかった疑いは残るとしつつ,その疑いがそれほど濃厚ではないなどと判示するのみであって,本件事実の存否を確定し,これを前提に本件各証拠の収集手続に重大な違法があるかどうかを判断したものと解することはできない。本件各証拠の証拠能力の判断において本件事実の持つ重要性に鑑みると,原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の解釈適用の誤りがあり,これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
- 最高裁判所平成7年5月30日決定
以上の経過に照らして検討すると、警察官が本件自動車内を調べた行為は、被告人の承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度を超えたものというべきところ、右行為に対し被告人の任意の承諾はなかったとする原判断に誤りがあるとは認められないから、右行為が違法であることは否定し難いが、警察官は、停止の求めを無視して自動車で逃走するなどの不審な挙動を示した被告人について、覚せい剤の所持又は使用の嫌疑があり、その所持品を検査する必要性緊急性が認められる状況の下で、覚せい剤の存在する可能性の高い本件自動車内を調べたものであり、また、被告人は、これに対し明示的に異議を唱えるなどの言動を示していないのであって、これらの事情に徴すると、右違法の程度は大きいとはいえない。
次に、本件採尿手続についてみると、右のとおり、警察官が本件自動車内を調べた行為が違法である以上、右行為に基づき発見された覚せい剤の所持を被疑事実とする本件現行犯逮捕手続は違法であり、さらに、本件採尿手続も、右一連の違法な手続によりもたらされた状態を直接利用し、これに引き続いて行われたものであるから、違法性を帯びるといわざるを得ないが、被告人は、その後の警察署への同行には任意に応じており、また、採尿手続自体も、何らの強制も加えられることなく、被告人の自由な意思による応諾に基づいて行われているのであって、前記のとおり、警察官が本件自動車内を調べた行為の違法の程度が大きいとはいえないことをも併せ勘案すると、右採尿手続の違法は、いまだ重大とはいえず、これによって得られた証拠を被告人の罪証に供することが違法捜査抑制の見地から相当でないとは認められないから、被告人の尿の鑑定書の証拠能力は、これを肯定することができると解するのが相当であり(最高裁昭和五一年(あ)第八六五号同五三年九月七日第一小法廷判決。刑集三二巻六号一六七二頁参照)、右と同旨に出た原判断は、正当である。
- 最高裁判所平成6年9月16日決定
(一)記録によれば、強制採尿令状発付請求に当たっては、職務質問開始から午後一時すぎころまでの被告人の動静を明らかにする資料が疎明資料として提出されたものと推認することができる。
そうすると、本件の強制採尿令状は、被告人を本件現場に留め置く措置が違法とされるほど長期化する前に収集された疎明資料に基づき発付されたものと認められ、その発付手続に違法があるとはいえない。
(二)身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、そのように解しないと、強制採尿令状の目的を達することができないだけでなく、このような場合に右令状を発付する裁判官は、連行の当否を含めて審査し、右令状を発付したものとみられるからである。その場合、右令状に、被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することを許可する旨を記載することができることはもとより、被疑者の所在場所が特定しているため、そこから最も近い特定の採尿場所を指定して、そこまで連行することを許可する旨を記載することができることも、明らかである。
本件において、被告人を任意に採尿に適する場所まで同行することが事実上不可能であったことは、前記のとおりであり、連行のために必要限度を超えて被疑者を拘束したり有形力を加えたものとはみられない。また、前記病院における強制採尿手続にも、違法と目すべき点は見当たらない。
したがって、本件強制採尿手続自体に違法はないというべきである
- 最高裁判所平成3年7月16日決定
なお、記録によれば、被告人は、錯乱状態に陥っていて任意の尿の提出ができない状況にあったものと認められるのであって、本件被疑事実の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らせば、本件強制採尿は、犯罪の捜査上真にやむを得ない場合に実施されたものということができるから、右手続に違法はないとした原判断は正当である(最高裁昭和五四年(あ)第四二九号同五五年一〇月二三日第一小法廷決定・刑集三四巻五号三〇〇頁参照)。
- 東京高等判所平成3年3月12日判決
なお、本件捜索差押許可状には、その執行方法を「医師により科学的に相当な方法で行わしめること」に限定することをもって条件とする旨の記載がなく(その理由は必ずしも明白でないが、関係証拠を総合して推測すると、採尿条件を記載した別紙を添付すべきところ、誤って別紙として捜索差押許可状のの請求書正本の添付をしてしまった可能性が強い。)、その点において瑕疵あるものといわなければならないが、前記のとおり、警察官は当初から医師の手により被告人から採尿することを予定し、そのような条件のもとにおける強制採尿の許可を求めたものであり、本件令状もまた、右の採尿条件を当然の前提として強制採尿を許可する旨の裁判をしたことが認められるばかりでなく、実際の採尿も近くの病院で医師の手によって行われていることからすれば、本件の強制採尿が最高裁判例の要請するところを実質的に満たしていることが明らかであるから、本件捜索差押許可状に上記のような瑕疵があっても、採尿場所に強制連行できるという点をも含め、その効力に影響を来すことがないというべきであり、それによって得られた尿(その検査結果をも含む。)の証拠能力にも疑問をさしはさむ余地はないというべきである。
