ゴキヅル

 真双子葉植物 マメ群 ウリ目 ウリ科 ゴキヅル属 (APG分類体系)

 学名 Actinostemma lobatum Maxim. 

 ウリ科は、以前合弁花(ごうべんか)としてあつかわれていましたが、近年の研究により離弁花(りべんか)の植物に似た点が多いことから、離弁花のなかまに入れられるようになりました。
 植物の進化やDNAの観点から見ると、離弁花・合弁花の分類は、あまり重要ではないように思われます。ウリ科の中でも、合弁・離弁はまちまちなのです。

 
 ゴキヅルはつる性の植物です。
 ゴキヅルは、雌雄同株(しゆうどうしゅ)といって、同じ株に雄花(おばな)雌花(めばな)が咲く植物です。
 ちなみに、雄株(おかぶ)雌株(めかぶ)に分かれているものを雌雄異株(しゆういしゅ)といいます。
 左の写真は、全部雄花です。
 どうして、そういえるかわかりますか?
 それでは、雄花から調べることにしましょう。
 
 雄花(おばな)のアップです。
 雄花にはめしべがないのです。
 5つのおしべが見られます。
 花被片(かひへん)は10枚ですが、内側の5枚が花弁(かべん)で、外側の5枚ががく片です。
 花被片の基部(きぶ)はつながっていますから合弁花(ごうべんか)になるはずなのですが、合弁花植物のなかまには入らず、離弁花のなかまになるというところが、なんとなくややこしいですね。
 
 (うら)から見た花被(かひ)です。ヒトデが2つ重なっているように見えますが、外側のがくは、完全に合成(ごうせい)しています。内側の花冠(かかん)は、基部ががくの影になり見えませんが、これも合成しています。
 がく片と花弁の形は、似ています。しかし、よく見ると、花弁の方がはばが広く、先にいくと、急に細くなってとがっています。
 がく片の方は、花弁よりははばがせまく、毛がはえています。
 
 ゴキヅルのおしべは、ねもとがつながっています。
 (やく)を外側に向けて、輪のようにならんでいます。
 おしべは、花粉をつくる葯と、それを支える花糸(かし)の2つからなりたっています。
 葯は、2つの葯室(やくしつ)が平行についています。
 その間を葯隔(やくかく)といいます。左の写真からは、裏側になるので見ることができません。 
 
 ゴキヅルの葯は、ちょっと変わっています。
 右の写真の白いところが葯室で、茶色っぽいところが葯隔です。
 ふつう、葯隔をはさんで2つの葯室がついているのですが、ゴキヅルの場合は、葯隔の上に2つの葯室がならんでのっかっているといった方がわかりやすいでしょうね。
 
  裏側(うらがわ)から見てみましょう。
 花糸が、そのまま葯隔につながっています。
 花糸の先端(せんたん)が葯隔に変化したと考えていいでしょう。
 
 葯室がたてにさけて、花粉が顔を出します。
 このようなさけ方をする葯を縦裂葯(じゅうれつやく)といいます。
 たいていの花の葯は、この縦列葯なのです。
 
 つぎに雌花(めばな)を見てみましょう。。
 雌花も雄花(おばな)と同じく、外側の5枚ががく片で、内側の5枚が花弁です。 
 5枚の花弁も5枚のがく片も、基部でつながっていることについては同じです。
 花冠の内側から子房(しぼう)が見えないから、子房の位置下位(かい)です。
 こういう子房を下位子房といいます。
 位置でいうと、子房下位です。
 
 雄花です。
 花冠の下に子房はありません。
 
 雌花(めばな)をアップしてみます。
 中央にめしべの花柱(かちゅう)柱頭(ちゅうとう)が見えます。雌花だからあたりまえといえばあたりまえのことですが、そのまわりには、おしべが見えます。
 たいていの資料には、雌花には、退化(たいか)したおしべがあると書かれています。
 そういうおしべを(かり)おしべといいますが、この写真で見るかぎり、りっぱなおしべのように思えます。
 こういうのを両性花(りょうせいか)といって、ときどき見られるんです。
 
 めしべは、胚珠(はいしゅ)をつつむ子房(しぼう)と、そこからつき出ている花柱(かちゅう)、花柱の先の柱頭(ちゅうとう)、この3部からなりたっています。
 子房の表面にはイボイボがあります。
 柱頭は、花粉を受けるところです。
 ゴキヅルの柱頭は、ちょっと見にくいですが、2つに分かれています。
 
