奥多摩、大岳山から馬頭刈尾根を歩く

 (1998/3/28、東京都西多摩郡檜原村)



単独行、日帰り。奥多摩のヘソともいえる場所に位置する大岳山から馬刈尾根を辿った馬頭刈山へのルートは前から歩きたいと思っていたコースだった。若干コースが長いがいかにも尾根歩きが満喫できそうな感じだった。

朝一番の御岳山ケーブルで上がろうと早朝の南武線に乗るが接続が悪く御岳山ケーブルは始発の2本後の8時40分発になってしまう。結構公共交通機関をのりついでも御岳山までは時間がかかってしまった。春霞に包まれた山々が眼下に広がる。そののどかな風景にのんびりした気持ちになりかけるが、おっと、今日は行程的に長いのだ。行かなくては。靴紐をしめて歩き出す。気になっていた雪は全くない。

迷路のような山上集落を抜け御岳神社へ向う。バイクに乗った住人達が行き交う。皆一応に礼服など着ている。日が良いのだろうか、どこかで婚礼でもあるのだろう・・。狭い路地を行く。もう4年近くまえ、家族でここを歩いた事がある。今にも泣出しそうな梅雨空の下を御岳から日ノ出山まで歩いたのだ。当時1歳近かった娘ももう今年から幼稚園、あっという間に過去ったこの4年を改めて思ってみる・・。今では下の娘が当時の長女と同じ年齢を迎えようとしている。4年間、家族として確実に足跡を残してきた・・。危なっかしくとも決して消えない足跡・・。私も家内も日々の生活に追われているが改めてこんな場所に来てみるとそんな家族への想いが改めて頭に浮んでくる・・・。

当時家族で入った食堂兼土産物屋の前を通り過ぎて御岳神社の鳥居をくぐる。時間がないので神社は割愛してそのまま左手に大岳山への道に入った。ケーブルで同乗したハイカーの多くは日ノ出山方面に向ったのか、こちらに来たのは数人だけだった。空気が暖かく山は春の気に満ちている。
(残雪の北斜面を行く)

奥の院から鍋割山への尾根コースを右手にわけそのまま巻き道を進む。ジムニーでも通れそうな道幅の立派な道は歩きやすいが山歩きの気分がそがれて若干興ざめではある。左手から沢をあわせ荒廃気味の東屋を過ぎるとほどなく沢を渡り雪が現れた。ここからは北斜面。道も細くなりようやく登山道の雰囲気。雪は腐っているが人が通るところは凍っている。しかしこの陽気ではそれさえも1週間持つかどうか・・。見渡せばまだら模様の残雪。この季節、冬の名残と春の空気がせめぎあいすこしづつ冬が消えていく感じだ。

雪の谷をしばらく行くが尾根を合せると雪は消えじきに奥の院・鍋割山からの稜線道を合せた。山腹を巻く緩い登りに残雪と露岩が交錯する。ほどなく前方にピンク色の大きな建物と昔ながらの山小屋風情の大岳山荘。どうやらピンク色の大きな建物は宗教団体の修練場らしい。こんな山奥に、資材・食料を運ぶにも大変と思うが・・。

残雪の大岳神社から岩まじりの急登り僅かで大岳山山頂。展望は南から西、北へ開け、特に御前山が予想外に大きな裾野で立派だ。地図とコンパスによると御前山のやや奥にあるピークは雲取山のようだった。南にも果てしなく山並が続き、改めて奥多摩の大きさを感じさせる。数人だけだった登山者もじきに2、30人に増え、さすがに人気の山だ。アマチュア無線の機器をセットしコンビニ弁当を広げる。ケーブル駅で買ってきた缶ビールを飲みたいが今日の行程は長いので馬頭刈山にとっておこう。ここで飲むと後の行程に疲れが出てしまうのは以前扇山で経験済みだ。行程が長いので早く山頂を立去るべきだがアマチュア無線に熱中してしまうとついついタイムオーバーになってしまう。毎度の事ではあるが・・。
(三角帽子の大岳山)

案の定遅れて無線を終了し慌てて馬刈尾根を目指す。歩く私の後からマウンテンバイクが追いぬいていく。馬頭刈尾根は雑木と笹が交じり明るく開放的な道だ。こんな道を歩くのは楽しい。自然と口笛でも吹きたい気分。これこれ!この雰囲気!これが楽しいんだよなぁと独り言。快調に歩く。富士見台に上り振り返ると大岳山が特徴的な山容を見せている。山頂の尖りが三角帽子のようだ。

