扇山から百蔵山へ - ビール日和の一日

(1997/5/1、山梨県北都留郡、大月市)

鳥沢駅で下りるのは二年前の高畑山・倉岳山以来。むしむしする日。こんな日は駅前で缶ビールをかうの忘れちゃぁいけない。国道を渡って細い裏道を上がっていく。道が入り組んでおり何度も地図と首っ引きになる。中央高速をくぐり少しづつ高度を稼いでいく。

扇山への登山道は幾つかあるが駅から直接山頂まで歩けるコースを選んだ。ゴルフ場を大きく回り込んでいくコースは長い車道歩きがたまにきずだ。少しピッチを上げて歩くと息がはずんだ。ゴルフ場正門を過ぎた梨の木平からようやく山道となる。固い舗装道とは違い土の道は歩きやすい。

山の神から水呑杉とつづら折れが続く。登るしかない。見上げる上に空が近づいてくるとようやく稜線が近い事が分かる。ほどなく大久保のコルに着いた。コルからわずかに東に進んだ山頂は芝生で広い。ピクニックのおにぎりと水筒が似合いそうな、開放的で楽天的な山頂だ。あぁ。今飲まずしていつ飲む? たまらず缶ビールに手を出す。旨い。今日から五月、ビール日和だ。酔いが回ってきてもうここで大休止したくなる。

(百蔵山からの下山路ではイワツツジが匂うようだった。)
MINOX GTE 38mm F2.8、絞りF3.5AE

迷ったがまだ時間もあるし、予定通り行かなくては・・。しばらく無線運用をした後意を決して予定通り百蔵山へ向かう事にする。

大久保のコルに戻り少し進むと俄然急な下り坂となった。つんのめりそうな坂をぐんぐん下がる。北面の権現山から西に延びる尾根がどんどん高くなっていく。逆方向に登ってくるパーティがすれ違いざまに大きく息をつく。下がるのはいいが百蔵山へは又同じ分だけ登らなくてはいけない。気が重い。それどころか足も重い。扇山山頂で飲んだビールが効いているらしい。妙に足が進まない。尤もビールに関係なく一旦下りてかなり登りかえすこのコースはひいき目にみてもつらいのは肯ける。地図によると300m近く高度を下げ、又200m登りかえすということで、もともと1000mクラスの山での300mの高低差は縦走というよりも二つの異なった山を登る、という感じだ。

最低鞍部あたりでは登山道にかかる木々の枝が奔放に成長しており結構うるさい。右手すぐ下に浅川の集落が手に取るように近づいた。かなり下がってきたのだ。ここで扇山を目指す今日最後のパーティにすれ違った。女性二人づれで、見上げる扇山を前に疲れた表情をしていた。こちらも眼前に百蔵山が颯爽として高い。たまらず休憩とする。

小さな山だけど妙に疲れるな・・。やっぱり暑さに負けて飲んだビールが効いているのかな・・。これからビールは最終ピークで飲む事にしよう・・。

百蔵山山頂への最後の急坂ではむし厚さも手伝いかなり消耗する。ようやくついた山頂はしーんとしてもう誰もいない。午後の一瞬のエア・ポケットのような時間。樹林が多く東西に細長い山頂は丸く広い扇山の山頂とは趣が違う。山頂は陽気のせいか蝿が異常に多くて不愉快。無線運用をしていると軽く10匹以上の真っ黒な大きな蝿がたかってくる。眼下に大月の町が沈んでいる。町の写真を撮ろうとカメラを向けるとその前に蝿がたかりファインダーの中を黒い影が飛び交う。蝿さえいなければ静かで気持ちのいい山頂のはずだ。今日は何かいつもと違うなぁ。
(堂々と扇山・右と
百蔵山・左)

結局1時間静かな山頂には誰も来なかった。

下山には山の神経由ではなく、手近なキャンプ場経由のコースを選らんだ。ツヅジが見事で登山道は淡いピンク色に彩られている。道は余り歩かれていないのか荒れ気味で滑りやすそうなザレっぽい急坂が続く。手がかり・足がかりは少ない。じきに人けのないキャンプ場に出た。管理人小屋を覗いてみる。独りで暇をもてあそんでいた風の管理人にコーヒーをごちそうになる。人恋しいのか彼はぽつりぽつりと話し掛けてくる。百蔵山からの下山路は山の神経由の方が道が良いとの由。淡いピンク色のツツジはイワツツジといい陽気がいいのか例年より少し開花が早いらしい。蝿の異常発生もこの陽気のせいらしい。大月市選定による”秀麗富岳12景”を全部歩いてみるのはお勧めだよ・・。

水が旨いのかコーヒーがとても美味しい。水は山の神から引いてきているとの事だった。空になったカップに管理人が黙ってコーヒーをついでくれた。
(こんなにビール
ばかり飲んで
いいものか・・)

キャンプ場から少し行くともう民家が並び始める。中央高速をくぐる。葛野川と桂川を高い陸橋で渡る。振り返ると扇山と百蔵山が仲良く堂々と並んでおり、あぁ今日はあそこをずっと歩いたのか、と感慨が深かった。

猿橋駅前の国道沿いの酒屋で冷たい缶ビールを買うのは忘れない。すぐにホームにきた高尾行きにのりこみ汗をかき始めた缶ビールを開ける。再び、今日はビール日和だ・・。冷房が少し効いた車内は快適だ。揺れる中央線の車窓から扇山と百蔵山が遠ざかった。

(終り)


(コースと標高:鳥沢駅8:35−梨の木平9:30/9:40−水場10:05−扇山・アマ無線11:00/12:40−百蔵山・アマ無線14:30/15:30−キャンプ場16:10/16:30−猿橋駅17:10、標高 : 扇山1137.8m、百蔵山1003.4m)


アマチュア無線運用の記録

扇山

山梨県北都留郡・大月市、1137.8m
1997/5/1 移動者:7M3LKF
PICO6(1W)
釣竿ヘンテナ
16局交信(50MHzSSB)、最長距離交信:千葉県四街道市、JE1PSU

山頂は樹木も少なく広くて開放的。ハイキングにきてここでお昼にするのにはもってこいだが風の強い日などは砂が飛びまわり辟易するかもしれない。日当たりは「満点」なので季節によっては暑そう。私が登った日は霞みがちで展望は余り得られなかった。

百蔵山

山梨県大月市、1003.4m
1997/5/1 移動者:7M3LKF
PICO6(1W)
ワイヤーダイポール
4局交信(50MHzSSB)、最長距離交信:神奈川県横須賀市,7K3EUT/1

木々が点在する東西に細長い山頂はお隣の扇山とはかなり雰囲気が違う。私が登りついた時はあらかた人々が下山した後だったのだろうか、もう誰もいなく祭りの後のようにしーんとしていた。

無線は簡易な設備で短時間しか運用しなかったが扇山と大差ないロケーションではないかと思う。