売渡承諾書と買付証明の交換で不動産売買契約は成立するか

弁護士(ホーム)  >  不動産の法律相談
2022.12.29mf更新

相談:不動産

不動産業者の紹介で、土地を買うことになり、不動産業者が用意した買付証明に捺印し、売主から売渡承諾書をもらいました。
ところが、その後、売主が、「売らない」と言い出したようで、業者から連絡がありました。売渡承諾書および買付証明には、売買代金、契約日、決済日も記載されています。
これで売買契約が成立したと主張できませんか。

回答

不動産会社で紹介してもらった弁護士の説明は次の通りでした。
売渡承諾書と買付証明の法律上の性格は、当事者の意思、文言によります。通常、売渡承諾書と買付証明の授受の後に契約書を作成し、手付の授受をします。これが文言および当事者の意思に合致するでしょう。証明書の中に「契約日」が記載されていることは、その日に契約書を作成する予定との意味です。すなわち、売渡承諾書と買付証明の授受は、その後に売買契約書を作成することが予定されていることです。
大事なことは、売渡承諾書と買付証明の交換では売買契約が成立しないのではなく、後日、正式な売買契約書を作成を予定している場合には、未だ、売買契約が成立していないのです。

公表されている判例では、全て、「売渡承諾書と買付証明の交換では契約の成立していない」としています。
なお、契約は成立していなくとも、不誠実な対応をした当事者は契約締結上の過失責任を問われ、損害賠償義務を負うことはあります。
売渡承諾書と買付証明は、曖昧で、誤解を生みやすいです。そこで、都の住宅政策推進部不動産業課 では、売渡承諾書や、買付証明を作らないように指導しています。
これは、英米法でも同様で、Letter of Intent に関して同様に解釈されています。「レターオブインテントに法的拘束力があるか否かは、・・・ 当事者の意思、および ・・・ 文言の解釈による。・・・ 法的拘束力を与えたくないときには、その旨 ・・・ 明記すべきである(田中信幸外編、国際売買契約ハンドブック、P8)」とされています。

判例

  1. 福岡高裁平成7年6月29日
    前記認定のとおり、本件売買契約ないし予約が成立したと認めるに足りないものの、以上に認定した一連の事実経過に鑑みると、本件売買契約の締結に向けて、むしろ被控訴人(注 買主)の方が主導的に手続きを進めていたことが明らかである。確かに、前記買付証明書には被控訴人本社の稟議決裁を条件とする旨が記載されており、控訴人(注 売主)としてもこの点は認識していたものではあるが、宮崎は契約締結に向けて精一杯努力することを約束しており、右時点以降、被控訴人が本件土地の購入を断念する旨の通知をするまでの間に右条件が改めて確認された形跡を窺うことはできない上、本件売買契約締結に向けられた被控訴人九州支店のその後の行動、交渉態度等に鑑みると、控訴人において右交渉の結果に沿った本件売買契約が成立することを期待し、そのための準備を進めたのも無理からぬものがあったと言うべきである。そして、契約締結の準備がこのような段階にまで至った場合には、被控訴人としても控訴人の右期待を侵害しないよう誠実に契約の成立に努めるべき信義則上の注意義務があると解するのか相当であって、被控訴人が正当な理由もないのに控訴人との契約締結を拒んだ場合には控訴人に対する不法行為が成立するものと言うべきである。そして、被控訴人が本件売買契約の締結をしなかったことにつき正当な理由があることを認めるに足りないから、被控訴人の右行為は少なくとも過失による不法行為を構成するものというべきである。

  2. 東京地裁平成3年5月30日判決(出典:金融商事889-42)
    土地建物につき売買代金及び手付金の額、最終取引日などを記載した売渡証明書と買付証明書が取引当事者間において交換されていても、買主は不動産業者で、目的土地につき国土利用計画法所定の手続完了後に売買契約書を取り交わすことが約され、目的建物に入居している多数の賃借人との立退き交渉が未解決という事実関係のもとにおいては、未だ売買契約の成立を認めることはできない 。

  3. 東京地裁平成2年12月26日判決(出典:金融商事888-22)
    本件不動産の売買条件等をめぐる原、被告間の口頭によるやりとりや前記の買付証明書及び売却証明書の授受は、当時における原告又は被告の当該条件による売渡し又は買付の単なる意向の表明であるか、その時点の当事者間における交渉の一応の結果を確認的に書面化したものに過ぎないものと解するのが相当であつて、これを本件不動産の売買契約の確定的な申込又は承諾の意思表示であるとすることはできないものというべきであるし、前項に認定した事実関係をもつては未だ原、被告間において本件不動産の売買契約の成約をみたことを認めるには足りず、他にはこれを認めるに足りる証拠はない。

  4. 奈良地方裁判所葛城支部昭和60年12月26日判決(出典:判例タイムズ599号35頁)
    前記第一の認定事実によると、本件売渡承諾書は未だ売買代金額が確定していないうえ、有効期限が付してあつて、被告が原告に対し、右有効期限内に右条件について 合意が成立すれば、本件土地等の売買契約を締結する意思のあることを示す、道義的な拘束力をもつ文書にすぎず、本件売渡承諾書の交付により、原、被告間に本件土地 を含む本件係争地につき未だ売買契約が成立するに至らなかつたことがあきらかであるというべきであるから右請求原因事実は認めることができない。

港区虎ノ門3丁目18-12-301(東京メトロ神谷町駅1分)弁護士河原崎法律事務所 03-3431-7161