NOON: 22ND CENTURY (真昼−−22世紀)

A&Bストルガツキー兄弟

英訳版表紙写真

はじめに

 1960年代に発表された連作集。
 昔から題名に惹かれていたのと、〈マクシム三部作〉などの未来年代記とどのようにつながっているのか?という興味から、読んでみました。
 私はロシア語の原書も読解力も(まだ)ないので、英訳版で読みました。
はじめに
書籍情報
あらまし
内容紹介
原書情報
参考資料

書籍情報

書名:
Noon: 22nd Century
言語:
English
作者:
Arkady Strugatsky & Boris Strugatsky
訳者:
Patrick L. McGuire
序文:
Theodore Sturgeon
発行年:
1978 (First Printing)
出版社:
Macmillan, New York (Macmillan's Best of Soviet SF Series)
ISBN:
0-02-615150-2

あらまし

 〈マクシム三部作〉までつらなる未来年代記に属する、作者初期の連作。
 主要登場人物の一人は、21世紀人の宇宙飛行士セルゲイ・コンドラチェフ。22世紀へ帰ってくることになった彼の彷徨と、彼をめぐる人々の物語を通して、22世紀の(20世紀末現在となっては)“古きすばらしき未来”と、その時代でも変わらない人間の営みが描かれます。
 加えて、ゴルボフスキー、コモフ、シードロフら、後期の作品にも顔を出す人物たちの若き姿が描かれます。
 後半では、後の作者お得意のモチーフとなった異文明の探査や接触が登場します。

 原書情報で収録作品をたどると、本連作は、最初はコンドラチェフの物語としてまとめられ、だんだんに他の作品が追加されて、未来年代記の体裁が整えられていったようです。
 本来は独立した作品だったものを、年代記に整合するように改稿したと思われるのがありました。 兄弟は版ごとに書き直しをやることで知られているそうですが、こういう改稿も含まれているのでしょうか。


内容紹介

Introduction (序文) by Theodore Sturgeon

PART ONE: ALMOST THE SAME

1. Night on Mars (火星の夜)
【原題】
НОЧЬЮ НА МАРСЕ (1960) (1967年版初収録)
【物語】
 ピョートル・ノバゴ Pyotr Alekseevich Novago とマンデル Mandel のクローラーは穴に落ち込み、運転不能になった。ここは火星。彼らは徒歩で目的地を目指す。
 彼らは医師で、助産のためにスラーヴィン Slavin のところへ向かっているところだった。火星最初の子供が生まれるのだ。
 オパナセンコ Opanasenko とモーガン Morgan の2人と出会い、道行を共にするが、火星はまだまだ踏査されておらず、危険も一杯で安心できなかった。
 怪物の襲撃を何とか撃退して、一行は進んでいく。ノバゴは生まれる子供のことを思っていた。
【邦訳】
  • えびはら・たけし 訳「砂漠の夜」(現代ソビエトSFシリーズ1『不可能の公式』プログレス出版所 (1967) 所収)
    * プログレス版の原題は НОЧЬ В ПУСТЫНЕ (1960) とされていますが、内容は本作と同じ。一部の人名が変わっていることから推して、どちらかが改稿でしょうか。
2. Almost the Same (ほとんど同じ)
【原題】
ПОЧТИ ТАКИЕ ЖЕ (1960) (1967年版初収録)
【物語】
 セルゲイ・コンドラチェフ Sergei Kondratev たちは呼び出しを待っていた。ここは宇宙飛行士上級学校。彼らが待機しているのは遠心機による高重力訓練だった。
 番がきてゴンドラに乗り組む段になって、コンドラチェフは医師が規定以上の加速を禁止したことを知らされる。7Gに耐えたと抗弁するが、くつがえらない。インストラクターは一時的なものだというが、前に同じ目にあった候補生たちはリモートコントロール局にまわされていた。
 一人焦燥を深めるコンドラチェフはガールフレンドとつきあったりするが、心はなぐさめられない。その間も有人宇宙探査のニュースが続き、候補生たちは新しい宇宙航行技術や相対時差のことを議論していた。
 最後に、コンドラチェフはあくまで前へ進む決心をする。
【雑記】
 作中で伝えられる宇宙探査の模様は、先行する作品『実習生』(未訳)などにつながるのだそうです。

