高柄山から鶴島御前山へ−地味な前道志の低山歩き

(1999/2/12、山梨県南都留郡・北都留郡)


地味でこれといった特徴も無いながら何故か気になる山、というのが誰しも幾つかあるのではないだろうか?地味であるからしてもちろん標高も展望も冴えない。なのに何故か気にかかりふと一日思い立って歩きたい山・・。低山でももっと有名な山はゴロゴロしているのに、なんでこんな山?である。前道志の高柄山・733mはここ数年来私の中でまさにそんな山であった。又近くにその縦走路を少し外れて鶴島御前山というのもある。こちらは500mにも足らない。いかにも地味そうだ・・。何故こんな地味そうな山々が気になるのだろう、理由は分らないがいつも気になっている・・。だいたい道志自体が地味で渋い山域なのだ。そんな中標高1000mにも満たない山など・・。そんな訳で結局は毎回もっと有名な山に登る事になってしまい何時までも経っても心の中にポツンと残っている感じ・・・。

関東平野に雪をもたらした低気圧が東へ去って二日目。雪の感触を楽しみたくて山の準備をする。行き先はそれなりの積雪が期待出来そうな奥武蔵の棒の折山から奥多摩の高水山へ抜けてみようか。どちらも有名低山、人気のハイキングコースである。奥武蔵から奥多摩へ抜ける、というのも面白い。八高線のダイヤを調べ早朝の横浜線に揺られる。八王子近くなって雪の覆われた丹沢や道志の山の眺めも見える。

とここで何故かココロの中から小さな声が聞こえてきた。

「キョウコソタカツカヤマヘイキマショウヨ・・。コチラニモユキハタップリアリマスヨ・・」
「ええっ、高柄山だって!?今日は眺めも良くて、もっと有名な山へ・・。」
「コッチモイイデスヨ。シズケサハホショウシマスヨ・・」

八王子駅で気がついたら八高線ではなく中央線のホームに立っている自分。どうしたもんか・・。幸い地図はザックに忍ばせてきたが。えいいいや、いい機会。そこまで言うのであれば高柄山、行ってみましょう、登ってみましょう、気になる山へ・・。

* * * *
(雪に埋まった荒れた沢筋をつめる。
導くように点々と前方へ続く小さな
足跡はキツネだろうか。シーンとして
誰もいない)

JR四方津駅で下車し千足集落を目指す。ややこしい里道から桂川を吊り橋で渡り沢沿いの薄暗い車道を進む。北斜面を進むので雪は山肌にべっとりついており車道は凍っていそうでゆっくり歩く。車一台通らない。体が温まる頃Y字路となり左へ進む。狭い地形に数軒の家が並ぶ。千足の集落だ。集落をつめると舗装路に雪が残りはじめる。ガリガリと固まった雪を踏みながら進むと林道が終り「高柄山・大地峠へ」の看板がある。が、なぜか「危険・通行止め」と上からビニールテープでバッテンがしてある。

ここまできて戻るのは嫌だなぁ、なんとか行ってみよう。

先を進む。踏み跡はなく薄暗く荒れた沢沿いの道は嫌な感じだ。勘をきかせつつ適当に目鼻をつけながらつめていく。ザッザッと雪を踏む音がする。足音以外はシーンとして誰もいない。不安だなぁ、これでいいのかなぁ。暫く進むと道標がありホッとする。道標に従い沢を渡りかえし今度は枝沢をつめていく。V字型の谷間で雪が吹きだまりのようになっておりスパッツをつける。足跡は皆無だ。

去年の今ごろ、ちょうど同じく道志の秋山二十六夜山で積雪の沢筋で道が分からなくなって戻った事がある。それと似たような地形でイヤな思い出がよみがえる。地形図を見る。道はこの辺で沢から尾根に転ずるはずだ。とにかく行ってみよう。キツネか何かの小動物の足跡が点々と行く手についておりまるで導いてくれているようだ。南南東に進めばいいはずだ。ゴロゴロする大石を越え柔らかい積雪を進むと前方に尾根の取り付き点が見えた。うっすらと道形も残っている。シメタ。あれだ。

尾根にのってからはつづら折れが続き明瞭な道となる。あとは登るだけだ。ホーッと緊張感が解ける。高度はもうすでに海抜500mをまわっている。道は薄暗い檜の植林帯だが淡々と進めば木々の向こうに青い空がちらほらしてくる。稜線近く、風がザーッと吹いてくる。と木々についた氷片が一斉に飛ばされる。それらがきらきらと逆光の中に光った。素晴らしい風と光の饗宴・・。

舞い踊る氷のかけらの中を一登りすると稜線に出た。尾根道は日のあたる箇所は地肌が出ている。どういう訳か自分の上がってきたコースには木でバッテンがしてあり尾根道からは入れないようになっている。登り口と同様である。が、実際登ってきたところ雪のために一部わかりずらかったが無雪期なら特にどうってこともないだろう。それに道形も悪くない。何故通行禁止にしているのだろう・・。

