梅雨明け一番、浅間隠山

 (群馬県吾妻郡長野原町、1999/7/25)


浅間隠山は前々から気になっていたのだが、歩行行程も短く如何にも簡単に登れそうな印象があり、わざわざ横浜からそれのためだけに群馬県まで足を延ばすのはどうか、と思っていた。なにかのついでに登ればいいか、そんな感じであった。

待望の梅雨明けが宣言され、本格的な夏に入った関東地方。こうなると標高の低い神奈川近郊の山は暑苦しそうでちょっと遠慮したい気分だ。少し遠いところへ行きたい。いつもなら家族をさておき南アルプス、となるのだが毎度そうでは家族にも申し訳がない。そこで浅間隠山が急浮上だ。「なにかのついで」が出来たのだ。行程の短さ故家族でも楽しめるのではないか? 6歳の長女以外はあまり気乗りのしている風でもない家族を半ば無理矢理(?)車に乗せ関越道を目指し夜半10時に出発。今まで何度か丹沢前衛の山に連れて行った事もあり長女は今のところ山に良い印象を持っているようだ。歩きは嫌だけど頂上で食べるお握りが彼女の心を捉えているようだった。

途中寄居PAで仮眠をした後まだ眠り覚めぬ高崎の市街地を抜け倉淵村を二度上峠目指して走る。ようやく目覚めた長女は窓の外に山中の眺めが流れるのを見て歓声を上げる。ややあって妻と二女も目が覚めた。二度上峠直下の浅間隠山登山道入口に車を停めAM6:50、歩きはじめる。肩車した2歳の二女とアマチュア無線機材の入ったザックの重みが肩にかかる。

とっかかりは小さな沢に沿った道、というよりも沢の中を歩く道で長女はざぶざぶと面白がって歩き出したがまだ先が長くここで足をぬらしては、と妻に足場を選ばせるように言う。しばらくは手をつないで飛石伝いに歩いているようだったがなかなか良い足場が無い。妻や私の軽登山靴だと多少濡れても大丈夫だろうが小さなズック靴の長女はすぐにびしょぬれになるだろう・・。ふと振り返ると妻は顔を真赤にして長女をおぶって歩いてきた。おお、20kg以上の娘を・・唖然として、そして脱帽した。

5分程度で小沢を離れると稜線に上がるまでは緩い登りとなる。朝も早い事もあり辺り一帯は森閑として山の匂いが満ち溢れる。ウグイスの声が森にこだまする。どうだいこの深さ、丹沢前衛とは違うだろう、皆ビックリしているだろうな、と想像しながら足を進める。稜線に上がると左手に向きを変え、二度上峠から続く尾根につながった。しばらくは尾根上の平坦地、といった感じの窪地を進む。笹が奔放に伸びており押分けて進む箇所もある。林間から顔を覗かせる山が浅間隠に違いない。登山口からの標高差も500m以下だったのでたいしたこともないだろう、と思っていたが結構登り甲斐がありそうだ。妻と長女、大丈夫かな・・。

(悠々と、浅間山)

急登が始った。妻はともかくも長女はなだめすかしながら登らせるしかない。深い緑のトンネルで滑りやすいざらついた土の道と石ころの道が交錯する。「つかれたー」「もういやだぁ」と言う悲鳴が長女から発せられる。じゃぁここで待っているか、と言うと登るという。テクニック、テクニック。

標高がそれなりにあるせいか林間を抜ける風はひんやりとして心地よい。まもなく山頂の稜線に着くはずだが・・。大きな三脚を持った髭面の人が下りてきた。山頂まであと少しという。ようやく頂上一角の稜線に上り、AM9:10待望の山頂に飛出した。素晴らしい眺め!目前の浅間山が悠々とした裾野を広げていて手を伸ばせば届きそうだ。が、眼下に広がる北軽井沢一体はリゾート地として開発されており、ゴルフ場が醜い傷痕を遠慮無くさらしている。もしも眼下も深い樹林樹海に覆われていたとしたらどんなに素晴らしい眺望である事か・・。こんなリゾート地、糞食らえだ。