PART TWO: HOMECOMING

3. Old-timer (時代遅れ)
【原題】
ПЕРЕСТАРОК (1961年版初出)
【物語】
 地球の交通管制士たちは、外宇宙から侵入してくる正体不明の宇宙船と連絡をとろうとやっきになっていた。入った通信はスラーヴィンと名乗る。宇宙船はずっと昔の型だった。最後に宇宙船は地上へ墜落する。スラーヴィンとコンドラチェフの帰還。
4. The Conspirators (陰謀屋たち)
【原題】 
ЗЛОУМЫШЛЕННИКИ (1962年版初出)
【物語】
 アニューディン Anyudin 校に名だたる18号室の少年たち四人−−“船長”ゲンカ・コモフ Genka Komov、ポル・グネティー Pol Gnedykh、アレクサンドル・“リン”・コスティリン Aleksandr Kostylin、ミハイル・“アトス”・シドロフ Mikhail Sidorov−−は、空想の宇宙船ギャラクティオン Galaktion を駆って銀河系間探検を夢見る子供たちだった。おりしも金星では惑星改造が進んでいた。少年たちは、学校から脱走して宇宙船に密航することを計画していた。
 彼らが慕う教師テニン Tenin は脱走を止めるために、策をめぐらす。それは隣人愛の話、そしてそれにそむく臆病者と嘘つきと弱いものいじめの存在をほのめかすことだった。四人は教師が名指した生徒への制裁に向かい、脱走の機会を失なう。その中で、少年たちの一部は、自分たちも同じ穴のむじなかもしれないことに気づいた。
【雑記】
 「友情についての物語」あたりをほうふつとさせる話。
 後の〈マクシム三部作〉でマクシムの上司などとして登場するゲンナージイ・コモフ、アトス・シードロフ初登場。
 この作品ですでに、英雄としてゴルボフスキーの名前が出てきます。惑星パンドラやドクター・ムボガの名前も。
5. Chronicle (年代記)
【原題】
ХРОНИКА (1961年版初出)
【物語】
 2021年に提出された無味乾燥なレポート−−外宇宙への遠征途上で行方不明になったタイミル Taimyr の調査結果。遠征の目的は、光の壁に近い速度を達成することだった。乗員は、コンドラチェフ、エウゲニー・マルコヴィチ・スラーヴィン Evgeny Markovich Slavin ら。
【雑記】
 1ページ強の幕間的原稿。
 1. に出てくる火星最初の子供の父親の名前はマルク・スラーヴィン Mark Slavin。
6. Two from the Taimyr (〈タイミル〉からきた二人)
【原題】
ДВОЕ С "ТАЙМЫРА" (1961年版初出)
【物語】
 病室のコンドラチェフ。エウゲニーがやってきて会話がはじまる。医師だったエウゲニーは職を変えるつもりだった。彼にとって、今の医師は魔法使いになっていた。
 時は2119年、だが人々は119年とだけ呼ぶ。エウゲニーが伝える現在の世界−−プテロカー pterocar [オーニソプターみたいなやつ?]、デリトリニテーション Deritrinitation 航法 [???]。コンドラチェフは物思いに沈む。
【雑記】
 『ラドガ壊滅』で説明なしに出てくる「D宇宙船」の意味はこれ。
7. The Moving Roads (自動路)
【原題】
