DAY DREAM BELIEVER



another end,as a prologue

手を。
手を放すのを。
私はためらってしまった。

「七瀬だけを行かせたりしない! 俺も一緒に行く。
一緒に昇って、それで、もしも『次』があるのなら、今度こそ、
始めから終わりまで、ずっと一緒にいよう」

そう言って私を見た彼の目は、何かを捨てて何かを決めた、落ち着いた目だった。
それで、
──それで、私は、決定的なタイミングを逃してしまった──


── a ten years after, another story starts ──

「なーなーせーちゃん。あーそーぼ!」
3歳くらいの男の子が母親と連れ立って友達の家を訪ねている。
春のうららかな昼下がり。よく晴れた空から暖かい日差しがふりそそいでいる。
少しの間があって「ななせ」と呼ばれた女の子が玄関から出てくる。
「おはよ、しんいちろう。いこ!」
「うん!」
子供たちが駆け出していく。それを少し目で追ってから、「しんいちろう」の母親は
家の中を覗きこむ
「唯子? どうしたの?」
「あー、ごめんごめん、小鳥。お待たせ」
「もう。真一郎も七瀬ちゃんも行っちゃったよ。早く追いかけないと」
「だから、ごめんってばぁ」
街に四人の走る音が響く。
「ねえ、ななせちゃん」
子供の一人が話しかける。
「んー?」
「きのう、ななせちゃんが言ってたゆめの話なんだけど」
「うん」
「ぼくもみるんだ。よく」
「ほんと?!」
「なんなんだろうね。これ」
「なんなんだろうね」
少女が何かを思いついたように言う。
「ねえ、しんいちろう」
「なに?」
「このはなし、2人だけのひみつにしよう!」
「ひみつ?」
「そう! 2人だけのひみつ!」

今、二人は春の太陽の元で、限りない祝福を受けていた。

<了>

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後書き。
すんません、黒いネタで。 すいません、短くて。
このSSはもう、完全にネタ優先です。演出とか描写とかパッケージングとか、
どうやっても小説化できそうもなかったんで、実験的にネットに置いてみます。
みたいな作品です。

この話のイメージは、私が七瀬ルートをプレイしながら、「七瀬のエンディングは、
こんな感じだったら嬉しいな」と、期待していた物で、「別れなきゃいけない」と
いう事実はかなり辛く感じました。

とは言え、このストーリーは。厳密に考えると、後に遺された真一郎の「死」を
まわりの人達がどう受けとめることになるのか、という
重い問題をかかえていて、それゆえに、さらに扱いが難しい部分があるんですけど。
それでも、誰かと、共感と共有を、したかったのですよ。