ガゼル×シルフィス 

その2



さてそんなある日。
「ねえお嬢さん、一人? よかったら俺とお茶でもどう?」
私は町の大通りでナンパを受けていた。
「……」
幸い肩を叩かれたわけでも、正面に回られたわけでもないので、聞こえなかった事にして
やり過ごそうとしたのだけど、敵もなかなかしつこかった。
私の正面に回り込み、あれこれと言ってくる。
アンヘル族の髪の毛の色は人目をひくようで、私は未分化のころから既にさんざん、似た
ような男を見たことがある。

いわゆるごろつきだ。
私やガゼルのことを知らないのなら、知能程度も相当に低いだろう。
これは骨が折れる。
「おい、いつまでも澄ましてんじゃねーぞ!」
目の前の男がいらだち始める。
その時。
「わるい、おっさん。そいつ彼氏付きなんだわ」
ぽん、とその男の肩に手を置いてガゼルが姿を現す。
ガゼル、一応、籍まで入れたんだから、あなた「夫」なんですけど。自覚、ある?

ちなみに、今日は二人で買い物に出かけてきていて、ちょっと買う物の都合で離れていた、
ちょうどその間の出来事だったのだ。
ガゼルは笑顔でその男をなだめようとしているけど、その背の低さが災いして相手に
なめられている。(私よりは高くなりましたけど、逆に言えばその程度で)

相手がヒートアップする。
だんだん私に対する中傷が混ざってきた。
まずい。このパターンは。
ガゼルが切れる……

「ガゼルパンチ!」
どむ。
左肩から相手に密着するような姿勢から突き上げたボディブローが、ごろつきの肝臓に
深々とめり込む。
「か ……はっ」
男は体をくの字に折って、地面に崩れ落ちる。
あ、やっちゃった。
「あいかわらず、容赦ないですね」
私はガゼルに声をかけます。
するとガゼルは、突っ伏している男の表情から目線をきらずに言いました。
「当たり前だ。好きな女に手を出されて、男が平静でいられるかよ」
うめいていたごろつきが、ガゼルの剥き出しの殺気におびえ、震えだす。
「しかも、こいつ……!」
私はガゼルの気持ちをほぐすために、笑顔を向けた。ありがとう。
私のために怒ってくれたのですよね。
「そう、でも私としては、そこまでしてくれなくても、良かったのですけれど……」
すいと、目線を落とす。
「う……」
ガゼルが、ばつの悪そうな表情をする。作戦成功。
「あのよう、シルフィス…… ディアーナとかの影響なのかも知れないけどさ。なんとか
なんないかな、その女言葉。………、
なんかこう、背中がむずむずするというかさ…………」

作戦ですから。
「あら、でも昔ガゼルは私にすごく女の子っぽい服とか、プレゼントしてくれたりした
じゃないですか」
ガゼルが、いたずらの見つかった子供のような、5年前の出会ったころのような表情をする。
「あ、あれは冗談というか……」
「あ、ひどい。ガゼル様は冗談混じりで、わたくしの人生を手折ってしまわれたのですね」
頭の中にミリエールさんのイメージを思い浮かべながら、うんと「女っぽい」言葉づかいを
作ってガゼルを見つめる。
「そ、そんなんじゃねーよ。ただ、あの時は告白のための勢いってのもあったし、あの頃
俺、お前に男として見られて貰えてないんじゃないかって焦りもあったから。
それで、あんなことしちまったけど。でも!」

そこでガゼルは一度言葉を切って、私を見つめる。
「俺は、ずっとお前と一緒に、肩を並べて剣を振ってたいって思った。それが一番で、
だから俺、自分の料理をお前に作って貰いたいとか、家で待っていて欲しいとか、
そんなことは一度も思ったことないぞ!」
ガゼルが5年前のあの時と同じ、まっすぐな目で私を見つめる。
少しいじめすぎただろうか。

「分かってますよ、ガゼル。だから私も精進して、寸止め剣術のポイントでは、今でも
ガゼルに勝ってますよ?」
ガゼルはきょとんとした顔をした後、指折り数えながら、何かを一所懸命考える表情になる。
「……。
あ! 本当だ。俺勝ててないや!
そうか、俺、まだシルフィスに勝ててないんだ。そーかそーか!」
ガゼルが心底嬉しそうな顔になる。
もっとも、力では全く勝てなくなってしまいましたけどね。

「ぃよーし! 今日からまたがんばるぞーーー!!」
ガゼルが体を伸ばしながら夕日に向かって叫ぶ。
「ええ! がんばりましょう!」
私は、あの頃のように言った。


私を、ただ一人認めてくれたあなたと。
これからもずっと走り続けるために。




<了>



ええんかいな、なテーマ。
でも、私としてはかわいがって貰うよりは、「お互いに」じゃれていたいと
思いますし、
できれば対等の関係でありたいとも思います。

それとやっぱりガゼル君はかっこいいのです。
もっと、強くなりたいと思う気持ちにはひきつけられるのですよ。



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