イーリス×芽衣
風の中へ その3



「イーリス、お待たせ!」
「……メイ。もうお別れはいいのですか」
町のはずれで待ち合わせていた「恋人」にメイは声をかけた。
クラインの法律で、定住しない者の国内での滞在期間は決められている。
吟遊詩人として諸国を流れているイーリスには、立ち去る日が来るのだ。
イーリスは旅立ちに際して、メイを彼の旅に誘い、
メイはそれを受けて立った。
今日が旅立ちの日。
クラインの皇太子セイリオス=アル=サークレッドが、その法律を改正しようとして
奔走したが、わずか1日や2日で保守的な元老たちを説得できる訳もなく、イーリスは
何も知らないかのように、予定通り今日、クラインを出る。

「まーね、みんな仕事で忙しいし。
昨日までの間に一通り今日行くことは伝えてあるから。
うん。もう、行こう」
「そうですね。これきり会えないというわけでもないでしょう」
イーリスはあでやかに笑い、言った。
二人は行く。
そして街道が、森を抜け、やまあいに差しかかる。
道の両側に険しい山肌がせまっていて、道が谷の底のようになっている。
『…………。』
「?」
『…メイ! ……イーリスさん! …』
囁き声で自分達を呼ぶ声が聞こえる。
声の元を探して辺りを見回す。
山あいに入る手前、茂みの中からシルフィスとガゼルが、口の前に人差し指を立てて
こちらを手招きしている。

茂みに近づき、自分達も声をひそめて聞く。
【シルフィスにガゼルじゃん。どうしたの? こんなトコで。】
(間に合ってよかったです。メイ、イーリスさん。実はこの界隈に出没する、野党の
根城がこの辺りにあるんです)
(俺達で追っている所だった訳だけど──)
(ちょうど今、奴らの一団が獲物を待ち伏せに、その崖のあたりに来ています)
(俺等で片づける。けど、少し時間がかかるし)
(危ないですから。しばらく隠れていて欲しいんです……)

シルフィスとガゼルが互い違いに状況を説明する。随分呼吸があっていることだ。
しかし、メイは別の事を考えているようだ。目つきが危険な笑みをたたえる。
「…だってさ。どうする? イーリス」
「そうですねえ。実は私も少しですが武術魔法を使えるんですよ」
「うん、知ってる。じゃあイーリス、『魔法のシンクロ発動』って知ってる?」
「はい。やったことはありませんが、メイ、あなたとならぶっつけ本番でも成功さ
せる自信はありますよ」
「よし。じゃあ、研究院の資料の『2人でかければ威力は2乗』っての確かめてみよーう!」
「はい」

なにやら不穏な話題が盛り上がっている。ガゼルが心配して声をかける。
「おーい、お二人さん?」
「もうムダじゃないですか? ガゼル。この2人がこうなっちゃったら」
シルフィスが笑う。ガゼルも肩をすくめて笑う。
「だな」


「んじゃ! 崖ごと吹っ飛ばしちゃって、地形がちょっと変わっちゃうかもだけど!」
「そうですね。では、行きますよ、メイ」
「うん!」

『ファイアボール!!』


青空に轟音が響き渡り、彼らの旅立ちを祝福していた。







<了>



と、いうわけでイーリス×メイです。
うちのサイトでのイリメイは、爽快感を重視で書いてみています。
どこまでも、走っていってくれー!


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