地味で静かな山、峰山 - 秋山二十六夜山のはずが・・ 

 (1998/2/28、神奈川県津久井郡)


今回の目的は山梨県南都留郡の秋山二十六夜山だった。古くから二十六夜信仰が行われたという山は歴史もさることながらとにかくロマンティックな名前の山なのでずっと気になっていた。薮っぽい道志の山のベストシーズンは晩秋から早春。前回の高川山での雪が楽しかったのにも味をしめた。憧れの山に行くなら今だ。雪も楽しもう。朝の秋山村を走る。
(残雪と白梅。冬の名残と
春の使者。二十六夜山の
登山口、下尾崎で)

登山口を見落とさぬよう注意して走る。ところが登山口に着きいざ着替えようとするとニッカズボンはあるがニッカホースがない。何と!忘れてしまったのだ。畜生!仕方ない、今履いているGパンにスパッツとしよう。ところが今度は靴だ。雪を想定していたので持ってきたのは皮の登山靴。ニッカホースなくして今履いている薄い靴下にこの靴で歩けるものか・・。今日はどうも出だしから引っかかってしまう。

山麓の民家の庭先にはもう梅が咲いているが登山道に入った途端雪が多い。おまけに腐った雪なので一歩毎にズブッズブッと潜ってしまう。余り人の来ない山なのかトレースはあるにはあるが希薄で頼りない。こりゃ大丈夫かな、と思いながら踏み後を追い、進む。薄い靴下に冷たい雪の感じが伝わってくる気がする。もちろんワックスを塗りこんだ皮の靴なのでそう簡単にしみては来ないはずだ。冷気が靴から伝わってきているのだろう・・。

雪の重みでそうなったのか、倒木も多い。折れた樹木の断面は生々しい。沢を渡る。雪溶けのせいか水量は多い。ゴウゴウという沢音。先行き不安で気が重い。頼りない踏み跡を頼りにしばらく沢をつめたがトレースはその先がない。ここら辺で尾根に登るはずだ。尾根への取り付き点は何処だろう・・。目を凝らす。一面雪に覆われた樹林帯でどこを行ってもよさそうだが自信が全く無い。先達者の踏み跡もこのへんをぐるぐる回った跡があるがその先がないようだった。

改めて登山道が無ければ何も出来ない自分に気がついた。前回の高川山は立派な雪の中トレースがあり、自分はそれを頼りに登っただけのことだったのだ・・。こんなひとけも希な渋い山で、ひとり雪の中を地図を頼りにトレースをつけていくなど私には到底出来ないことだった。山の世界は深い。戻る事を決意する。残念だけど・・。名残惜しく他の方向に踏み跡はないか目を凝らしながら戻る。が、なかった。先達者も結局撤退したのだろうか・・。車に戻りスパッツを外しながら振り返ると二十六夜山が大きい。登る時は山頂部は雲の中だったが今はその頂をあらわしている・・。次回はあのロマンティックな山頂に立とう・・。待っていてくれよ、今度こそ・・。

さしあたって何処か行かなくては。地図を広げ目を走らす。行った事のある山はパス。今からロスタイムなくいけそうな所・・。ふと峰山という名前が目に入った。石砂山の真西だ。どんな山だろう・・。標高570mとは物足りないが代打だから仕方ない。

登山口の大久和は何度も車で通り過ぎた事があったがそこに山がある事にも気がつかなかった・・。大久和の真新しい温泉(町営?)の広い駐車場に車を止める。登山口は民家の横の細い道。この民家にはアマチュア無線の各バンドのアンテナが所せましと立っている。
(静かな峰山の山頂。祠が里山
らしくいい雰囲気だ。)

すぐに尾根にのった。落ち葉のたまった尾根道は枯れた雑木林で気持ちがいい。地味な山、という感じだが以外にも登山道はしっかりしている。登る人が多いのだろうか・・。道なりに高度をあげていくと、いかにも早春の雑木林歩き、という感じで気持ちがいい。木々はくすんだ茶色が主体だが、それが数ヶ月後には緑に変わっていくのだ。

しばらく行けば前方に黒い高まりがありあれが目指す山頂のようだった。急な山肌にとりつきしばらく登る。落ち葉の下は滑りやすい黒い土でズルッといきそうだ。靴の中で薄っぺらな靴下が滑る。登山用の靴下が重要な役割をしていた事を改めて感じたりする。

登り切って平坦な桧の中を歩けば小さな祠のある山頂だった。ここまで45分。小さな山だが静かで雰囲気は悪くない。山頂には誰もいないかと思っていたが石砂山から来たという夫婦が一組。祠の前でランチタイムだった。静かでいい山ですねぇ、言葉を交わす。彼らが去り誰もいなくなった山頂で一人アマチュア無線を楽しむ。湿った、重たい風が吹いているが時折雲の中から陽射も届く。東面が開いた山頂からは対面の石砂山とその麓のゴルフ場に手が届きそうだ。石砂山は稜線から手前が広大なゴルフ場だ。ゴルフってそこまで山を削ってまでするものなのかな・・。

雨粒が落ちてきたので下山を決意。小舟へは階段道で高度をぐんぐん落す。しかし歩きにくい階段で、ないほうが余程足には楽だ。ぱらぱらと雨が強くなってきたので大げさだがゴアの上着を着る。あっというまに集落に下り立つ。ここから車道を歩いて大久和まで戻った。

車に戻りほっと一息。小さいけれど代打というには失礼な、地味で静けさの似合う可愛らしさのある山だった。憧れの二十六夜山は撤退したけど、そのおかげで静かな山に出会えた。こんな事もあるのだな、と思いながら帰路についた。

(終り)

(コース : 大久和 11:25−峰山 12:10/14:15−小舟 14:45 -大久和15:05、峰山標高570m)


アマチュア無線運用の記録

峰山

570m 神奈川県津久井郡藤野町
移動日 移動者 バンド
1998/2/28 7M3LKF 50MHz
リグ アンテナ 交信局数 最長距離交信
自作機、1W (アイテック社キット、ビギトラ100mW機
に自作のリニアアンプを内蔵し出力切り替え式とした。
1W部の終段は2SC1970)
ヘンテナ
(釣竿使用)
10局 埼玉県三郷市、JA0BHH/1
所感
神奈川県東部、石老山・石砂山の真西に位置している。標高が石老山などよりも低いので電波が東方面に抜けるか心配であったが1w+ヘンテナで10局と交信出来た。

山頂は桧の植林に覆われ眺めは東方面に石砂山が望める程度。ただし成長した木なのでアンテナの邪魔にはならなかった。山頂の祠が里山を感じさせた。

静かで地味な山。山麓の大久和には立派な温泉(クアハウス)があり、帰りに立ち寄るのもいいかもしれない。


Copyright : 7M3LKF, 1998/3/20