春の訪れ、高水三山

(1999/2/28、東京都青梅市)


先週一週間は出張でずっと家を離れていた事もあり疲れがたまっていたのだろうか、朝5時半にセットしていた目覚しを止めはしたが体が思うように動かず布団の中でぐずぐずする。ああ疲れたなぁ、今日はのんびりしたい。布団から顔を出し外を見ると抜けるような青空が広がっており今日は予報通り素晴らしい好天のようだ。うーん、これで行かなかったら後悔するだろうなぁ・・。やっぱり行くか。でも布団ってなんて気持ちがいいのだろう。この温さ。布団にくるまったまま山へ行けたら・・。でも現実は甘くない。いやいや体を起す。半ば義務感のようなものでもある。最近気合が足りないのかこんなパターンが多い。結局家を出たのは朝7時半だった。

予定していた山梨・北都留郡の権現山はこの時間からだとキツイ。結局急遽短時間ですむ奥多摩は高水三山に行先を変更して南武線から青梅線をのりついだ。このフレキシビリティ、というかいい加減さは独り歩きの良い点だろう。

高水三山は奥多摩ハイキングの入門書。三山を通して歩いても約4時間という短コースでファミリー向けとある。こういうやや消耗した週末には気分転換にもなりもってこいなコースだろう。出発が遅かったのでもう山姿の人など居るまいと思っていた青梅線には意に反してハイカーが沢山乗っている。のんびり屋は私だけではないようだ。

軍畑駅でおり高水山を目指す。しばらくはのんきな里道歩きでふりそそぐ日差となによりもカドのとれた柔らかな空気の感触がまったくもう春そのものだ。野良仕事と野焼きの煙をぬって進む。どの集落もたいがいそうだが集落には必ず小さな社があり、年期の入ったそれでいて小さく可愛い赤い鳥居は集落の人と山の神を結ぶ素朴な信仰心の証のようにも思える。
(高水山山頂
直下の常福院。
射し込む光は
もう春の気配だ)

水の無いやたら立派な砂防ダムの脇から登山道がはじまっていた。わずかに沢をつめるとすぐに山肌に取付いてジグザグに登っていく。杉の植林帯はひんやりとした独特の雰囲気がある。尾根に乗りなだらかな道を進むと上成木からの道を併せすぐに常福院だ。山門のすぐ下まで林道が通じているのが見えた。文政5年(1822年)再建立という本堂は立派で、車道もなかった昔には建築も容易ではなかっただろう・・。

お参りを済ませ裏手をわずかに登ると高水三山の最初のピーク、高水山だった。無線の中継塔の様なものがあるのは興醒めだが関東平野の展望が素晴らしい。日だまりの中皆思い思いに休んでいる。若い女の子が二人、オカリナを吹いている。微笑ましい気分だ。すっかり春のこんな素晴らしい展望の山では皆心が子供に戻ってしまうに違いない。笑い声の絶えない山頂。こののんびり気分は老若男女訪れる低山ならではの雰囲気だろう。ここでアマチュア無線タイム。と言っても本格的に運用するのは隣の岩茸石山からとして、ここは簡単にハンディ機を取出して1200MHz運用。CQを出すとすぐに聞きなれた声が帰ってきた。ローカルのJK1NLO/1・桑名さんだった。丁度ワッチを始めたというところで一発で呼んでくれるとは素晴らしいタイミング。久々の交信は嬉しくてのんびり話込む。交信を終えると次の岩茸石山へと先を急いだ。
(冬の名残がかすかに
残る道。樹林ごしに
岩茸石山の山頂が近い)

数十メートル高度を下げると再び平坦な道で日陰にはわずかながら凍り付いた雪が残っている。そうか、こんな山にも冬が訪れていたんだな・・。雑木林のなか高度を稼げばすぐに岩茸石山のピークだ。標高793mは三山の中では最高峰で、木もまばらな山頂からの展望は素晴らしかった。地平線がほぼ180度に広がっておりその中間点に望見できるのは新宿の高層ビル群だ。関東平野がいかに広いかはこういう山に来れば実感できる。後半180度の視野には奥多摩から奥武蔵の山が重厚に重なり合う。大岳山・御前山など登った事のある山を懐かしく眺める。

のんびりとアマチュア無線・50MHzの運用。お馴染み各局にもつながる。JK1RGA・河野さんは山梨・南都留郡の赤鞍ケ岳からでまだ積雪が15cm程度あるという。JG1OPH・奥積さんはJS3IAQ・中川さんとともに神奈川・高座郡の相模川の土手からでIAQ局自作のアンテナの試運転だった。素晴らしい展望の割には交信の方はパッとせず10局わずか交信で終える。出発が遅かったこともありあれほど人が居た山頂ももうしーんとして誰もいない。ゆっくりコーヒを入れ眺めを味わいながら一息いれる。今、自分の山行では山歩きとアマチュア無線運用は切っても切れないものになっているが、こうして改めて考えてみるとこのゆったりとした開放感こそが自分にとっての山歩きをしている大きな理由なのではないか、そんな気がする。

三山の最後のピーク、惣岳山へは薄暗い植林帯の中を進む。日がかなり傾いたのか時折斜光が射し込む。山頂は植林で面白味無く寒々とした感じで、430MHzで知合い一局と交信しただけで下山の途に着く。杉の植林帯の中をたんたんと高度を下げ丁度一時間で青梅線の御嶽駅のすぐ裏手に飛出した。

朝、少し無理をしたけどやはり来てよかったなぁ。山自体は植林帯中心であまりぱっとしなかったけど、なによりも一足早く春を感じたし、それを味わう人々の喜びの様も嬉しい光景だった。それにこの適当な疲労感がまさに気分転換といった感じで心地よい。次は何処へいこうかなぁ。そんな幸福な余韻にひたりながら青梅線に揺られた。


(終り)

(コースと標高:軍畑山10:00−車道終点10:35−常福院11:25−高水山・アマチュア無線11:30/11:50−岩茸石山・アマチュア無線12:30/14:20−惣岳山・アマチュア無線14:55/15:05−御嶽駅16:00、高水山759m、岩茸石山793m、惣岳山756m)


アマチュア無線運用の記録
高水山 (東京都青梅市、759m) 1200MHzFM運用、STANDARD C710+ホイップ
1局交信、JK1NLO/1横浜市南区
山頂は電波中継塔のような施設がありやや興ざめ。見晴らしは素晴らしい。
岩茸石山 (東京都青梅市、793m) 50MHzSSB運用、自作4W機+ヘンテナ
12局交信 最長距離交信:埼玉県北足立郡JA1FMU
高水三山の中では最も標高があり眺めも180度地平線が眺められ素晴らしい。当然アマチュア無線にも良いロケなのか、430MHzFMをやっている先客(7M2MZO局)と鉢合わせる。

雑木林の山頂は植林帯中心の低山としてはホッとする気分だ。
惣岳山 (東京都青梅市、756m) 430MHzFM運用、STANDARD C710+ホイップ
1局交信、7N2TTE/1横浜市栄区
前の2山とは雰囲気が異なり山頂は杉林の中で薄暗く、真ん中にお社がある。無線のロケとしては前の2山とさして変わらないと思われる。

陰気な感じの山頂で出来れば長居はしたくない。

Copyright:7M3LKF Y.Zushi, 1999/3/6