夏休みの、こんな一日《第1章》


高校3年の夏休み。私は相川と一緒に旭川の実家に帰っていた。
これは、そんなある一日のお話。

6:00 AM
 家と庭の掃除を終えて、火影兄様が起きてくるのを待つ。夏は
この時間でも十分明るく、そして、この時間はかろうじてまだ涼しい。
風が気持ちいい。
「おはよう一角。今日も早いな」
「おはようございます、兄様。今朝もよろしくお願いします」
「ああ、今準備する。ちょっと待っていてくれ」
旭川滞在中の私の朝の日課。火影兄様との手合わせ。忍びの技術の
一つの側面である『戦闘』はどうしても自分より上手の相手が必要だ。
個々の技への日ごろの習熟はもちろん欠かせない要素だ。でも現実に、
組み手は絶対的に重要だ。
「じゃ、始めるか」
兄様がくないを逆手に構えをとる。利き手は空拳。
兄様達の期待に応えるためにも少しでも多くの物を吸収したいと思う。
兄様の呼吸をはかりつつ、真正面から踏み込んだ。
「は!」

 時間にして20分。手数にして数十合。セットしておいたタイマーが
鳴る。
「あ、りがとう、ございました。」
「ああ、じゃ、また明朝にな」
そう言って兄様は室内に戻っていく。手足の筋肉をほぐしながら回想
する。20分間の一つ一つのシーンが、技の感覚が、混ざり合いなが
ら手足によみがえる。
「もっと精進しないと。まだまだ駄目だな、私は」
火影兄様は、そして御剣の技はまだずっと高い。

「いづみおねーちゃん。今日も来たよ」
休んでいた私に声がかけられる。
「ああ、吹雪。おはよう」
「今日も技、見てもらってもいい?」
「ああ、いいよ。始めようか」
「うん!」
声をかけてきたのは、華憐の妹で吹雪。その名前とは逆に、あたたか
くて熱い子だ。
どういうわけか、こんな私を尊敬してくれている。
御剣には上にも下にも凄い人達がいる。私もその人達に負けないよ
うに、せめて努力だけは欠かさないようにしよう。


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