キール×芽衣

SHOWOFF その2




私はキールの話に耳を傾ける。
キールは話し続けている。
「うちは母さんが魔術の研究にかまけて、子供にも家事にもかまわない人だったから。
そのころ俺達の相手をしてくれていたのは、シェリダお姉さんだった。
「3人で遊んだこともたくさんあったし、無茶しようとして叱られたこともあったっけ
かな。俺達の母親がわり……というとちょっと違うか。そのころからうちの家事をやって
いたのは兄貴だったからな」
「あ、それでアイシュ料理得意なんだ」
「ああ。で、シェリダさんもそういう事はできたから、よく2人でそんなことをやって
いた。そういうのに無頓着な俺は一人だけ子供扱いされているみたいで、なんか悔し
かったな。
何かと兄貴に突っかかってたし、シェリダさんのこともいじめちまってたし」
「アイシュ・コンプレックスってその頃からなんだ……」

キールが憮然とした表情になる。
「まあ……な。たぶんその時、兄貴はシェリダさんが好きだったし、……」

言葉が途切れる。
……次の言葉を、待つ。
「だったし……何?」
「そう言えば、今日はメイも随分遅かったんだな。宮廷の方も大変なのか?」
メイの問いには直接答えず、キールが話題を変えた。
…………。
(何? その話題の変え方。)

メイは今では宮廷魔術師だ。数ある魔法の系統の中でも、武術魔法と治癒魔法……
と、いうより性格的に研究が向かない彼女は、先のダリス動乱での功績以降、徐々に
宮廷魔導士としての役割が大きくなっていた。

公的な立場としては、ひらの宮廷魔導士の中でも最も年式の若いグループになって
いるが、皇太子お気に入りの実行グループの中では、すでにシオン=カイナスの片腕と
言っていいポジションになっていた。

「んー、またいつかダリスの時みたいなゴタゴタに巻き込まれるかも知れないから、って
ことで“近衛”とは別系統の秘密組織を作る必要があるの。その編成とかそれに伴う雑務
とかを、シオンや殿下と処理してる」
だめだ。
意識しているつもりでも、口調が突き放したような言葉になってしまう。
……今日はもう退き上げよう。

「あたし、もう寝るね。それ、ココア、冷めちゃったかもしれないけど、よかったら
飲んで。じゃ、お休み」
メイは素早く立ち上がると、何かを言いかけるキールを後に、さっさと部屋を出てし
まった。



次の日。
メイは隠密魔術師戦隊の編成のかたわら、廊下で会ったアイシュに話を聞いてみた。
「ねえ、アイシュ?」
「はい〜、なんですかメイ?」
「シェリダさんって、どんな人だったの?」
がたがたと見事に持っていた本をぶちまける。
「ななな、何でそれを〜?」
「キールに聞いた。仲よかったらしいじゃん。一緒に料理作ったりとかさあ。子供
なりに将来結婚する約束なんかしちゃってたりして?」

うりゃっとばかりに畳み掛ける。気が弱い相手から話を聞き出すには、一気に急所まで
踏み込むに限る。
「そ、そんなことはありませんよ〜、それにシェリダさんは………キールのことが好き
でしたからー」
今度はメイが書類を落っことす番であった。
「え゛?」
「彼女が引っ越すことになる一月前くらいに、打ち明けられました…… なんだかんだ
いって、キールは彼女のために一生懸命でしたから、そんなところがよかったのかもしれ
ませんねー」
メイは表情が引きつりそうになるのを抑え込み、平静を装ってたずねた。
「そ、そう。引っ越しちゃったんだ?」
「はい。彼女の家は新興の有力貴族でしたから、王都の近くに引っ越すとかで……」
「ふうん……て、あれ? 王都ってここじゃん。じゃあ再会したの?」
「それが… 僕が文官になって王都に来てみると、彼女の家は政争に敗れて離散して
いたんです……」
「え、じゃあ彼女の行方は?」
「分かりません。もしかしたら最悪の場合、どこかでもうお亡くなりになっているの
かも……」

「生きてるよ!」
「えっ…て、シオン?!」
メイの背後から、彼女の頭に手を置きながら登場したのは、宮廷の筆頭魔導士、
シオン=カイナスであった、要はメイの上司である。
「おい、この忙しい時になに油売ってんだ。俺を過労死させる気か?」
「あんたはこんな時くらい働きなさいよ。平和ならやることないんだしさ。それより、
『生きてるよ』… って?」
「ブリエット家のシェリダ嬢ちゃんだろ? 生きてるって。家は没落したが、平民の
商家に拾われて、貧しいなりに元気でやってるよ。
よかったな、アイシュ。もう身分違いの恋じゃないぜ?」
どこから聞いていたのか、シオンがアイシュの背中をばんばんと叩いて言った。
「そ、そんな、違いますよ〜、僕はただ……」

アイシュとシオンのそんなやりとりを聞きながら。
メイの意識は完全に別のところへ行っていた。


『な、なにぃ〜〜〜?!!』







<続く……のか?!>



と、いうわけで相変わらずのオリジナル要素満載でお送りしました。
キルメイSSです。

このSSと、一個前に作ったシオンの話は、私から見たシオン像・キール像は
こんな感じ〜 というのが出たエピソードになっています。
どう……でしょうか。

そんなの全然関係なしに、ドラマとして楽しめた! とおっしゃって頂ければそれが
最高に嬉しいのですが。


これ……の続編は多分やらないと思います(^^;
シェリダが登場して、「ライバル登場?!」な感じで、バリバリらぶこめな展開になって、
管理人が火を噴くの必至(^^;

まあ、オリキャラごときがメイに敵うわけもないのですが(笑)



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