被害者の過失が大きい死亡事故を起こした場合の刑事責任

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2015.5.26mf更新
弁護士河原崎弘
相談
普通乗用車を運転し、夕方6時頃、時速約50kmで走行していました。
私は、道路幅約16m(車道)の道路で車を運転中、横断歩道でないところを横断中の歩行者に気付くのが遅れ、 ブレーキを踏んだが間に合わず、道路中央付近で、衝突し、死亡させてしまいました。
どんな刑罰が予想されるでしょうか。
相談者は、日弁連交通事故相談センターの相談室に電話をし、予約をしたいと申し込んだところ、「相談できるのは、交通事故の民事関係の問題についてです。刑事処分・行政処分の相談はできません」と断られてしまいました。

回答
【結果の発生と予見可能性】
該当する罪名は、自動車運転過失致死罪(旧業務上過失致死罪)です。
昔は、死亡との結果だけで、刑事責任を問う傾向がありました。死亡の結果が予見可能であれば 過失ありと判断するのです。
運転者は自己の進路上に出てくる歩行者、ないし、車などを予見し、適切な運転操作により事故を回避する義務があると判断するのです。

【結果発生回避義務の有無ー結果の予見可能性ー信頼の原則】
しかし、 現在は、運転者の安全確認の態様、運転操作の態様、被害者の行動の態様などを考慮し、運転者に、 死亡事故の回避義務違反があったかを判断し、過失の有無を考えます。回避義務違反は、回避可能性が前提です。
運転者は、幅16mの道路を横切る歩行者はいないと考えることは許されるでしょう。運転者は、他の歩行者ないし他の運転者が法規を守ると信頼することを許されるのです。運転者が、他の者が、そのような交通規則に違反することを予見する可能性をないと考えるのです。これを信頼の原則といいます。 その意味であなたの運転は法律に違反していない、違法性はないのです。
ただし、被害者が、老人、幼児である場合は、信頼の原則は、100%は、働かないでしょう。
仮に、あなたが、前方の安全確認義務を怠っていたとしても、違法性、すなわち、過失の程度は小さいです。 被害者は、幅16m道路の、横断歩道でないところを横断したのですから、被害者の過失は大きく、 事故の原因は被害者の過失にあります。

あなたが逮捕されなかったのですから、警察も、あなたの過失は小さいと見ているのでしょう。 具体的な状況を見ないと正確には言えませんが、処分としては、不起訴、あるいは、罰金の可能性が大きいです。
取調べの際気を付けなければいけないことは、誘導尋問の載らないことです。刑事は、「あんたの説明はおかしい。それなら、事故は起きないよ。事故があることは、何か見落としたからだろ」などと迫ってくるからです。これに対しては、あくまで、真実を説明し、頑張る必要があります。 いったん、間違った調書が出来上がると、検察官、裁判官がチェックできません。皆、誤りを発見する特別の能力を持っているわけではなく、機械的に事件が流れ、誤った裁判がされます。
万一、事実と違う調書に署名した場合は、何度も、調書の訂正を申し出てください。

【結果発生回避義務の有無ー危惧感ー結果の予見可能性不要】
なお、未知の危険に対処するために、 具体的な結果の予見可能性は不要であり、 「何か法益侵害の結果が起こるかもしれない」という危惧感を感じる可能性があれば、 過失を認めるとの考えもあります。これは、まだ、通説にはなっていません。

関連質問

私の長男は、普通乗用車を運転し、夕方7時頃、交差点を左折する際、 横断歩道上を青色信号で横断していた高校生を後輪で引き、高校生は頭を打ち死亡しました。
長男は逮捕され、勾留されました。長男の刑事責任はどうなりますか。
対人の任意保険には、金額無制限で入っています。長男には前科はありません。

回答

自動車運転過失致死の場合には、赤信号無視、酒酔い、無免許など、極めて悪質なものと、それ以外のものの、2つに分かれます。 前者は、実刑の可能性が高いです。
後者については、示談が成立しているかで、執行猶予が付くか、 実刑判決かに分かれるでしょう。 示談が成立し、さらには被害者が加害者を許せば(嘆願書を書いてもらえれば)、執行猶予が付く確率は高いです。
示談が成立していなくとも、任意保険の対人賠償額の契約が「無制限」であったため示談が成立する見込みが高く、被告人が真面目で、深く反省していれば、執行猶予が付きます。
示談を保険会社任せにしてはいけません。弁護士を依頼し、保険会社の担当者が示談する席に、弁護士にも立ち会ってもらい、被害者の遺族に嘆願書を書いてもらうとよいでしょう。嘆願書があれば、執行猶予の可能性が高まります。

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