DusseldorfからKrefeldへ - ライン川を巡るサイクルツーリング  (2007/2/4)


好天に誘われて遅めの朝飯をとってから走りに出る。

今日はライン川をデュッセルドルフから下流に行ってみようと思う。下流のDuisburgに行くか、Krefeldに行くか迷ったが手持ちのBike Karten(自転車地図)はKrefeldまでしかカバーしていないのでKrefeldとしよう。Krefeldはレール幅1000mmという狭軌の路面電車が走っており、また市の中心部には標準軌の路面電車もあり両者のレールが二重に重なっている箇所があり、それをもう一度見たいという思いもあった。

家からはいつものポタリングコースでライン川の土手を走る。風は冷たいものの日差しも明るくとても2月とは思えない好天のせいかい森を往く人々も今日は多い。今年はこのまま春を迎えるのだろうか。再来週の週末はもう”Rosen Montag”でこのノルトライン・ヴェストファーレン州地区もこの陽気な馬鹿騒ぎのお祭りの日を境に暗い冬を過ごしてきた人々の心にも急速に春の明るさがやってくるというものだが、もう今年はそれを待つまでもないような、春がすぐそこまで来ているような雰囲気が森の木々から、そこを歩く人々の明るい表情から見て取れる。こんなに暖かい冬は観測史上はじめてだという。

Kaisers Werthへのライン川の渡し舟の船着場を過ぎるとここから北上するのは初めてのコースだ。地図を見て車道の1本手前に自転車道があることがわかる。そこに入るとのんびりとした石畳の道となった。

(ライン川をはさみDuisburg方面。
煙を上げる重工業地帯は今でも
ドイツの心臓部なのだろう)
(クレフェルト中央駅に到着。
小さな街でこの駅の時計塔は
立派なランドマークだ)

石畳は雰囲気は良いが自転車には結構堪える。とくに700x28Cタイヤを高圧にしているせいか振動がダイレクトに手足に来る。バーテープもクッション性皆無の綿バーテープにニス仕上げという”格好重視仕様”としていることもあるだろう。幸いに石畳はすぐにおわりつぎはぎの多い舗装道となった。民家はとぎれ左右共に広々とした畑の中を走る。堆肥のにおいが風に乗ってくる。馬糞が小山のように盛り上がって落ちているので避けて走るのに気をつかう。あれだけ大きな体なのだから排泄もダイナミックなのだろうが草食のせいか糞は見た目はただの盛り土と変わらない。風化して土に帰るのもあっという間だろう。

Nierstという集落。向かいから走ってきた小さな自転車に乗った幼稚園児位の女の子がすれ違いざまに「Hallo!」と声をかけてくれる。こちらも「Guten Tag! 」と返す。東洋人が珍しく話しかけてきたのだろうか。

集落をあっと言う間に抜けるとKrefelへ、と行き先を示すサイクリングコースの標識に従ってクランクのように道を曲がり再び堆肥の臭いで鼻が曲がりそうな畑の中の道を行く。左右ぐるりと地平線が自分を取り囲む。自転車をこいでも余り風景に変化が無い。こういう風景は自分が日本で住んでいた神奈川県ではお目にかかる事は出来ない。

農地を抜けると風景が荒涼としてきた。工業地帯に入ったようだ。古タイヤ処理場、リサイクル工場などの横を走る道だ。土手からライン川をはさむと鉄鋼工場だろうかひとしきり煙を上げる工場を遠望する。あのあたりは丁度Duisburgだろう。Duisburg、Essen、Dordmund。戦後の西ドイツの経済復興の原動力となたルール工業地帯の中心部でもあり、重化学工業への依存が少なくなった今でもドイツの重要な産業中心地であることには変わらない。今でも幾多の工場の固まる地区で、のんびりとした牧草地や畑、点在する森といったライン川沿いの典型的な風景とひどくミスマッチでもあるがこれもドイツなのだ。

廃工場のような古めかしい建物を通り抜けこれまた時代がかった鉄橋で運河を越えるとがらんとした空き地に路面電車の終点駅がありKrefeldの街の外れに差し掛かったようだ。