САМОДВИЖУЩИЕСЯ ДОРОГИ (1961年版初出)
【物語】
 コンドラチェフは、エウゲニーと彼のガールフレンドである現代人のシェイラ Sheila のさそいを断って一人、都市へ散歩に出ていく。見知らぬ景色、見知らぬ人々、聞いたことのない言葉。
 そしてコンドラチェフは自動路へやってくる。この時代、無数の自動路が世界中にのびひろがり、都市や町を結んでいた。自動路に乗っていくコンドラチェフ。
 最後にコンドラチェフが出会った人々は、金星への出発に備えて待機していた。彼らと飲み交わして、コンドラチェフは人類の宇宙への拡大を思う。
【雑記】
 ところどころ、ストルガツキー版『星からの帰還』を思わせる描写。
 自動路は、ハインラインの「走れ、走路」"The Roads Must Roll" を連想しました。
 後期作品には出てこないようですが、『ラドガ壊滅』のゼロ物理学で実用化されたゼロ転送機にとってかわられたのでしょうか。
8. Cornucopia (豊饒の角)
【原題】
СКАТЕРТЬ-САМОБРАНКА (1961年版初出)
【物語】
 エウゲニーとシェイラの話。
 作家志望のエウゲニーは執筆と読書にいそしんでいた。尋ねてきた隣人で廃棄物処理技術者のユーリ Yurii をまじえての現代と過去談義。
 エウゲニーは、自宅で料理するために万能調理機UKM-207を注文する。翌朝に宅配で商品がやってきた。組み立ててみたら、まともな料理ができずてんやわんや。
 最後にユーリに助けを求めに行くが、彼は注文した万能洗濯機UWM-16相手に悪戦苦闘していた。機械のボタンの数で、実は商品がいれかわっていたことがわかる。
【雑記】
 昔のSF短篇らしい、ほのぼのした一篇。
 ロシア語の原題と英訳題はそれぞれの言語圏での伝承を反映したものになっていて、原題は、ロシア民話だったかにある、いくらでもごちそうが出てくる“魔法のテーブルクロス”とのこと。日本語にするとしたら何になるでしょう。
9. Homecoming (帰郷)
【原題】
ВОЗВРАЩЕНИЕ (1967年版初出?)
【物語】
 コンドラチェフは職が見つからずに帰宅した。この時代のどこにもよりどころのない彼は孤独の淵に沈んでいた。
 そこへ見知らぬ人物が訪ねてきて、レオニード・アンドレエーヴィチ・ゴルボフスキー Leonid Andreevich Gorbovsky と名乗る。彼は現役の宇宙探検者だった。話しこむ二人。ゴルボフスキーは宇宙探検の意義の四因子について語る−−惑星学、天体物理学、宇宙進化論、そしてゴルボフスキー自身の関心である異文明との接触。既に、異文明の遺跡として火星の地下都市、フォボスとデイモス、12パーセク彼方の恒星EN17の惑星ヴァディスラヴァ Vadislava の人工衛星が見つかっていた。
 もう一人の来客。ゴルボフスキーの知人で海洋学者のズウァントセフ Zvantsev。彼らは、金星への移民でますます人手不足になっている海洋牧場へ、コンドラチェフをスカウトに来たのだった。
 コンドラチェフは生きがいを見つける。
【雑記】
 生身のゴルボフスキー初登場。なかなか愛敬のある人物でした。座るより横になるのが好きだそうな。
 個人的には、ここで〈マクシム三部作〉までつながる設定が見えたことでわくわくしてしまいました。

