戦地にありて、故郷を想う
──Epilogue──
昼下がり。
私は、特に何をするわけでもなく、ぼんやりとしていた。
住人の出かけた高町家は静かだ。太陽の光がそこに優しく照っている。
電話が、携帯が鳴る。仕事の電話だ。
「美沙斗さん……? 荷作りなんかして。……もしかして『仕事』ですか?!」
恭也君が私の様子を見とがめて声をかけてくれる。
「ああ。どうやらうちの情報チームは今回随分頑張ったみたいだ。
予定を繰り上げて休暇終了だ」
「…そうですか」
さっき入った電話がそれを告げる物だった。幸か不幸か、今日の夕方の一般での
航空チケットも空きが取れてしまった。
「本当は、陣内さんは『後二日くらいなら、ギリギリ休暇を消化して貰っていても
大丈夫』だと言ってくれたんだけどね」
ここにいるよりも。あちらにいる方が、残念だけど私は役に立つようだ。
「美由希達には俺から」
「うん、ありがとう。行く前に翠屋に寄って、桃子さんには私であいさつをするから」
今、家にはこの二人しかいない。
私は荷物をかついだ。
「今回は慌ただしくなってしまってすまないね」
「いえ。 ……美沙斗さん、しっくりはまるような道があるかどうかも分からない
ですけど、俺は俺なりの……往き方で歩いてみます」
「うん。……美由希を頼むよ」
「はい」
…
……
………。
数刻の後、私は香港に降り立っていた。
時差が小さいとかえって体内時計の感覚が狂う。時間が少し引き伸ばされた
様な気分になる。
今回の休暇は……
短いなりにおもしろかった。
日本には、いや高町家には、あのまま幸せな家庭であって欲しいと思う。
でも世の中には少しそうでないところもあって……
いや、少しどころじゃない所もあって。
私はここでやることがある。
「恭也、そっちは、まかせたよ」
私は狭い階段を降り、地下へ入っていく。見慣れた扉を叩く。
警防隊の集合場所の一つだ。
「ただいま、弓華」
「あ、おかえリなさイ、美沙斗」
そして、彼らは同じ力を手に、異なる場所で違う道を道を行く──
<了>
↑一つ上の階層へ
後書き。
と、いうわけで、美沙斗さんSSです。
自衛隊隊員・地位向上キャンペーン創作……というわけでもなく(笑)
(いや、武器と名誉くらい持たせてあげたいとは思っていますケド)
アイデア自体はリスティ本の入稿前にあったんですけど……。
すいません、おまたせでした。
……それにしても、いつの間にこんなに長く?(汗)
当初の企画では三章が丸ごと無くて、2章がもう少し盛り沢山なだけな話な予定
だったんですが……
別のコンセプトが合体して今の形になりました。
日常というのは、辛くて苦しくて不快で、しかもめんどくさい物で、決して
平穏で幸せで満ち足りた日々というのが「普通な暮らし」なのではなく、そちらの
方が一種のファンタジーなんだという感じ方もありかな、などと思ったのが
テーマだったりします。
だから、今の自分の生活が幸せじゃなかったとしても、それはあなたがダメな
わけじゃなく、特別珍しいわけでもないから。安心していいよと……。
幸せであることは努力目標でいいんだよ、と。
言うことが、ある種の癒しになったりしたらいいなぁ、と思って書きました。