節刀ケ岳−南アルプスと富士の展望台へ

 (1998/10/25、山梨県東八代郡)


天気予報が的中した。雲一つない秋の朝、山中湖のほとりの有料道路を走る。右手に富士山が大きい。西湖のほとりの根場集落で車から自転車を下ろす。ここに自転車をデポし、河口湖湖畔の大石ペンション村まで移動しそこから歩き出すのだ。

今日の目的は御坂山塊の盟主、節刀ケ岳。御坂山塊はは最高峰の黒岳をはじめ節刀ケ岳、王岳、そして釈迦ケ岳、と気になる山が多い。そんな中、節刀ケ岳は名前の格好良さに惹かれかねてから登りたいと思っていたのだ。盟主の名に恥じぬ尖った姿も素敵だった。御坂は3ケ月前に登った釈迦ケ岳を除いてまだまだ手付かずのエリアだ・・。

ペンション村からしばらく林道を歩きオートキャンプ場を過ぎてから山道となる。傾斜の緩い道で少し枝がうるさい。たんたんと登る。途中の水場はちょろちょろで地面の表面を流れる感じなので手ですくうにはやりずらい。筧かなにかを渡した方が飲みやすいだろう。

気づけば左手に毛無山から十二ケ岳への稜線が目線と同じ高さになってきた。物音のしない静かなコースで、登る人も少ないかと思っていたがしばらくいくと3人ずれに追いつき更に大石峠直下で4人組みパーティに追いついた。大石峠はカヤトの小広い峠で富士山が威風堂々としている。芦川村方面から一人登ってきた。御坂も結構ポピュラーなエリアなのかもしれない。

ここから節刀ケ岳へのコースは昭文社の山と高原地図では破線表示のため多少の心配があったが歩きはじめると実に明瞭なコースだ。小さなピークを幾つか越えていく。おおむね明るい雑木林だが時折暗い杉が混じる。振り返ると大石峠はもう低く節三郎岳とその背後に黒岳が大きくのしかかってきた。

(雪をかぶった南アルプスのジャインアンツ達)

気持のいい尾根歩きだ。 短い急登で鬼ケ岳・十二ケ岳方面からの道を併せると右手に節刀ケ岳が盛り上るように立っている。はやる気持で息せき切って登る。着いた。いい山頂だ。見慣れた「山梨百名山」の山名標識がある。

南アルプスが絶景だった。富士山よりも南アルプスの展望に興味がある。3000mのジャイアンツは皆もう純白の装いだ。右手から北岳、間の岳、農鳥岳、少し離れて飛び出しているのは塩見岳。いずれもその稜線を歩いたのだ・・・。一つ一つのピークの隆起に懐かしさがあった。塩見岳の左手に少し離れて白いのはこの8月に歩いた悪沢岳・赤石岳に違いなかった。長い原生林を登りその果ての稜線では終始強風と霧雨に見舞われた山行だった・・。そしてしんがりは最南端の巨人、聖岳。赤石から少し離れて白い。来年こそは是非登りたい山だ・・。

10月末とはいえ陽のあたる山頂はポカポカと温かい。長袖のラガーシャツ一枚で丁度良い。根場集落で買った缶ビールを開ける。秋晴れと南アルプスの展望が確実にビールの味を何倍にも美味くしてくれる。アマチュア無線では奥多摩大岳山移動のJK1RGA河野さんや小金沢黒岳移動のJS1MLQ川田さんなどいつもの面々とつながる。JL1BWG飯田さんは丹沢の三の塔にいた。丹沢も久しく行っていないなぁ。行きたい山は多いが月1、2回の山行ではなかなかそれが減っていかず逆に増えるばかりだ・・。コンビニ弁当を食べながらのんびりと交信を楽しむ。遠くは新潟県などとも交信出来る。目の前には7月に登った釈迦ケ岳が立っている。三角形のいい形だ。

暫く無線に熱中しているとすっかり山頂には誰もいなくなってしまった。もっと早く切り上げるべきだった・・。慌てて片づけ山頂を後にする。毎度の事ではあるが・・。

鬼ケ岳へは一旦下り金山まで登り又アップダウンをする。途中笹の間を歩く。樹林帯では傾きかけた太陽が樹木の間から差し込み明暗のコントラストをつくる。露岩のある鬼ケ岳からは当初予定していた鍵掛峠への縦走は時間切れが懸念され諦め、直接根場へ下るコースをとる。鬼ケ岳山頂の分岐には鍵掛峠方面の看板しか出ていない。

(富士山が無限の広がりを見せていた・・)

4、5メートル程度のアルミの梯子が現れる。高度感が多少ありゆっくり進む。さらに行けば突然カヤトの原に飛び出した。目の前に何の障害物もなく富士が現れた。無限の広がりだった。さすがにこれだけ見せつけられれば圧倒される。濃紺の西湖、そして青木ケ原の樹海が広大にひろがる。しばらく威圧され動けなくなった・・。秋の西日が暖かい。

急な斜面を雷光形に下りていく。雑木林から一転して植林帯に入り、枯れた沢を渡る。車道を行く車の音が近づき、堰堤わきを通り根場集落に出た。背後に秋の西日を浴びた鬼ケ岳が高かった。御坂は好きな南アルプスの展望も、文句無い富士の展望も堪能出来る、まさに展望台のような山域だ。

さていつもならここで山行終了、となるのだが今日はこれから河口湖湖畔の大石ペンション村まで自転車で戻らなくてはいけない。自転車を山行に取り入れたのは今年からで、車の利用の場合にありがちなピストン山行を避ける事が出来るのが魅力だ。が、今回は思ったほど楽ではない。のんびり走って50分。平地走行が中心だが緩やかな登りもある。さすがに疲れた。山行後にこれは結構こたえる・・。

しかしその後観光地の宿命ともいえる渋滞が待ち受けており、5時間以上も帰路にかかってしまったのは計算外だった。赤いテールランプを見ながらひたすら我慢我慢。ようやく裏道まで出てほっとする。

秋の一日、素晴らしい山で疲れを吹き飛ばし、果てしない帰路で疲れを貯め込む。全く、ご苦労様でした・・・。


(コースと標高:大石ペンション村8:35−水場9:35−大石峠10:15−節刀ケ岳・アマチュア無線11:30/14:05−金山14:20−鬼ケ岳14:40−根場16:15−(自転車)−大石ペンション村17:15、節刀ケ岳標高1736.4m)


節刀ケ岳 1736.4m、山梨県東八代郡芦川村 1998/10/25
無線機:ミズホMX6S+自作8Wリニアアンプ、自作1wSSB無線機(アイテック電子社キット、ビギトラ+1W自作リニアアンプ)、アンテナ:釣竿ヘンテナ
交信局数:18局、最長距離交信:新潟県三島郡、JG0NIY/0(1Wにて交信)
富士五湖と甲府盆地の間、御坂山塊の中心部に位置する盟主的存在。三角形に尖った山頂からは富士山の眺めも素晴らしいが南アルプス展望が素晴らしい。

ロケは決して悪くないと思うのだが1Wでの運用では余り呼ばれなかった。時期が悪かったのか、やはり関東平野は富士の裏側になるので多少遠いのか・・。

(山頂から西方向・鬼ケ岳方面を望む。樹木は北側にやや茂っているが、細長い山頂からは全方向に展望が素晴らしい。)

Copyright : 7M3LKF Y.Zushi, 1998/10/29