シオン×芽衣 その1

プロローグ




メイ=フジワラ。
彼女の国風の言い方で呼ぶなら、『フジワラメイ』

平行世界の「ニッポン」という国から、召喚魔法の事故によってこの世界に
呼び出されてしまった15歳の少女。
彼女が自分の世界へ帰れる日まで、彼女の身柄は魔法研究院に所属し、保護されることになった。

初めは客員的な、いわば形式的な措置だった。
研究院の事故の機密が漏れることを恐れたのだ。が、
どういう訳だか、彼女は才能・適性ともに魔術師に向いていたようだ。
特に実践においては。

その訓練が本格的になるにつれ、次第に他の魔法研究員達にも認められていった。
何よりも、彼女のその好奇心旺盛で恐い者なしな性格は、
全く異なる世界の異なる文化に、あっさりと馴染んでいったのだった。(笑い)
まあ、そんなにぎやかなみんなの人気者が、すったもんだの末この世界に残る
ことを決め、しかも『あの』女たらしシオン=カイナスと結婚すると宣言した時は、
だれしも驚きを隠せなかったと言う。



はあぁぁ。
どんよりとした空気を纏って、メイは王宮の廊下を歩いている。
ここ数日間の噂の中心である彼女は、なにやら巨大なストレスを抱えているようだ。
そこにこの国の第2王女であるディアーナが通りがかった。
例によって、街へお忍びに出かける御様子。

「あら。メイではありませんの。どうか致しました? なにか悩み事でも……って
本当に顔色がよろしくないですわ! 一体どうしたんですの?!」
メイのそばによったディアーナは、改めてその表情の暗さに驚いてたずねた。
「ううっ、ディアーナぁぁっ! ちょっと聞いてよ〜〜〜!!!」
ようやく悩み事をぶちまけられる相手を見つけて、メイはとりあえず泣き崩れた。


「え? まだ手を出されていない……って、メイが? シオンに……ですの?」
「そーなのよ! おかしいと思わない?!」
空になったグラスの中の氷をストローでがしがし突き回しながらメイが言った。
あの後、二人は街の大通りの喫茶店に来て話をしていた。
「ええっと。でも、メイがシオンと結婚したのって2日前ですわよね?」
「そう!」
「『あの』シオンがチャンスを2回ものがしたということですの?」
「そうなの!!」
「でっでも、シオンは婚約前から、さんざんメイを、その、『誘って』ましたわよね?!」
「だからさー、いや、心の準備ができてない時に迫られるってのも困るけど! 心の
準備しちゃっている時に肩透かしくらう、てのもきっついよねー。それが2回よ!?
もうあたしの方がキレちゃいそう、てなもんよ」
メイがぐしゃぐしゃと髪の毛をかき回す。
ああ、サラサラの髪の毛がもったいない。

…………。
そんなことがあるのだろうか。
ディアーナは日頃の「あの」宮廷魔術師の様子を思い浮かべてみる。
いつもへらへらして、フレンドリーで、刹那的。女の子にはめっぽう手が早くて、
それで泣かされた女官も何人も知っている。で本音に詰め寄ろうとすると、なんだ
かんだではぐらかされてしまう。
そんなシオンが。
本気で好きになったメイをに。
今だに手を付けていないなんて……一体どういうことなんでしょう。
「はあ、こうしてうじうじしていててもしょうがないか。ありがとねディアーナ。
悩み聞いてもらっちゃって」
「いえ、これくらいはお安いご用ですわ…でもメイはどうするつもりですの?」
「んー、どうすっかな。今度はアタシから誘惑してみるとか。帰ってきたところに
いきなり素っ裸とかで。
そんで白状するまで問い詰める!」

メイが拳をにぎりしめて宣言する。
こういう、恐れもせずに問題に真っ向から突撃していくところが、本当にいいなぁ、と
思う。
「がんばってくださいましね……わたくしの方でも、何か分かりましたら連絡いたし
ますわ」
「うん、よろしくね」


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