鼻曲山、角落山方面、榛名方面、と山並が延々と続いておりその眺めは四周遮るものが無い。うーん、予想通りの、いやそれ以上の眺めだ。子供たちも大はしゃぎ。しばらくアマチュア無線を運用していると、やおら40歳代とおぼしき女性がつかつかとやってきて「うるさいからやめてくれないか」と命令された。その余りの勢いに思わず「はい」と言ってしまった私も私だが、そんなにうるさかったのだろうか・・。今までも迷惑そうな顔を受けたりした事もあったがここまで断言されたのは初めてだった。やはりヘッドホンが必要か・・。

すっかり無線運用の気力を失い、機材をしまう。改めて見回す山頂は静かでのんびりとトンボが飛交い、如何にも夏の風情。確かにこんな静かな山を無線運用の雑音で埋めてしまうのも不愉快な事だろう・・。山頂でのアマチュア無線の運用の大切さは全くの個人的な興味によるものだ。でも物は言いようだろうになぁ・・。ややあって薬師温泉方面から十数人のパーティが到着した。子供たちは手持ちぶさたなのかそちらにに愛想をふりに行ったようで、しきりに「登ってきたの」「偉いねぇ」と言われ鼻高々のようである。挙句の果てにはお菓子を貰ったりしている。ハズカシイナァ、もう。慌てて連れ戻す。上の娘はものおじなく人と接するので親としては嬉しくもあるが鷹揚で少し八方美人なのが気にもなる。下はまだ2歳だがさすがに二女だけあって上と違いすばしっこい。上手く立ち回る術をもっているような、そんな感じだ。まぁいい、どちらもすくすくと育ってくれれば。

(二人ともよく登ってくれた!)

子供達があきてきたのを潮時として下山とする。下山直前に430メガで会津の山に移動しているはずのJI1TLL・須崎さんを呼んでみるが応答無しだ。「山ラン」仲間をコールすると早速JA1KXW・渋沢さん、7N1IAS・中山さんとコールされる。これからは仲間を探すのに430でも一声出してみようか、そんな気分にもなる。

帰路は往路を忠実に戻る。かなりの急な下り坂が続き、えぇー、こんな道を登ってきたの?という感じである。今度は二女を妻がおぶって下りるが、たいしたもんだ・・。再び密かに脱帽する。長女は足にきたのかズルリと足を滑らし、しっかりしてくれよ、という感じだ。足場を指摘しながら、手をつないだり叱咤激励したりて下りる。ようやく平坦地に下り立ち尾根を乗越して山肌を下りる。水音が近づき今朝の沢に戻ってきた。今度は好き放題歩いていいよ、と言うと長女はよろこんで小沢の中を歩き回る。くるぶしまで浸かる沢に、冷たい!と歓声が上がる。そりゃそうだろう、山の水だ。

車に戻る。皆よく歩いてくれた! 妻も、長女も、そして行きは自分の肩の上で、帰りは妻の背中で、二女も・・、どうもありがとう。

二度上峠まで車を進め個々から往復10分の駒髪山まで自分だけ無線ポイントを稼ぎにピストンする。踏み跡の希薄な薮道。帰路に倉淵村の横須賀市の保養施設の温泉泡風呂に立ち寄る。「ようやく旅行にきた気分」と妻も満足そう。日焼けと湯焼け(?)ですっかり赤らんだ一家四人。後は横浜までの長いドライブが残っているだけ。気をつけて、戻りましょう。

(終り)

(登山口6:50−浅間隠山・アマチュア無線9:10/11:10−登山口13:10、浅間隠山1757m、駒髪山1483m)


浅間隠山 
1757m、群馬県吾妻郡長野原町
アマチュア無線運用の記録
50MHz、自作4W機+ヘンテナ、6局、最長距離交信:千葉県香取郡
430MHz、ハンディ機、2局交信
浅間山を眺める大展望台。四周ぐるりと文句ない眺望が楽しめる。人気の山なのでハイカーは多いだろう。

山頂は細長く樹木も殆ど無く陽射はきついが開放的。
駒髪山
1483m、群馬県吾妻郡長野原町
アマチュア無線運用の記録
1200MHz、ハンディ機、1局交信
「山ラン」稼ぎの山。二度上峠から往復10分だが、その実態は踏み跡の希薄な薮道でトゲのある獰猛な植物もありやや苦戦。
山頂には小さな石の祠が鎮座していた。

Copyright:7M3LKF,Y.Zushi、1999/7/29