アップダウンの稜線を進む。いくつか似たようなコブを過ぎて檜林の中、雪をザクザク踏みながらやや巻くように登っていくと傾斜がゆるみ高柄山山頂に飛び出した。日当たりの良さそうな南側は雪は斑ら模様だが北側の祠は雪に埋まっていた。見慣れた山梨百名山の標識がここにも真新しく立っている。北面は檜の人工林だがそれ以外は雑木でいかにも地味な低山、といった感じだ。シーンとして誰も来ない。嬉しいなぁ・・、これがあの気になる山のピークなのだ・・。登ってしまえばあっけないが気になっていた分やはり嬉しい。

蛭ケ岳から檜洞丸そして大室山へ、と丹沢の主稜にタップリと雪がつきすごい迫力で立っているのに目が奪われる。アマチュア無線運用をし終えた時点で急に7、8人のパーティがやってきて静けさが破られる。昼食をとって山頂を後にした。

やや進んだ稜線から先はふたたび積雪が続く。雪の感触が思いっきり気持ち良い。ここから鶴島までの行程はゴルフ場建設のため道がつけ変わっておりアップダウンの多いハードな行程と聞いていたが・・。果たして新矢根峠までは快適な稜線歩きだが、その先からは右手からゴルフ場の境界線フェンスが現れ、それにつれ道は小ピークを含みながら下がっていく。標高約500mの新矢ノ根峠からぐんぐん下りてゆく。尾根筋から谷筋に転じ複雑な谷をまわっていく。とここで沢の源流。標高は350mだから約150m下りた事になる。源頭部を横切ってからは一転急登が始まる。100m近く登らされる。これが又短いつづら折れの急坂だ。確かにこのプロセス、山が小さい分だけかなりのものに感じられる・・。ホウホウの態でピークに登りつくと前方に鶴島御前山が大きい。

鶴島御前山は縦走路からやや離れて立っており、地形図にも道の表示が無い。果たして縦走路から少し外れて登れるものだろうか・・。登れたらいいなぁ、とは思っていたが。鞍部に下りると尾根通しで道らしきものがある。目指すピークは目の前でこれを強引にでも進めば登れそうだ・・。

不明瞭な道だ。これまた短いながらも猛烈な直登。道にかかる枯れ枝がうるさい。がものの10分も進めば無事鶴島御前山山頂に到着。静かでやや荒れた山頂からは眼下に上野原の集落が平和な眺めで広がった。数センチの積雪の小さな広場に木のヤグラが組んである。地形図に道の無い山だったが実際には問題無く来れた。来てよかったなぁ・・こんな山、何かのついででもない限りまず来る事はないだろう。

もっぱらこの山は麓の鶴島集落から往復で登られるようだ。下山路ははっきりしているがこれ又補助用のロープがビシバシかかるつんのめりそうな急坂だ。そこに雪が被っているのだから厄介この上ない。ずるずると滑り下りるるように進む事20分。林道に出て無事鶴島集落へ。

のんびりと上野原駅まで歩く。地味ながら雪がかかり少しだけ男前を上げた高柄山から、更に地味で全くスキモノ位しか訪れそうに無い鶴島御前山まで、こんないぶし銀のような山々に想いを馳せてる人もそうは居ないだろうが、無事に歩ききった事を満足。これといった理由も無くふらっと行き先を変えた山行は今回が初めてだった。

* * * *

缶ビール片手に揺られる中央線。とここで再びココロの中から小さな声が・・。

「キョウハドウモアリガトウ。イキサキヲカエテセイカイダッタデショ?」
「うーん、地味で渋くて、でも静かでよかったよ」
「ソレハヨカッタ。シズケサガトリエナンデスヨ」
「でも困っちゃたな・・。」
「エッ・・?」
「今度は又新しく”気になる山”を見つけなくっちゃ。」
「・・・」

(終り)


(コースと標高:JR四方津駅7:40−千足集落8:30−千足峠9:40/9:50−高柄山10:10/13:10−新矢ノ根峠13:50−鶴島御前山14:45/15:25−鶴島集落15:45−JR上野原駅16:10、高柄山733m、鶴島御前山484m)


アマチュア無線運用の記録
高柄山
 
(山梨県南都留郡秋山村、733m)
運用バンド:50MHzSSB、22局交信
最長距離交信:茨城県東茨城郡、JQ1JNY
無線機:自作4WSSB機(アイテック電子TRX602ベース)
アンテナ:釣竿ヘンテナ
山頂は北西を植林帯に覆われているが他は展望が開けている。標高はこのあたりでは低い方なので電波の飛びは余り良くなさそうだ。

たまたま今回は約2時間の運用で22局も交信出来て嬉しいというよりビックリしてしまった。やはり2月のこの季節では50MHzでの移動局は少ないせいかもしれない。
鶴島御前山

(山梨県北都留郡上野原町、484m)
運用バンド:430MHzFM、2局交信
無線機:STANDARAD C710(1W)、付属ホイップ
高柄山−上野原間の縦走路から北にわずかにそれているためにあまり縦走で来る人は居なさそうなピーク。実際には高柄山から来て直前のピークを急降下した鞍部から登りかえしの道があり縦走が可能だった。

小さな三角やぐらのたつ山頂からは眼下の上野原の町並みが一望出来る。

Copyright : 7M3LKF,Y.Zushi 1999/2/16