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最高裁判所昭和55年11月19日決定
なお、記録によれば、本件の尿の採取は身体検査令状及び鑑定処分許可状に基づく強制処分として実施されたものであることが認められるところ、被疑者の体内の尿を犯罪の証拠として強制的に採取するためには捜索差押令状によるべきであり、右令状には、強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解すべきであるから(最高裁昭和五四年(あ)第四二九号同五五年一〇月二三日第一小法廷決定)、本件の尿の採取はこれと種類及び形式を異にする令状によつたことにはなるけれども、その実施に至る経緯、その実施の態様等に照らすと、本件の尿の採取は、犯罪の捜査上真にやむをえないものであり、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮を尽くして実施されたものであつて、法の実質的な要請は満たされていることが明らかであるから、前記令状の種類及び形式の不一致は、本件採尿検査の適法性をそこなうものではない。
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最高裁判所昭和55年10月23日決定
二 尿を任意に提出しない被疑者に対し、強制力を用いてその身体から尿を採取することは、身体に対する侵入行為であるとともに屈辱感等の精神的打撃を与える行
為であるが、右採尿につき通常用いられるカテーテルを尿道に挿入して尿を採取する方法は、被採取者に対しある程度の肉体的不快感ないし抵抗感を与えるとはいえ、
医師等これに習熟した技能者によつて適切に行われる限り、身体上ないし健康上格別の障害をもたらす危険性は比較的乏しく、仮に障害を起こすことがあつても軽微な
ものにすぎないと考えられるし、また、右強制採尿が被疑者に与える屈辱感等の精神的打撃は、検証の方法としての身体検査においても同程度の場合がありうるのであ
るから、被疑者に対する右のような方法による強制採尿が捜査手続上の強制処分として絶対に許されないとすべき理由はなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証
拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上
の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたつては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきもの
と解するのが相当である。
そこで、右の適切な法律上の手続について考えるのに、体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべきで
あるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。
ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押
と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法二一八条五項が右捜索差押令状に準用されるべきであつて、令状
の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。
三 これを本件についてみるのに、覚せい剤取締法四一条の二第一項三号、一九条に該当する覚せい剤自己使用の罪は一〇年以下の懲役刑に処せられる相当重大な犯
罪であること、被告人には覚せい剤の自己使用の嫌疑が認められたこと、被告人は犯行を徹底的に否認していたため証拠として被告人の尿を取得する必要性があつたこ
と、被告人は逮捕後尿の任意提出を頑強に拒み続けていたこと、捜査機関は、従来の捜査実務の例に従い、強制採尿のため、裁判官から身体検査令状及び鑑定処分許可
状の発付を受けたこと、被告人は逮捕後三三時間経過してもなお尿の任意提出を拒み、他に強制採尿に代わる適当な手段は存在しなかつたこと、捜査機関はやむなく右
身体検査令状及び鑑定処分許可状に基づき、医師に採尿を嘱託し、同医師により適切な医学上の配慮の下に合理的かつ安全な方法によつて採尿が実施されたこと、右医
師による採尿に対し被告人が激しく抵抗したので数人の警察官が被告人の身体を押えつけたが、右有形力の行使は採尿を安全に実施するにつき必要最小限度のものであ
つたことが認められ、本件強制採尿の過程は、令状の種類及び形式の点については問題があるけれども、それ以外の点では、法の要求する前記の要件をすべて充足して
いることが明らかである。
令状の種類及び形式の点では、本来は前記の適切な条件を付した捜索差押令状が用いられるべきであるが、本件のように従来の実務の大勢に従い、身体検査令状と鑑
定処分許可状の両者を取得している場合には、医師により適当な方法で採尿が実施されている以上、法の実質的な要請は十分充たされており、この点の不一致は技術的
な形式的不備であつて、本件採尿検査の適法性をそこなうものではない。
登録 1994.9.24
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