シオン×メイ


その3 シオン's view


夜。
もう、随分遅い時間だ。通りにももう人通りはない。俺だけだ。
すっかり酔いがまわって足取りはふらついている。
一応これで、「できない」理由にはなるよな……
情けないわ、俺。
もう、いー加減、嬢ちゃんも気付いてるか……?
視線が痛いもんよ。
なんで俺、こんなに苦しいんだろうな。
本気で惚れた女に告白して、思いが通じて、一緒に住んで。
幸せの絶頂のはずなのに。
はずなのに……

でも恐いんだよ。
本気でのめりこんで裏切られるのも、失うのも。
だから自分の中の恋心は片っ端から叩き潰してきた。
肉体を先行させて、相手より先にふってやることで、本気になんてならずにすんだ。
ただ、嬢ちゃんには……。
メイには。
それはしたくなくて… そしたらこの有様か。これも報いかな。

シオンは扉を開け家に入る。
「おう嬢ちゃん、まだ起きてたか」
家に入るとメイはお風呂上りらしく、パジャマに包まれた体が程よく火照っていた。
(風呂はクラインじゃ最新の商品だ)
メイが両手で持って飲んでいたカップを、テーブルに置く。
「『メイ』よ。それと、帰ってきたら『ただいま』ね」
メイの口調は平静そのものだ。だがシオンはそこに何かを感じて後じさる。
そんなシオンの様子を見て、メイは、ふっと息をぬいて笑った。
「ねえ、シオン?」
「あ、ああ」
「あたしって、魅力ないかな?」
「おいおい、どうした…突然」
「あたしのこと、好き?」
勿論だ、と答える声がかすれる。メイが歩み寄ってくる。
「あたしって、そんなに頼りないかな?」
何かに気付いたように、シオンが言う。
「……イーリスか?」
「まね。でも今はイーリスの話はナシ」

話の焦点がずれかけるのを、ぴたりと抑え込んで、メイが続ける。
「ふざけないでよ。全部……重いもの全部、自分で背負うつもりなら、初めから
あたしのことなんて求めないでよ」
絞り出すような声。
シオンの表情をたくさんの物がかけめぐる。
「あたし………寂しいよ」
気付けばメイは涙を流している。
「すまん……メイ、悪かった」
シオンがメイを抱き寄せる。
「できないのもさ。恐いのもさ。あたしがいるよ。あたしが、一緒にいる。2人で
持ち上げてみようよ」
メイを抱きしめる腕に力がこもる。そして一回ほどかれて、おずおずと優しく抱きしめ
なおす。
「……よろしくお願いします」
「こちらこそ。」
2人はお互いの身体に腕を回して。それからゆっくりとくちづけた。














…………。
「メイ……… あー、体、大丈夫か?」
「なんとかね。シオンこそ、心、大丈夫?」
「まあ、俺はな……。すまない、夢中で、あんまり加減とか、痛くないようにとか、
考えられなかった」
そんな風に言うシオンに、メイは言った。
「シオン? あたしは、こうなれて、幸せだよ?」
シオンはごろりと反対側を向く。憮然としたその顔は赤く染まっていた。

───2日遅れの、2人の初夜。


というわけなのでした。
いいのかな、こんなシオン。
というか、ちょっとメイが成長しすぎかな?

オリジナル設定大爆発の、シオメイでした。
シオンの、こんな側面やお話を見てみたかったので、自給自足してみました。

皆様のお口にも合えば幸いです。


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