イーリス×芽衣 その1

プロローグ
-メイの回想-




ニッポンにいた頃の私は「それなりに」ではあるけど、いわゆるお嬢様だった。
通う学校はお嬢様学校で、送り迎えの車には運転手の人がいて、
家にはお手伝いさんがいるような家だ。
(実際にはいつもいる訳じゃないんだけどね……掃除くらいしかお願いしてないし)

それでも、自分の身の回りのことは、ほとんど自分でやる必要はなかった。
お父さんにはっきり言われたことはなかったけど、友達とかと話しているうちに、
なんとなく、自分の将来の結婚も、政略結婚ぽいことになるのかな、
とは思ってた。

そんなあたしがだ。
ファンタジー世界に召喚されて魔術の勉強をしなくちゃならなくなるなんて、
誰が予想できるだろうってなもんよ。


「すごい……! 炎の適正だけなら歴代でも1位ですよ!」
「えーと、それってすごいの?」
「すごいですよ! 炎だけなら、あのシオン様より上なんですよ?!」
「そ、そう」
(そうか……あいつ本当にすごいのか……)

でも、どんなに適正が高くたって、それは人よりうまくできるというだけで、
魔法を覚えるためには結局、薄暗い灯火の中で死ぬほど魔導書を読んで、
「きちんと」使えるようになるためには、それこそ「傷だらけ」になりながら
トライ&エラーしかなくて……

……それでも自分の力が何かに届く瞬間は嬉しかった。

そしてダリスの動乱であたしはシルフィスと組んでアタックの任務についた。
自分に自信はあったよ。さんざん努力したし。
でも、それでもうっかりぐさりとやられれば、死んじゃってた任務で。余裕なんて
ある訳なかったし
それは、あたしが武術魔法でなぎ倒しちゃった相手の人にも同じだったと思う。
それでもどうにかその任務は成功して。
成功させて。
平和が戻ると、私は英雄になっていた。

1章 -ディアーナ-



「よし、こんなもんでしょ」
あたしは自分の部屋で、旅立ちの荷作りを確認する。
借りていた備品は全部返却したし、昨日のうちに掃除もすませた。
いつの間にか愛着のわいていた、研究院のこの部屋もすっかり綺麗になった。
……これで気持ちよく旅立てる。

「メイ…… やっぱり行っちゃうんですのね」
気がつくと、ディアーナが部屋の入り口に立っていた。
「うん、まあね。天才美少女魔導士ってのも悪くないけど、やっぱり「救国の英雄」
なんてガラじゃないしさ。
それにやっぱり……誰かと一緒に生きてくなら、イーリスと行くのが
一番あたしらしい気がするんだ」
メイは頭をかきながらえへへと笑う。
「そうですわね。メイの直感は当たりますもの」
「うん…… それじゃ、ディアーナも元気でね。どこを流れるか分からないけど、
ダリスの近くを通る時には顔を出すからさ」
「はい本当に…… ぜひ、いらしてくださいまし」
メイは荷物をかつぎ上げる。二人の間で言葉がひととき、とぎれる。
「んじゃ、あたし行くね!」
「はい、メイ、お元気で!」



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