 うまく写真に()れませんでしたが、こんなふうになっています。
 色の()いところは、おしべのやくです。
 
 柱頭の部分をアップしてみましょう。
 2つにさけているのかどうかわかりにくいですが、表面積を大きくして花粉をとらえやすくしています。
 
 こんどは、花が()く前と咲いたあとについて調べましょう。
 左の写真は、開花前のつぼみの状態です。
 すべて毛でおおわれています。
 つぼみが小さいときは、多少緑色(みどりいろ)がかったがくに(つつ)まれていますね。
 つぼみが大きくなるにしたがって、内側の花冠(かかん)が大きくなります。
 先が細くとがっている花弁(かべん)(花びらのこと)だから、こんな形のつぼみになるのでしょう。
 
 花が咲いている状態はぬかして、つぎは、花が咲いたあとです。
 子房(しぼう)の中ほどに()の線があらわれます。
 これがゴキヅルのとくちょうの一つにもなります。
 この線は、いったい何なのでしょうか?
 
 横からアップで見て見ると ドングリに似ています。
 輪の線は、2つの部分の境目(さかいめ)だったのです。
 この境目は、がく片や花弁が出ていたところです。だから、子房下位(かい)というよりも、子房中位(ちゅうい)といった方がいいかもしれません。
 ただ、先の部分は、はじめ小さく、しだいに大きくなっていきます。はじめのころは、子房の大部分が花被(かひ)の下になっていましたから、子房下位といってもいいのでしょう。
 

 ゴキヅルの名前のいわれになった合器(ごうき)(=御器(ごき))は、ふた付きの入れ物という意味です。
 果実が(じゅく)すと、この境目が()れて、中から種子(しゅし)が出てきます。
 (わか)い果実(子房)をむりに割ってみると、中には白い胚珠(はいしゅ)が入っていました。
 これがだんだん茶色に変わって、種子になっていくのです。
 胚珠の数は、1個に見えますが、本当は2個なのです。もう1個は、小さくてふたの内側にはりついていました。
 このように、ふたがあるような果実をがい果といいます。
 
 ゴキヅルというからにはつる性の植物であるということはわかりますね。
 つる性の植物にもいろいろあります。
@ アサガオのように茎が巻きつ
  く。
A センニンソウのように葉柄(ようへい)
  巻きつく。
B カラスノエンドウのように、
  小葉(しょうよう)先端(せんたん)の葉がヒゲに変化し
  ている。
C ゴキヅルのように、茎からヒ
  ゲを出している。
 一口につる性といってもいろい
  ろあるんですね。 
 
 葉柄(ようへい)のつけねから新しい茎が出ています。
 また、葉と対生(たいせい)してヒゲ状のつるも出ています。
 こう見ると、対生している片方の葉がヒゲに変化したと考えられます。
 対生している葉がヒゲに変わってしまったのですから、葉のつきかたは、ほんとうは対生だけれど、いちおう互生ということにしておきましょう。
 ヒゲの先端は、2つに分かれることがあります。(分かれないのもあります)
 
 葉の形が、たいへん変わっています。
 葉脈(ようみゃく)にはこまかい毛がたくさんはえています。
 茎にもはえていますね。
 横下の方に小さなツメがあり、下の方には大きなツメがあります。
 このツメは、いったい何なのでしょう。
 
 ツメを顕微鏡で観察してみましょう。
 いくつかクレーターのような腺点(せんてん)が確認されます。
 何か、分泌物(ぶんぴぶつ)が出ているのでしょうか。(分泌物を出すところを腺点(せんてん)といいます)
 虫に食われている葉がほとんどないことから、虫がきらう化学物質を出している可能性(かのうせい)があります。
 このことは、いたるところに毛がはえていることと結びつきます。
 
 葉のへりを顕微鏡で観察してみます。
 こまかい毛がたくさんはえていました。
 たぶん、ここからも化学物質を出しているのかもしれませんね。
 イモムシや毛虫は、葉のへりから食べていきますから、この毛は虫()けには効果がありそうです。
 いかがでしたか、ゴキヅル。
 ゴキちゃんなんて、あだ名をつけられていますが、ゴキブリとまちがえないようにしましょう。