PART THREE: THE PLANET WITH ALL THE CONVENIENCES

10. Languor of the Spirit (けだるい心)
【原題】
ТОМЛЕНИЕ ДУХА (1962年版初出)
【物語】
 “ポル”・グネディーは巡礼に扮して、徒歩で、大道路をはずれた奥地(?)のファームにいる旧友アレクサンドル・“リン”・コスティリンを訪れた。コスティリンは牛の治療と研究にいそしみ、結婚をひかえていた。思い出話にふけり、コモフやシドロフを思う二人。
 グネディーは滞在してファームや村を見て歩き、自分が仕事をしていないことに鬱々としながらも、いくつかの出会いの中で、2つ頭の牛を世話する娘イリーナ Irina を見初める。
 この時代、地球には、このようなファームが無数に存在し、食料資源を供給していた。
 グネディーはイリーナが極東へ行くと知り、追いかけることを決心するが、コスティリンにさとされる。
【雑記】
 なんというか淡々とした話。グネディーにひっかけた恋愛と人間論+食料生産の未来像として読みましたが、読解力不足の読み落としがあるような気がします。
11. The Assaultmen (降下隊員たち)
【原題】
ЛЕСАНТНИКИ (1961年版初出)
【物語】
 ゴルボフスキーとマルク・ファルケンシュタイン Mark Falkenstein は、教授アウグスト・ヨハン・バーデル August Johann Bader と衛星を調査していた。彼らは降下隊員であり、この称号は人跡未踏の世界を探査する者に冠されていた。
 衛星は恒星EN17の惑星ヴァディスラヴァをめぐっており、人工の産物で、今は無人になっていた。ゴルボフスキーはD船〈タリエリ号〉Tariel でやってきたのだった。ファルケンシュタイン以下の乗員は、生物学者のペルシー・ディクソン Percy Dickson、大気物理学者の早稲田龍(?) Ryu Waseda。ゴルボフスキーは搭載艇で惑星降下を計画していた。
 そこへ若い闖入者が現われ、生物学者のシドロフと名乗り、惑星降下への同乗を希望する。データ収集のためだったが、ゴルボフスキー以前の探査者にはかなえてもらえず、一年間足止めされていた。
 シドロフを含む三人での降下は墜落寸前になった。シドロフの機転で危地を脱し、シドロフも降下隊員の称号を頂戴する。
【雑記】
 異星探査の興味より人間関係の描写で読むような話、キャラクターノヴェルでした。後期で洗練されていった、登場人物の描写や会話で状況や世界を浮かびあがらせる技術がまだまだかも。
12. Deep Search (深探査)
【原題】
ГЛУБОКИЙ ПОИСК (1960) (1967年版初収録)
【物語】
 コンドラチェフは、一人乗りの潜水艇に海洋学訓練生のアキコ Akiko とベロフ Belov を乗せ、深海へ降りていった。彼らの眼前に広がる、さまざまな光景。
 深海で遭遇したのは大イカだった。深度の恐怖に耐えながら闘いをくりひろげ、生還する。
13. The Mystery of the Hind Leg (後脚の謎)
【原題】
ЗАГАДКА ЗАДНЕЙ НОГИ (1962年版初出)
【物語】
 エウゲニー・スラーヴィンはヨーロッパ情報センターの通信員としてオーストラリアへ来ていた。怪物機械の出現を目の当たりにした彼は、話し相手から原因だというCODDコンピュータのことを聞き、もともとの訪問予定先だったその研究所を訪ねる。CODD−−散乱データ収集器 Collector of Dispersed Data。
 訪ねた先では人々が後脚のことをわめきたて、それをおがむ宗教も発生していた。
 エウゲニーは管理代理のパヴェル・ルダック Pavel Rudak から説明を受ける。CODDとは、時の中で散乱した情報を集めて再構成する機械だった。これによって、今までに地球に起こったどんな出来事も再現することができる。しかしCODDは怪物機械や七本足の羊といったナンセンスなものを次々と作り出していた。
 エウゲニーは、CODDが再生したという太古の光景を見せられて驚嘆するが、その間も騒ぎは拡大していった。
 最後に真相が判明する。ルダックら若いプログラマたちのいたずらだった。
【雑記】
 ドタバタ・ナンセンスっぽい話。
 エウゲニーが食事にさそわれて「UKM-207ですか?」と聞くところが、8. をひきずっているようで笑いました。答えは「いえ、アメリカ製のがあります」。
14. Candles Before the Control Board (制御盤の前のろうそく)
【原題】
СВЕЧИ ПЕРЕД ПУЛЬТОМ (1961) (1962年版初収録)
【物語】
 夜、雨の中をズウァントセフとアキコの車が走っていく。彼らはある人物に会うために向かっていた。アキコは今ではコンドラチェフ夫人だった。向かう先は生物学コーディング研究所。だが彼らの車は停止させられ、動力を切るように言われる。