岩登りのゲレンデ、つづら岩では岩の下を巻いて歩く。カチャカチャ・カキーンと金属の音が響く。見上げると若い女性がザイルを巻き岸壁にひっついていた。ペアの登攀者とのやりとりが聞こえる・・。自分は尾根歩きだけでも精いっぱいなのに、もっと高次な困難に挑もうとしている人達。人間はあるレベルに達するとより高みを目指すようになっているのだろうか・・。

岩混じりのアップダウンが続く。楽しいはずの尾根歩きもさすがに距離があるとやはり辛い。鶴脚山からはかなりの急降下となり鞍部から同じ分だけ登りかえす。非生産的なことこのうえない。あそこが馬頭刈山のピークとわかるもののなかなか脚が進まない。汗が滴り落ちる。最後の馬力を出し馬頭刈山の山頂に到着。ああ疲れた。正直バテたな・・。山頂は広く開放的だ。

ここでアマチュア無線の小休止。なによりもここで飲もうと大切に持ってきた缶ビールを開ける。苦みばしった炭酸が喉を焼く感じでしばらくは味が分からない。もどかしく喉を動かすと陶然としてきて大きなため息が出た。

馬頭刈尾根では要所要所で山麓のバス時刻表が親切にもかかっている。山頂にも時刻表がある。16:50分のバスに今ならなんとか間に合うか? よし、ふんぎりをつけ無線を切り上げ何かに急かされるように下山。薄暗い植林帯のなかをぐんぐん高度を下げる。バスに間に合うかな? 山麓のバスは一時間に一本。都会の利便性とは違う。何組かのパーティを追い抜く。ああこりゃかなり無理してるな・・、オーバーペースとは分かっているがかまわずに飛ばす。道は結構な急坂で一歩ごとの振動が体に伝わる。ほどなく軍道の集落の最奥部に出る。バスまであと15分、何とか行けるかな。
(春に満ちた集落。
どこか懐かしい風景・・)

春の雰囲気に満ちた集落。里路は少々わかりずらい。ましてや今みたいに慌てているとバス停への道はどれか、と焦る。簡易舗装の道をぐんぐん下りるとようやくバス停が見えた。しかしそこで腿の上部筋肉が両足ともつってしまった。自分のペース以上に飛ばしすぎたツケが回ってきたのだ。アツツツ・・、だましだましバス停まで歩く。

バス停の雑貨屋で缶ジュースを買いストレッチ。汗をふき、乾いたTシャツに着替えるのとバスがやってくるのはほぼ同時だった。あぁこの調子だと明後日くらいから足が痛いだろうなぁ・・。このところ下山して2日めあたりから程度の差はあれど腿の上部に筋肉痛が残ってしまう。日ごろの運動不足のツケか、歩き方が悪いのか。でも数年前はそんな事を感じなかったからこれはもしかして年齢のせいか? そういえば30歳も中間地点を回る頃誰もが体の衰えを意識するとも言うが・・。

五日市への道は幸いにも渋滞になっておらずバスは快適に走る。久々のロングコースとはいえ、こんな調子では。足を揉みながらバスに揺られる。なんだか情けない話ではある。


(終り)


(コース: ケーブル駅上8:55−大岳山荘10:30−大岳山山頂・アマ無線10:50/12:45−馬頭刈尾根合流13:05−富士見台13:40/13:45−つづら岩14:00−鶴脚山14:40−馬頭刈山・アマ無線15:00/15:45−軍道バス停16:40、大岳山標高1266.9m、馬頭刈山標高884m)


アマチュア無線運用の記録

大岳山

東京都西多摩郡檜原村、1266.9m
1998/3/28 移動者:7M3LKF
自作SSBトランシーバ(1W)
ダイポール(4.5m釣竿使用)
14局交信(50MHzSSB)、最長距離交信: 茨城県久慈郡、7K2IPA/1

山頂は広い。しかし人も多い。奥多摩の代表的な山なのだろう・・。決して無線がしやすい雰囲気ではないかもしれない。
ロケは関東方面を中心に良いのではないだろうか。

馬頭刈山

東京都あきる野市、884m
1998/3/28 移動者:7M3LKF
自作SSBトランシーバ(1W)
ダイポール(4.5m釣竿使用)
7局交信(50MHzSSB)、最長距離交信:茨城県北相馬郡、JE1JHK/1

山頂は広く、南側には展望台もある。大型アンテナも上げられるだろう。あきる野市では最も高い山なのであきる野移動のベストポイントと言えるかもしれない。

大岳山から続く長い馬頭刈尾根の最後のピークで、これを境に尾根は急速に麓に落ちていく。


Copyright:7M3LKF,1998/5/6