イヌガラシ

 真双子葉植物 アオイ群 アブラナ目 アブラナ科 イヌガラシ属 (APG分類体系)

 学名 Rorippa indica (L.) Hochr.
 イヌガラシは、春から咲きつづけています。アサガオよりいきの長い植物ですね。
 イヌガラシはアブラナ科ですから、アブラナやナズナのなかまです。
 アブラナ科のなかまには、ダイコン、カブ、ハクサイ、ブロッコリ、カラシなど野菜が多いんですよ。
 ナズナの果実が平べったいのに対して、アブラナの果実は棒状(円柱状)です。
 イヌガラシの果実も棒状ですから、アブラナに近いなかまだということがわかります。
 
 同じイヌガラシ属にスカシタゴボウというのがあります。
 同じ属ですから、よく似ているのはあたりまえですが、それでも少しはちがいがありそうです。
 果実の形が、イヌガラシの方が長くて、そっています。
 準絶滅危惧種のコイヌガラシは、果実の柄がきわめて短いですから、すぐわかります。
 いちばん外側にあるのががく片で、4枚あります。ボートのような形をしています。
 その内側にあるのが、花弁で、これも4枚あります。
 
 アブラナのおしべは6本あり、内側に長いのが4本と、外側にみじかいのが2本でした。
 イヌガラシの場合は、長さはあまり変わりませんが、おしべの位置は、やはり、内側に4本、外側に2本です。
 外側に2本しかないのは、4本のうち2本が退化してなくなったものと考えられます。
 
 めしべのせんたんを柱頭(ちゅうとう)といいます。
 イヌガラシの柱頭は、ずんぐりしています。
 表面には、小さな突起(とっき)がたくさん見られます。
 イヌガラシのめしべは、棒状(ぼうじょう)です。だから、子房(しぼう)花柱(かちゅう)のように見えます。
 花は葉が進化したものです。花をつくる葉を花葉(かよう)といいます。
 めしべの花葉をとくに心皮(しんぴ)とよんでいます。
この柱頭の形では、心皮がいくつあるかわかりませんね。
 
 花が終わると、棒状の子房がさらにのびて果実をつくります。
 アブラナ科の果実のように、たてにさけるものをさく果といいます。
 イヌガラシの心皮は2で、子房の中がうすい膜(仮膜)で2室に分かれています。
 このような果実を、とくに角果といいます。
 イヌガラシの角果のように棒状のものを長角、ナズナのように平べったくてみじかいものを短角といいます。 
 
 イヌガラシのおしべです。
 おしべは、棒状の花糸(かし)(やく)とでできています。
 葯は、花粉をつくるところで、2つの葯室からできています。
 写真では、葯室がたてにさけて花粉をはきだしています。
 このようなさけ方の葯を縦裂葯(じゅうれつやく)といいます。
 
 丸まっている葯が多いですね。どうしてかな?
 花糸のつきかたを見てみましょう。
 はっきり見ることはできませんが、葯のはじの方に花糸がついていますね。
 花糸の先の部分の両側に葯室がついていることになります。
 このようなつき方の葯を側着葯(そくちゃくやく)といいます。 
 一番多いタイプです。
 
 花の内部を観察しやすいように、がく片と花弁を取りのぞきました。花弁のカスが少し残ってしまいました。
 花柄(かへい)の先っぽが平らになっています。この部分を花托(かたく)といって、ここに花弁やがくがつくのです。
 おしべは、花托につくものや花弁につくものがあります。
 おしべのねもとの方を観察してみると おしべは、花弁についていません。
 おしべの内側になにやらみどり色のつぶが見えます。なんでしょう?
 
 みどり色のかたまりといったら、蜜腺(みつせん)の場合が多いんです。
 アブラナ科の花は、蜜腺を観察しやすいので、春になったらぜひ観察してみてください。ルーペで見ることができます。

 
 昆虫に花粉をはこんでもらう虫媒花(ちゅうばいか)は、昆虫に来てもらうために、いろいろなくふうをします。
 花弁やがくを目だつ色にしたり、花弁に印をつけたり、においを出したり、あまい(みつ)を出して、昆虫を呼びよせるものもあります。
 その反対に、来てほしくない虫を防ぐ手だてもしています。
 トゲや腺毛などがその例です。
 腺毛からはいやな臭いや有害な物質を出したりしています。
 
 イヌガラシはアブラナ科ですから、葉の形は、他のアブラナ科の植物とよく似ています。 
 葉を観察するとき、どんな点に注目したらよいでしょうか。
@ 葉の形
A 柄の長さ
B 茎をだいているか
C 葉のさけぐあい(羽状、深いきょ歯、浅いきょ歯)
D 葉の色(こいみどり色、あかるいみどり色、白っぽいみどり色) 
 イヌガラシの葉の色は、こいみどり色です。
 
 イヌガラシの葉は、基部にいくほど葉柄(ようへい)のように細くなって、葉の基部なのか葉柄なのかわかりにくいのが特徴です。
 さけ方は、ふつう、羽状(うじょう)にはなっていませんが、下の方の葉では、基部のあたりが深い切れ込みになっているものもあります。
 
 中央の葉脈(ようみゃく)がのびて両側にひれのように葉がつづいています。
 その終わりのところには、ほんのちょっと小さな耳たぶのように葉がつきだして、茎をだいています。
 つきだしている部分を、植物用語では、ほんとうに、耳と呼んでいるんです。
 
 スカシタゴボウの葉は、羽状に深くさけています。
 イヌガラシの葉は羽状にはなっていません。
 
 イヌガラシの葉のきょ歯は、たいていは、ふぞろいになっています。
 のこぎりの歯のようにきれいにそろっていません。
 ほかの植物のギザギザと、ちょっと感じがちがいますね。
 きょ歯の部分を、もっと観察してみましょう。
 
 たしかに、ふぞろいのきょ歯です。
 よく見ると、きょ歯の先の部分が白っぽくなっています。
 単なるギザギザではなさそうです。
 トゲのようにも見えます。
 
 もう少し拡大してみます。
 やはり、トゲの部分はちがう組織のようです。
 もっと拡大してみます。
 
 白くかたくなっています。
 なぜ、このようになっているのでしょう?
 アブラナ科の葉は、アオムシやイモムシの大好物です。
 イモムシは、葉のへりから食べていきます。
 前のページの2番目の葉は、かじられていましたね。
 このトゲは、害虫から少しでも葉を守ろうとしているのではないでしょうか。
 どのくらい効果があるのかはわかりませんが、とにかく、生きていくということは大変なことなんです。