地図上で今の場所を確認して路面電車に沿って走る。今日は日曜日ということもあり街はひと気もなくひっそりとしている。ドイツの日曜日、休日は商店が一斉に休みということもあり人々はショッピングにでかけることもなく家や森でゆっくりと家族と過ごすというのがドイツ人の典型的な過ごし方であり、キリスト教の安息日という概念のない自分たち日本人にはピンと来なかったが、今となっては日曜日の時間のすごし方はなかなか贅沢にも思えるようになってしまった。やや不便であるという思いは消えないものの。

車も稀な道を快走する。カチャッ、カチャッという規則的なメカニカルノイズがどこからか聞こえてくるが何処だろう。リアの変速機か、フロントの変速機か。新車のこの「ライン号」もそろそろ走行距離が100Km を越えた頃なのでネジ類の緩みも出てくる頃かもしれない。

DBの陸橋をくぐると路面電車も車道を離れ専用軌道となった。それに沿った遊歩道のような道をゆっくりと流す。Oppumという地区であることのだいたいの想像がついたがいまひとつ確信がもてなくなった。念のために道を歩いていた住人に聞いてみよう。5,6歳の子供の手を引いたお母さんだ。

「Entschuldigung! Wo ist zentrum?」 (すみません、セントラル(市の中心)は何処ですが?)

「△●☆□×△●☆□×△●☆□×」

・・・・ (アーやっぱりわからないや)、「Bahnhof, Wo ist Hauptbahnhof?」 (駅、中央駅は何処ですか)」

「△●☆□×△●☆□×△●☆□×Ampel△●☆□×△●☆□×△●☆□×」

・・・(Ampel ?って言ったよな。Ampel、あぁ信号か。)

と思うと小母さんは手振りでこの道の先のAmpelを左に行け、と身振りで示してくれる。なぁるほどわかたっぞ。この先の信号を左か。

「Vielen Dank ! Auf Wiedersehen!」

すぐに太い道にでてしばらく走るとZentrumを示す看板があり、同時にZooはあちら、と書かれた標識もあった。動物園を地図上にみつけるとどうやら駅までは一本道のようだ。

謎が解けた今となっては淡々と走るだけだ。市街地らしくなった光景の行く手に大きな尖塔が見えた。あの塔がKrefeld Hauptbahnhof(クレフェルト中央駅)だろう。

Krefeld中央駅はこんな小都市にしてはなかなかの立派な駅で駅前にはトラムが行きかう。見たかった狭軌の路面電車と標準軌の路面電車のクロスオーバーする箇所を写真に収める。日本の箱根登山鉄道の小田原ー湯本間などでも狭軌と標準軌がクロスオーバーしていながらも片側のレールを共有しているが、ここは四本のレールが重なっている。こんな線路は初めて見た。関心のない人には何の面白みもない風景だがとてもわくわくしてしまう。

駅前のマクドナルドに入りコーヒーを飲みながら此処からデュッセルドルフへの復路を考える。もう時計も2時が近く、家に戻ってから家族とともに遅めの昼食を摂る事を考えると行きのようなポタリング的なコース取りは出来ないだろう。以前車で走ったことのある中央駅から真っ直ぐに南下する最短距離で行くことにする。幹線路だが途中はのんびりとした畑の中を行く道だったと記憶する。

帰路はあっけなかった。Krefeldの街は10分も走ると出てしまい畑の中だ。太陽が心地よくさしておりドイツの冬とは思えない。足任せに漕いでいくとMeerbuschの町外れまで来てしまった。ここはいつものポタリングコースだった。勝手知るライン川の森を抜けて自宅までゆっくりと戻る。今日は2月とは思えない好天で森を往くドイツ人も朝よりも多いようだ。陽光を浴びるライン川の波頭を左手に見ながら自宅に戻った。

走行距離は45Km。今日も地元の人とカタコトでも接することが出来た。愛車「ライン号」も好調。満足で何もいう事の無い日曜日だった。


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