 研究所では、彼らが会わなければならない相手であるアカデミー会員オカダ Okada が死にゆくところだった。ズウァントセフは走って研究所へ向かう。オカダは、ヴァレリオ・カスパロ Valerio Casparo の実験によってその思考能力が結晶にコーディングされることになっていた。そのために周辺の電気活動は、気象制御も含めて止められていたのだ。
 たどりついたズウァントセフは、迷い歩き、広大なホールへ出る。そこではろうそくがともる中、人々が眠りこけ、処理状況が読み上げられていく幻想的な光景が展開されていた。
 何とかカスパロとオカダに会おうとするズウァントセフ。はたせず、処理は完了した。既に朝になっていた。世界は不死が実現されたことを知るだろう。
【雑記】
 幻想的なところが印象に残りました。オカダは回想以外会話にも登場せず、最後にズウァントセフが「人類でなく一人一人が不死になるのだ」とつぶやくところ、乗せてもらった車の運転手との「不死になりたいか?」会話など、かなり皮肉な話かも。
15. Natural Science in the Spirit World (霊魂世界の自然科学)
【原題】
ЕСТЕСТВОЗНАНИЕ В МИРЕ ДУХОВ (1962年版初出)
【物語】
 研究室助手のコーチン Kochin は超能力者のピーターズ Peters を起こしに行った。
 地球上のコトリン島の宇宙物理学研究所では、太陽系外での大規模実験で見つかった現象に関する研究が進められていた。それは隣接空間へのエネルギー漏出の可能性。検証方法の一つは、地球の核までうがたれた無雑音の大垂直洞に超能力者を入れて、耳をすましてもらうことだった。ピーターズはそんな超能力者の一人。一方で彼は、ボランティアで金星へ行って亡くなった息子のことをふり切れていなかった。
 検証はあいもかわらず続くが、成果はあがらないまま。
 関係者は中止論ももらすが、続行が決まる。ピーターズは思う、奇跡はいつだって起こるのだ。
【雑記】
 ラストは、失った息子をあきらめられないピーターズ、結果をあきらめられない科学者たち、双方の奇跡を期待する心が重ねあわされているようです。
16. Pilgrims and Wayfarers (さすらう者と旅する者)
【原題】
О СТРАНСТВУЮЩИХ И ПУТЕШЕСТВУЮЩИХ (1963) (1967年版初収録)
【物語】
 地球の湖畔で、研究のために新種のタコ、セプティポド septipod に標識を撃ちこんでいた私と娘のマーシャ Mashka は、一人の見知らぬ人物を迎えた。レオニード・アンドレエーヴィチ・ゴルボフスキー、宇宙考古学者だと名乗る。
 トンボの話から、彼は他の知的存在との接触について話す。他の知的存在ははたしてそれとわかる存在なのか? そして“無の声”。ずっと前から宇宙飛行士たちが探知していたが、一切が謎の信号。タリエリ号での航行中、ゴルボフスキーたち乗員と船は、体からこの信号を発するようになっていた。
 ゴルボフスキーは去り、マーシャは話に強い印象を受けるが、セプティポドの追跡に戻っていく私には意味のないことだった。
【邦訳】
  • 西本 昭治 訳「さすらいの旅をつづける者たちについて」(ハヤカワSFシリーズ『竜座の暗黒星(現代ソビエトSF短篇集2)』早川書房 (1967) 所収)
  • 宮沢 俊一 訳「さまよう者と旅する者」(現代ソビエトSFシリーズ3『反世界の島』プログレス出版所 (1973) 所収)
17. The Planet with All the Conveniences (よくできた惑星)
【原題】
БЛАГОУСТРОЕННАЯ ПЛАНЕТА (1961) (1961年版初収録)
【物語】
 早稲田龍は探検家ゲンナージイ・コモフを迎えた。所は惑星レオニダ Leonida。コモフの一行は、ボリス・フォキン Boris Fokin、タチヤナ・パレイ Tatyana Palei、ムボガ Mboga。
 ここには都市らしいものがあったが、住民は見つからず、着陸地には植物が生い茂り、鳥や河馬が観察されていた。
 やがて、探検隊員たちの持ち物がなくなる事件が起きる。警戒をはじめた一行は、怪しい影と出くわして大捕物を展開するが、逃げられてしまった。そして、紛失した持ち物が並べて置かれているのが見つかる。
 盗まれたものが返されたことに知的活動を察知したコモフは、侵入してしまったことに狼狽し、大急ぎで撤収を指示する。
 彼らが出会ったのは、機械などの人工物を一切使わない生物文明だったらしい。
 最後まで接触できなかったことを惜しみながら、彼らは宇宙船へひきあげていった。
【雑記】
 邦訳のプログレス版では、「早稲田龍」が中国風の名前「劉」になっています。あと、本作のレオニダは、後期作品のレオニード星とたぶん同じ。
【邦訳】
  • (訳者不明)「よくできた惑星」(現代ソビエトSFシリーズ2『よくできた惑星』プログレス出版所 (1968) 所収)

