天城山−薄ら寒い晩秋の盛り上がれない山行

(1998/11/30、静岡県賀茂郡東伊豆町)


冬枯れの道を天城高原ゴルフ場へ向けて車を走らす。ぐんぐん標高を稼いでいくので風景がますます荒涼としてきたように感じられる。これから登ろうとする山稜は白い霧の中に隠れており今日はいかにも寒そうだ・・。氷の粒のような白い霧だ。伊豆と言えば南国というイメージがありそして実際山麓でも蜜柑の樹が橙色に染まっておりいかにもそれらしかった。が、さすがに標高千メートルを超えるこの辺りは違う。まるで枯野の果てを目指して走っているような気分になり今日なぞ山には誰もいないだろうなぁ、などと考える。

窓をぴっしり閉ざした別荘地を走り抜け目指すゴルフ場の駐車場についた。意に反して駐車場には10数台の車が停まっておりおまけに大阪ナンバーの貸し切りバスまでいる。貸し切りバスのパーティは苦手だが、それでも車を出てウォーミングアップなどをしている同好の士を見ていると先程までのグレーな気持ちは消え、さぁこちらも登ろうか、という気分になってくる。山好きは季節を問わずにそこらじゅうに出没するようだ。

今日の目的は天城山。万二郎岳から万三郎岳。季節もすっかり寒くなり、少しでも暖かい場所の山、ということで選んだのだが・・。

ゴルフ場の駐車場下から登山道に入る。平坦で面白味の無い道が続く。今日の山自体はゴルフ場からの周回コースなので標高差も殆ど無く楽なコースだろうとふんでいる。ゴルフ場コースのすぐわきの一段下を進む。コース自体は見えないが時折カコーンという乾いた音が樹林超しに聞えてくる。寒いのにご苦労なことだ。

ようやく急な山腹にとりつき何回かつづら折れを登ると先程の大阪からの団体パーティに追いついた。先を急がせてもらう。更にしばらく進むと傾斜が緩み、濃白のガスに包まれた万二郎岳山頂1330mだった。笹と樹林で展望も効かず広場も無く、いかにも通過するだけでいいですよ、と言っているような山頂だ。それではお言葉に甘えて通過させていただこうか。いや折角だから無線をやるか。ザックをおろすと途端に冷気が体を包む。汗ばんだ背中がこわばる感じ。430メガで移動局一局に声をかけただけで歩き出す。

露岩のある明るい地形に飛出した。晴れていれば万三郎岳が良く見えるはずだろうが黄色い霧の中で視界も無い。コースは一度下りて又登り直していく感じだ。
(ガスがはれ青空が広がり
万三郎岳が目前に。思わず
笑みがもれた。)

今はモノトーンの山だが実は天城山は花の山として有名だ。単に山行に選んだ時期が悪かったのだ。シャクナゲ、アセビなどツツジ科の花が咲乱れる春はさぞや素晴らしい山になるのかもしれない。初夏にはヒメシャラも咲くという。花に満ちて弾む山の眺めを想像してみる。今の陰影の無い山の眺めと比較してみる。どうもしっくりとこない。

少しガスが晴れてきたのだろうか、先程は黄色かったガスもやがて薄れ視界が効くようになってきた。それにしても寒い日だ。ゆっくりと高度を上げていく斜面はブナの大木が林立し、緑色豊かな下草がその足元に生茂る。下草は緑色というよりは黒というべきかもしれない。いかにも太陽をたっぷり浴びています、というふくよかさがある。そんな下草の中に目を凝らせば赤い野イチゴの実が見え隠れし、ようやく南国・伊豆の雰囲気を感じる。先程まで濃かったガスがサーっと晴れ青空が広がる。思わず笑みが漏れた。

少し平坦に歩き再び急登をこなす。万三郎への最後の登りだ。あっけなく登りが終り山頂に飛出した。冷たい北の空遠くにぽっかりと、小さく富士が浮んでいた。

待望のアマチュア無線・50メガの運用。雑木林の中に無理矢理ヘンテナをたてる。 JK1RGA/1(都留市・菜畑山)、JG1OPH/1、7M1XPR/1、JI1TLLなどいつもの仲間にもつながる。万三郎岳は伊豆半島の最高峰。東西両側は海。海上伝播も手伝ってか静岡や千葉などの電波は強烈に入ってくる。自作のトランシーバでの運用はとてもいい気持ちだ。

先程まで少し出ていた太陽も再び隠れてしまった。と同時に急速に体が冷えてくる。慌てて撤収する。ヘンテナのエレメントが木の枝に引っ掛り無理に引いたらアルミパイプが接続部からあっけなく折れてしまった。コンビニ弁当が氷のように冷たい。歯をガチガチ鳴らし、食べながら撤収をする。これからの時期の移動にはストーブトコッヘルが必至かもしれない。

下山は山頂から北に木の枝をつかんで下りるような急降下を続け、長い山腹の巻き道をゴルフ場まで辿る。暗い空の下、じめっとして単調なコースが長い。北斜面の巻き道のせいか辛気臭い。苔むした大きな石がゴロゴロして歩きにくい。たんたんと進む。上の方から野犬だろうか、遠吠えが聞こえ嫌な感じだ。

万二郎岳への分岐に出て、往路と合流。ここから10分で駐車場だった。 振り返るとガスもとれた晩秋のねずみ色の空の下に、万二郎岳から万三郎岳への稜線が思っていたよりも低く連なっていた。うすら寒い空気、今日の空の色のように最後まで盛り上がる事が出来なかった一日。大きく息をついて駐車場を後にした。


(コースと標高:天城高原ゴルフ場8:50−分岐9:05−万二郎岳・アマチュア無線9:40/10:00−1325m峰10:15−万三郎岳・アマチュア無線10:50/13:10−涸沢分岐13:40−分岐14:40−天城高原ゴルフ場14:50、万二郎岳標高1330m、万三郎岳標高1405m)


万二郎岳

1330m、静岡県賀茂郡東伊豆町 バンド,430MHzFM、一局交信 山頂は笹が高く広場も無くのんびり無線、という雰囲気も無い。通過するだけのピークだった。
万三郎岳 1405m、静岡県賀茂郡東伊豆町 バンド:50MHzSSB、20局交信、最長距離交信、茨城県下妻市JA7TKH/1
設備 無線機:自作トランシーバ、出力4W(アイテック電子のキットTRX602ベース)、アンテナ:ヘンテナ 天城連山の最高峰。伊豆でも一番高いピーク。山頂は雑木に覆われ北面のみ展望が開いていたが樹木の茂る季節は展望は閉ざされるだろう。
大きいアンテナは難しいが海上伝播もあり飛びは期待出来そうだ。

Copyright : 7M3LKF, Y. Zushi, 1998/12/16