イヌノフグリ

 真双子葉植物 シソ群 シソ目 オオバコ科 クワガタソウ属 (APG分類体系)

 学名 Veronica didyma Tenore var.lilacina (hara) Yamazaki
 イヌノフグリは、むかし、農家の石垣や道ばたに生えているふつうの雑草でした。
 しかし、現在では、数がひじょうに少なくなり、絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)II類にされています。II類というのは、絶滅の危険性がふえているということを表しています。
 
 このような石垣のところに生えていることがあります。
 ここには、けっこうたくさん生えていました。
 
 石垣のすき間に生えていました。
 イヌノフグリは、直射日光の好きな植物ですが、とても小さく地面をはうようにのびていくので、他の草の陰になりやすいのです。
 乾燥しやすいところでも競争相手が少ない石垣は、イヌノフグリにとって楽園なのでしょう。
 
 色は、うすい赤、または赤むらさきですが、この写真はくもりの日にさつえいしたので、いくぶん青みがかっています。

 

 
 アリさんが来ています。蜜でもなめているんでしょうか。
 イヌノフグリの花の大きさをアリの大きさと比べてみましょう。
 ずいぶん小さい花ですね。
 
 これはいたずらではありません。
 花(花冠)の大きさをイメージするために、オオイヌノフグリの花冠を置いて撮影したものです。
 これによって、イヌノフグリはホントに小さいということがわかります。
 色のちがいもはっきりしました。この写真は、ライトをあててさつえいしたものです。
 
 葉の(わき)(つけね)から花柄(かへい)を出します。
 ふだん見なれているオオイヌノフグリとは、ずいぶん感じがちがいます。
 よく見ないと見のがしてしまうほど小さいからでしょうか。
 農家のおばちゃんたちのお話では、石垣に咲いていたこの花の名前は知らなかったとのこと。ある人に、めずらしい花だから除草剤なんかまかないようにいわれたそうです。 
 
 クワガタソウ属は、花冠(かかん)が落ちやすいのが特徴です。
 めしべの花柱(かちゅう)子房(しぼう)につながっていますから、落ちた花冠にはめしべはついていません。
 おしべは花弁(かべん)についているので、この写真のようになります。
 同じおしべでも左と右ではずいぶんちがいますね。
 右のおしべの(やく)は、花粉をたくさんもっています。左のおしべは、もう終わってしまったのでしょうか。茶色くなっていますね。
 
 花冠ののどもとには、こまかい突起物(とっきぶつ)が生えています。
 左の突起物は、いくぶん長いので、肉眼では毛のように見えます。
 右にも見えますが、みじかいですね。これはたまたま上を向いた角度から見たからで、本当は、左と同じように毛に見えます。
 毛が生えているのは、4枚の花弁のうち、両側の2枚です。
 
 
 花が小さいから、おしべも小さいですよ。
 おしべのぼうに見えるところを花糸(かし)といいますが、髪の毛より細いんですよ。
 おしべの頭は(やく)です。
 葯は2つの室からなっています。
 室が口を開くようにあいて中から花粉を出します。
 
 室をアップしてみました。
 だ円形の花粉が見えます。
 室はたてにさけるから、縦裂(じゅうれつ)です。
 花糸は、の中央についていて(てい)の字形になるので、丁字着といいます。
 
 めしべの(ぼう)の部分を花柱(かちゅう)、頭の部分を柱頭(ちゅうとう)といいます。
 写真では白いところが花柱で、茶色いところが柱頭です。
 この花柱は、もう受粉が終わったのでしょうか。柱頭がかたくなっています。
 下の写真を見てみると、子房(しぼう)がずいぶんふくらんでいるから、もうとっくに柱頭のはたらきを終えたのでしょう。
 柱頭のはたらきというのは、花粉を受けとることで、これを受粉(じゅふん)といいます。
 
 花柱のねもとにあるのが子房です。
 子房のまわりには、こまかい毛がたくさん生えています。
 写真では、子房が4つにわれているように見えるかもしれませんが、本当は2つの部屋になっています。
 
 花が終わると、子房がふくらみ果実(かじつ)になっていきます。
 この果実の形からイヌノフグリという名前がつけられました。
 これについての説明は、オオイヌノフグリにあります。
 オオイヌノフグリの果実の形と比べてみると、こちらの方が2個の部屋がはっきりしています。
 がくは残っています。
 
 がくは4枚あります。
 葉の形をしています。
 このことから、がくは、葉が進化してできたものであることがわかります。
 
 果実は(じゅく)してくると、からがかたくなり、中央のすじのところから、パカッと割れます。
 
 果実になる前の子房を割ってみました。 中には、白い胚珠が入っています。
 この子房からは、4個ずつ合計8個出てきました。
 胚珠は、熟すと種子になります。
 子房は、熟すと果実になります。
 
 写真は、胚珠を表から見たものです。表面がでこぼこしています。
 
 左の写真は、うらがわから見たものです。
 中が空洞(くうどう)になっています。
 どうしてこんな形になっているのでしょうか。
 顕微鏡で観察していたら、風が吹いてきて、胚珠が飛んでしまいました。
 イヌノフグリの種子(胚珠)は、風に()いやすいのです。
 これで遠くまでいけます。
 
 葉がたがいに向き合ってついているから、こういう葉のつきかたを対生(たいせい)といいます。
 下の葉と比べてみてください。
 同じイヌノフグリなのに、どこかちがいますね。
 左の葉は、ねもとに近いほうのものです。
 茎にも葉柄(ようへい)にも、葉の裏にも毛が生えています。
 
 こちらの葉は、ねもとからはなれたところのものです。
 葉はたがいちがいについていますから、こういう葉のつきかたを互生(ごせい)といいます。
 イヌノフグリのなかまは、ねもとの方が対生で、(さき)の方にいくと互生になります。
 花は互生の葉に向き合ってついていますから、葉と花のつきかたは対生です。
 花の方には()があります。
 
 葉のせんたんは、こんなふうになっていることがあります。
 タンポポのロゼットと同じように、これではどのような葉のつきかたかわかりません。
 しかし、1枚1枚はがしてみると、互生であることがわかります。
 ただし、イヌノフグリは絶滅危惧種ですから、もし、見つけても、ためすのは、オオイヌノフグリでやってください。
 イヌノフグリは小さい花が咲くわりには、太い茎が長くはってのびていきます。
 もちろん、枝分かれして、もっと細い茎になるのもあります。