PART FOUR: WHAT YOU WILL BE LIKE

18. Defeat (敗北)
【原題】
ПОРАЖЕНИЕ (1960) (1967年版初収録)
【物語】
 シドロフは宇宙の任務を希望していたが、命じられたのは北クリル列島のシュムシュ島だった。目的は〈卵〉の実験。部下は、料理技術者のクズマ・ソロチンスキー Kuzma Sorochinsky、シドロフと同じ降下隊員の生物学者ヴィクトル・ガリツェフ Viktor Galtsev の2人。卵は、地球外の環境で自己展開し、地球人が生活可能な環境を生産するシステムだった。
 実験場所へ着く寸前に、輸送のプテロカーが事故をおこす。シドロフはひどい怪我を負うが、実験を強行する。
 監視の待ち時間に、シドロフは部下の話を漏れ聞く。いわく、卵が実用化されれば降下隊員は不要になるだろう。
 卵は順調に成長するが、200年前の日本軍の弾薬に接触して爆発する。
 負傷したシドロフは、宇宙で青空に焦がれたことを思い、信念を新たにする。降下隊員にとって敗北とはのりこえるものなのだと。
【雑記】
 邦訳がある「アライドの白い柱」(山田 忠 訳、SFマガジン1971年3月通巻144号 所収)とほとんど同じ。一部、登場人物の名前や描写が修正されているだけです。もともとの内容は年代記に整合させる必要があるようなものではなく、流用したという印象です。
19. The Meeting (面会)
【原題】
СВИДАНИЕ (1961年版初出)
【物語】
 “リン”・コスティリンは一人の老〈ハンター〉を歓迎していた。ひとしきり世間話に花を咲かせた後、“ポル”と呼ばれたハンターは別の所でおちあうことを約束して出ていく。
 ハンターが向かったのは地球外生物博物館。ここには火星で絶滅した空飛ぶヒルをはじめ、遠い天体から運ばれてきたハンターたちの獲物が展示されていた。ポル・グネディー自身の獲物も。それらが展示されている館へ向かうにつれて、いつものようにポルの疑問と苦痛は増していく。
 それは面会の目的である、展示物の“三つ指”に関わっていた。赤色矮星EN92の惑星クローケス Crookes でポルがしとめた、顔は眼だけで手足をもった生物。ポル以前も以後も、その惑星で同じような高等生物は知られていなかった。加えて、撃った時の不自然な状況。
 撃ち殺したのは、異文明の宇宙飛行士だったのか?
 問い詰めるポルに、生物の展示を準備したリンは動物だったと否定していた。
 だがリンも真相を知っていたのだった。
【雑記】
 読み慣れてきたからかもしれませんが、じわじわ高まっていく緊張感が見事でした。単独で訳出しても結構読めるのではないでしょうか。
20. What You Will Be Like (あなたたちがそうなるもの)
【原題】
КАКИМИ ВЫ БУДЕТЕ (1961年版初出)
【物語】
 コンドラチェフは潜水艇を浜につけた。続いてスラーヴィンとゴルボフスキーが降り立つ。彼らは地球上の大洋のとある島へ来ていた。自分たちが生きている時代のすばらしさを再確認し、軽口をたたきあいながら魚料理としゃれこむ三人。
 料理に舌つづみをうつゴルボフスキーは、初めての異文明であるタゴーラ Tagora へ発つ予定だった。
 そしてゴルボフスキーは、(またしても−−16. 参照)宇宙で出会った不思議な経験について語る。
 ゴルボフスキーの〈タリエリ号〉が星間宇宙で立往生した時の話。近くに居住天体も他の宇宙船もなく運命を待つばかりとなった〈タリエリ号〉に、ペトル・ペトロヴィチ Petr Petrovich と名乗る不思議な人物が現われる。彼は素手で乗員の怪我を治し、船の故障も直してしまった。遠い子孫で、他の仲間たちもペトロヴィチのように過去の歴史に関わったという。
 ペトロヴィチが残したという言葉に、三人は未来へ思いをはせる。
【雑記】
 明るい展望のエンディング。 およそ20年後に書かれ、年代記をしめくくることになる『波が風を消す』のラストとは対照的です。

原書情報

ソ連およびロシアの原書では、数回改訂版が出ている由。
ПОЛДЕНЬ, XXII ВЕК (真昼、22世紀) (1961)
 初出。雑誌掲載?の連作集として発表された。10篇収録。
 収録順に 3. 5. 6. 7. 8., ИЗВЕСТНЫЕ ЛЮДИ, 11. 19. 17. 20.
ВОЗВРАЩЕНИЕ (ПОЛДЕНЬ, XXII ВЕК) (帰郷(真昼、22世紀)) (1962)
 単行本、16篇収録。
 収録順に 3. 4. 5. 6. 7. 8., ПАЦИЕНТЫ ДОКТОРА ПРОТОСА, 10. 11., ЛЮДИ, ЛЮДИ..., МОБИ ДИК, 14. 13. 15. 17. 20.
ПОЛДЕНЬ, XXII ВЕК (ВОЗВРАЩЕНИЕ) (真昼、22世紀(帰郷)) (1967)
 20篇収録。収録作品の題名や配列が同じことから推して、これが英訳版の原書。
 1967年版から ПАЦИЕНТЫ ДОКТОРА ПРОТОСА, ЛЮДИ, ЛЮДИ..., МОБИ ДИК の3篇が削られ、新作などが追加されたもよう。削られた3篇は改題されたのかもしれない。
ПОЛДЕНЬ, XXII ВЕК; МАЛЫШ (真昼、22世紀&こびと) (1975)
 邦訳がある中篇『リットル・マン』との合本。
 書誌によると、1967年版から 8. が削られて19篇になっているようだ。
ПОЛДЕНЬ, XXII ВЕК; ДАЛЕКАЯ РАДУГА (真昼、22世紀&遠いラドガ) (1992)
 邦訳がある長篇『ラドガ壊滅』ДАЛЕКАЯ РАДУГА (1963) との合本。
 書誌によると、1975年版から 8. が復活している。
ВОЗВРАЩЕНИЕ. ПОЛДЕНЬ, XXII ВЕК; ПОПЫТКА К БЕГСТВУ (帰郷−−真昼、22世紀&脱走の試み) (1992)
 未訳の中篇 ПОПЫТКА К БЕГСТВУ (脱走の試み) (1962) との合本。『脱走の試み』は、『神様はつらい』の前駆として紹介されてきている作品。

参考資料

インターネット

「ストルガツキー兄弟作品リスト」http://www.bekkoame.ne.jp/‾theads/th/author/strlist.html
 1997年現在も〈トーキングヘッズ叢書〉を刊行しているトーキングヘッズ http://www.bekkoame.ne.jp/‾theads/ のサイトにあり。同叢書の第1巻『ストルガツキー兄弟特集』(1992) に収録された書誌の再録。邦訳も記録し、収録期間は1958〜1988年。
ボリス・ストルガツキーの講演「未来の歴史」の骨子 http://www.asahi-net.or.jp/‾YX6N-OON/ctp.html#future
 「A&Bストルガツキーのページ」 http://www.asahi-net.or.jp/‾YX6N-OON/ctp.html に掲載。
Фантастм братья Стругацкие http://www.sf.amc.ru/abs/ または http://kulichki.rambler.ru/sf/abs/ または http://sf.convex.ru/abs/
 本家、ロシアのファンサイト。 ソ連およびロシアにおけるストルガツキー書誌や、未来年代記の詳細な解説である「22世紀年代記」(ロシア語版は http://www.sf.amc.ru/abs/22_0.htm、英訳版は http://www.sf.amc.ru/abs/english/e-22-0.htm)など、豊富な資料が収録されている。

印刷物

Stephen W. Potts: The Second Marxian Invasion: the Fiction of the Strugatsky Brothers (1991) The Borgo Press (The Milford series, popular writers of today, vol.50)
 各作品の位置づけと英訳の書誌が参考になりました。 作品のレビューに、『風が波を消す』の英訳 The Time Wanderers だけ入っていないのが残念。
『ストルガツキー兄弟』(トーキングヘッズ叢書第1巻) 1992年5月20日 トーキングヘッズ編集室発行 ISBN 4-915125-62-9
 
大野 典宏, 大山 博「ファンタスティカ作家会議〈ストラーニク〉レポート」(SFマガジン1997年2月通巻488号)
 記事中で、他作家による作品集『ストルガツキー兄弟の世界』の紹介。ここから私のストルガツキー再読がはじまったのでありました。
"2nd Annual Russian SF Writers Congress" & Interview with Boris Strugatsky "Nothing to Hide" (Locus #443, Vol.39 No.6, Dec 1997)
 
天野 護堂「戦後のロシア・ソヴィエトSF翻訳事情」(SFマガジン1998年8月通巻506号特集《ロシアSFの現在》所収)
 作家名鑑。ストルガツキー兄弟の項で、未来年代記の紹介あり。

野村 真人 <CI5M-NMR@asahi-net.or.jp>

1998年4月作成、1999年1月更新